解1-7-3:想いの奇跡

 

 …………。


 ……って、何を考えてるんだ、俺は!


 最期の最期まで諦めちゃダメだ! まだ終わってない! せめて一矢報いないと俺自身の気が収まらない!


 長槍を握る力が残ってないなら、拳をフーリエールの顔面に食らわせてやる!




 ――と、その時!


 不意に俺の服の胸ポケットに温かさと強い力を感じ、思わずそちらに視線を向けてみる。


「っ!? ……えっ?」


 ポケットの隙間から黄金色の光が溢れている。


 何があるのかと思って取り出してみると、それはバス停でチャイが俺に持たせてくれたクシだった。それが今、不思議と光を放って輝いている。


 まるでクシ自身に意思があり、自らを使って戦えと鼓舞されているかのようだ。



 なぜこんなことが起きているのかは分からない。それでも何か理由を付けて説明するなら、きっとそれは奇跡――。


 自然と俺はクシを握り締め、祈るような気持ちで叫ぶ。




「――ラプラスター、道具ツール変換!」



 直後、クシは黄金色の光に包まれたまま粒子の塊となり、さらにそこから神風のようなものが解き放たれた。その何者も寄せ付けない神秘的で強大な力は、剣を振り上げているフーリエールを遠くへ吹き飛ばす。


 そして気付けばクシが『光の剣』へと置き換わっている。


 それを握り締め、掲げているラプラスター。コックピット内には連携コンボが発生した時のアラームが鳴り響き、ディスプレイも点滅している。


 しかもそれとともに俺の体から痛みが消えていき、体力も回復しつつある。



 ……あぁ、体の芯から温かさを感じる。心地良くて活力もみなぎってくる。自信と勇気と興奮に満ちて、今ならどんな相手にも負けないような気がする。



 そんな中、チャイがディスプレイの中心に映し出され、目を丸くしながら話しかけてくる。


『ヤッ……くん……? 何が起きたの……?』


「俺にもよく分からない。ただ、チャイからもらったクシが不思議と輝いて、それを道具ツール変換したらこうなった」


『えっ? あのクシがっ!? でもあれって普通のクシだよっ?』


「――ティナさん、これはどういうことですか?」


『わ、私にも詳細は不明です。把握していない現象が発生しました。ただ、道具ツール変換もそうですが、ラプラスターは操縦者の『心』に強く依存するシステムを採用しています。ヤスタケの想いが何かの力を呼び起こしたのでしょう』


 ディスプレイの隅に映し出されているティナさんは、信じられないといった様子で呆然としていた。精神オペレーティングシステムである彼女にも分からない現象なら、俺たちにだって分かるはずもない。



 ……あっ! そういえば、今回の道具ツール変換は4つ目だってことをすっかり忘れていた。



 ティナさんの話だと現段階で変換できるのは『3つか4つ』って話だったから、ギリギリでうまくいったということか。



 俺の最後に残った精神力がそれを成功させてくれたのかな……。



 フィルさんには変数として例に出したけど、これはまさに追い詰められて発揮された火事場の馬鹿力のようなもの。あるいはクシに宿っていたチャイの想いが何かの力を呼び起こしたのか?


 いずれにしても結果オーライ。少しは逆転の目も出てきたかもしれない。


「そうだっ、チャイ! ラプラスターの能力値はどんな状況になってる? コックピット内には連携コンボが発生した時のような反応が出てるんだけど?」


『嘘ッ!? 全能力値が200%もアップしてるっ! しかも自己治癒能力まで強化されてるから、ダメージが物凄い勢いで回復してる!』


 声を裏返すほどに驚愕きょうがくしているチャイ。さらに間髪を容れずにショーマが報告をしてくる。


『ヤス兄、破損箇所もどんどん修復されていってるよ! すげぇっ!』


 チャイとショーマの話を聞いて、ようやく俺は痛みが消えていったり自分の体力が回復したりしていることを納得した。


 ラプラスターにそういう変化が起きているから、精神の同期シンクロニズムをしている俺も癒されていってるんだ。


 この現象は導きの欠片ガイドコアを手にした時とよく似ている。何か共通点や関連性でもあるのかな……。


『ヤスタケ、これも連携コンボだと思います。ラプラスターがその反応を示しているのが何よりの証拠です』


「でも、道具ツール変換をしたのはひとつだけですよ? それとも前に変換していた3つの道具ツールのどれかが関連しているとか?」


『非常にまれなことですが、単独の道具ツールでも連携コンボが発生することがあります。理論上ではその設定が存在することは私も認識していましたが、その確率は限りなくゼロ。ですからまさか実際にそれが起きるとは思っていませんでした。まさに奇跡です』


「じゃ、この連携コンボの名前は『奇跡の剣』にしましょう。ティナさん、データベースにしっかり登録しておいてくださいね」


『承知しましたっ!』


 ティナさんの声は明るく弾んでいた。みんなの表情もほんの少し前までとは打って変わって晴れやかだ。


 全員の志気が高まり、空気が勢い付いているのを実感する。



(つづく……)

 

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