解1-7-5:引導を渡す一撃!
確かに変数なんてない方が戦略が立てやすいし、展開や戦果も計算しやすい。確実に思った通りの力を発揮できるという点でフーリエールは優れている。しかも想定外の事態も起きにくいから、限られているリソースを最適に配分できる。
結果として通常時の性能において、フーリエールはラプラスターよりも各数値が高く出るというわけだ。
変数はいつもプラスの効果をもたらすとは限らない。思いがけない苦戦を強いられることだってある。その一方で誰もが想定していない力を発揮する可能性も秘めている。
特にラプラスターに関して言えば、ティナさんや俺たちが力を合わせて操縦するという『システム』が分かりやすい変数だろう。
それぞれが自分の役割を最大限に果たせれば素晴らしい力を発揮できる反面、意思疎通に
でも変数としては『それ以外の要素』の方が遙かに大きいと俺は思う。
――それは『想い』。
負けられないという気持ち、誰かを守りたいという心、諦めないという意思、未来への希望――そういった様々な『想い』こそがラプラスターにおける最強の変数なんだ!
そんな俺の叫びにしばらく沈黙していたフィルさんだったけど、やがて負けじと全てを振り払うかのように覇気を放つ。
『私とフーリエールがラプラスターなんかに負けるものかぁあああぁーっ!』
あらためて剣を握り締め、フーリエールがこちらに真っ直ぐ突進してくる。
ただ、フィルさんは完全に頭に血が上っているのか、その動きに何の工夫もなく突っ込んでくるだけ……。
当然、それを俺は闘牛士の
『なぜ当たらないんだっ? 当たれっ! 当たれぇええええぇーっ!』
「無駄ですよ。動きを完全に見切っていますから。それに冷静さを失っている今のフィルさんの攻撃なら、動きが単調で読みやすいですし。避けることくらい造作もないです』
『くそっ、くそっ、くそぉっ!』
未だに無作為に剣を振り回し続けているフィルさん。その稚拙な動きは自棄になってやっているようにしか見えない。俺が瀕死状態にまで追い詰められた時に感じた畏怖の空気は今や微塵も漂っていない。
こうなると、この辺で引導を渡してあげた方が良いのかもしれないという気がしてくる。ゆえに俺は決着をつける意思を固め、攻撃を避け続けつつ彼に話しかける。
「まだ納得できないなら、剣の攻撃も食らってあげましょうか? もちろん、その一撃だけでは今のラプラスターには致命的なダメージにはなりませんけど。そしてそれが何を意味するか、フィルさんには分かりますか?」
『黙れっ、黙れっ、黙れぇえええええぇっ!』
「――つまり、俺は
『っ!?』
俺は瞬時に間合いを詰め、電光石火の動きで『光の剣』を下から上へと振り上げた。それによってフーリエールの握る剣を遠くへ弾き飛ばし、そのまま空間に円を描くように『光の剣』を操って最終的に正面に持ってきて構える。
さらにそれと平行する形で相手に向かって突進していく。
眼前に迫るフーリエール。1秒ごとに距離は縮まり、俺は切っ先をその胴体の中心からやや左に向けたまま交差する瞬間を迎える。
「突きぃいいいいいいいぃーっ!」
空間の中に真っ直ぐな光の軌跡を描くラプラスター。
直後、耳をつんざくような衝撃音とともに、その周囲にはフーリエールのボディの破片が飛び散ってダイヤモンドダストのようにキラキラと輝いていた。
俺の握る『光の剣』はフーリエールの胴体を貫き、その傷口の周囲もろとも吹き飛ばしたのだ。もちろん、力を加減したし、切っ先が当たる位置も配慮したからしっかり原形を留めた状態でいる。
そもそも完全に破壊してしまったら、操縦者のフィルさんが死んでしまう。俺は彼の命を奪いたいわけじゃない。
いずれにしてもこれで決着は付いた。もはやフーリエールはすぐには動けないはずだ。
「――勝った!」
俺はひと息をつくと、振り向いてフーリエールへゆっくり近付いていった。そして沈黙したままの機体を静かに見下ろす。
激しいボディの損傷とあちこちで発生しているスパーク。当然ながら破断面や内部のパーツは
自分の攻撃でこうなったのかと思うと、やっぱりその力に末恐ろしさを感じる。
すでに少しずつ自己修復機能が働いているみたいだけどスピードは緩やかで、満足に動けるようになるには最低でも数日はかかると思う。
(つづく……)
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