解1-6-6:圧倒的なフーリエールの強さ
もっとも、いずれの数値も定常状態での平均値に過ぎないわけで、瞬間的にはもっと大きな値が出たり劣る部分が生まれたりといった波がある。その点には注意しておかなければならない。
いずれにしても、こちらとしては相手の攻撃をうまくかわしたり耐えたりしつつ、一瞬の隙を衝いて攻撃を叩き込まなければ倒すのは難しいかもしれない。
となると、無理に仕掛けない方がいいだろうな……。
基本のスタンスは防御重視で、少ないチャンスに全力を注ぎ込むという戦略が良さそうだ。
「……えっ? 不意にフーリエールがこちらに向かって突進してくるっ!?」
浮遊しながらにしては速すぎる動き――。
俺は慌てて長槍を握り締め、繰り出されるフーリエールの剣による攻撃をなんとか受け止める。
「ぐっ……っ!」
腕に重さと衝撃を感じる。剣を操るスピードも相まって、一瞬の攻撃力は想定以上に高まっている。あんな一撃をまともに食らったら、ラプラスターのボディは致命的なダメージを受けてしまうことだろう。
しかもフーリエールは続けざまに剣での攻撃を仕掛けてくる。俺としては防御重視どころか受け止めることだけで精一杯だ。カウンター攻撃を繰り出す隙なんて見出せない。
フーリエールがこれほどまでの強さだったとは……。
俺が焦りと戸惑いを抱えている中、フィルさんから音声のみの通信が入る。
『なかなかやるじゃないか、泰武。こちらの衝撃力も自然に受け流せているし、なかなかの戦闘センスだぞ。データ上でも私の思っていた以上に各数値が高く出ている。確かにキミが言ったように変数を考慮して戦う必要がありそうだ』
「そ、そりゃどうも……」
『まぁ、これくらいはやってもらわないとな。呆気なく終わってもつまらない』
フィルさんはなんだか楽しそうな雰囲気を漂わせている。余裕も感じられるし、完全に遊ばれている気分だ。
ただ、彼がそういう気持ちになってもおかしくないくらいに相手は強い。
断続的に仕掛けられるフーリエールの猛攻。俺としては防戦一方にならざるを得ない状態となっている。接近戦では明らかにフーリエールの方が実力が上だ。
間合いを考えても剣と長槍ではこちらが不利。入り込まれてしまったら、本来の能力を発揮しにくい。もう少し距離を取って、長槍が優位な間合いで戦わないと。
――くそっ! フィルさんはそのことを理解しているから、急速に間合いを詰めて接近戦に持ち込んだに違いない。
彼はお互いの武器を見比べて、瞬時に特性を理解して攻撃の判断をしている。俺の戦闘センスを褒めていたけど、圧倒的に彼の方が上じゃないか。そう思うとなんだか嫌味に感じてくる。
「うぉおおおおおおぉーっ!」
俺は長槍で剣を受けたまま、力で押してフーリエールを弾き飛ばした。
おのずとラプラスターとフーリエールの間には空間が生まれ、優位な間合いはこちらに移る。あとはこの距離をなるべく維持して
『甘いぞッ! 泰武っ!』
フーリエールの動きが止まった瞬間、彼は背中側から誘導弾のようなものを乱射した。相手を押し込んだ体勢でいる俺にはそれらを回避する暇がない。
完全に虚を衝かれたというか、見事なカウンター攻撃を繰り出されてしまう。
目の前に無数の弾が迫る! もはや俺には
「ぐぁああああああぁーっ!」
一瞬、全身に受けた痛みで意識が飛びそうになった。目の前は真っ白になって呼吸もうまく出来ない。額では脂汗が吹き出している。
――と、呆然と顔を上げると、そこには剣を繰り出して間近に迫るフーリエールの姿が。
速い、速すぎる! 次の攻撃に出るまでの間隔も動きも判断も!
「っ!? がふっ! あ……ごはっ……ぁ……」
胃液が逆流し、否が応にもそれは外に吐き出された。口の中に苦さと酸っぱさが広がり、喉の奥に絡んで呼吸もままならない状態となる。
腹部には激痛が走り、その部分から力がどんどん抜けていくような錯覚がする。目の前が霞み、指一本すら動かすことが出来ない。こうなると意識を失ってしまった方が楽なんじゃないかとさえ思うけど、なぜかそうならないのが恨めしい。
あぁ、倒れ込んで体を地面に預けたくても、周りに何もなくて浮遊している状態だとそれも
コックピット内に激しく響き続ける警告音と点滅する赤いランプ。辛うじて視線をディスプレイに向けてみると、ラプラスターのボディはフーリエールの剣によって貫通されてしまっているのが映し出されている。
あはは……そりゃ腹の辺りが痛いわけだ……。
(つづく……)
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