解1-6-3:停戦交渉決裂

 

 そんな俺に対し、フィルさんは鼻で笑って歯牙にも掛けない。


『こちらとしては最初からその変数も想定して対応すればいいだけのことだ』


「実際に戦ってみればフィルさんにも分かると思いますよ。俺はラプラスターの可能性を信じてますから」


 つい俺はフィルさんを挑発するような言い方をしてしまった。反論しないままなのもちょっと嫌だったし、否定され続けて悔しい気持ちもないわけじゃなかったから。


 するとコックピットの隅にいつくかのディスプレイが現れ、指令室のみんなが俺の援護射撃をしてくれる。


『そうだそうだ! ヤス兄の言う通りだ!』


『ラプラスターの底力を示してやれ、ヤス!』


『私はヤッくん自身の『可能性』も信じてるよ!』


 3人から口々に発せられる言葉に、俺は温かさと溢れてくる勇気を感じていた。


 それに対して通信の向こう側では、フィルさんがいつになく不快感をあらわにする。空気を通して苛立いらだちが伝わってくるほどに。


 まるで彼の逆鱗に触れたかのような感じだ。どのタイミングで何がそんなにも気に障ったのかは分からないけど、俺に対する敵意と憎悪が膨れあがったのは間違いないと思う。


『……下らん! 下らん下らん下らんッ!! 泰武のバカモンがっ!」


「え、えっと……フィルさん、なぜそんなにイライラしてるんですか?」


『うるさいっ! お前はもう少し賢いヤツだと思ったのだがな! どうやら私の買い被りだったようだ! ……もはや交渉による平和的な解決は望めそうにない』


「ちなみにですけど、どうすれば戦闘を回避してもらえるんですか? 俺たちとしてはフィルさんが退いてくれるなら、特に何も要求することはありませんけど」


 俺たちとしては明確に彼と対立する理由はなさそうだし、戦ったところで得られるものは何もない。争いなんかない方が良いに決まってる。


 でもそんな想いとは裏腹に、彼は非情にも冷たく言い放つ。


『残念だが私には無条件で退く気はない。――だが、お前たちがこれから私の提示する3つの条件を全て呑むなら戦わずにいてやってもいい』


「一応、その条件とやらを聞かせていただけますか?」


『ひとつ目はラプラスターおよびその搭乗者の全員が私に絶対の忠誠を誓い、支配下に入ること。ふたつ目は私の命令に決して逆らわないこと。そして3つ目はお前たちの持っている導きの欠片ガイドコアを全て私に差し出すこと。そもそも私はそれを手に入れるため、お前たちに接触したわけだからな』


「なるほど、目的は導きの欠片ガイドコアだったんですね……。だったら一緒に夢幻魔むげんまを倒しませんか? その方が確実性が高いし効率もいいと思いますよ?」


導きの欠片ガイドコアをひとつたりともお前たちに渡すわけにはいかない。私には全ての導きの欠片ガイドコアの力が必要なのだ』


「インフィの位置を知るためなら、独り占めする必要はないじゃないですか。その目的の時だけ合わせればいいんですし。それにインフィを倒すなら、なおさら俺たちが協力した方が――」


 ――と、俺が話している途中でフィルさんが小さく息を呑んだような気がした。


 今の言葉の中に何か気になることでもあったのだろうか。少なくとも俺は当たり前の話をしただけだと思うんだけど。



 …………。


 ……だとすると、思い当たるのはやっぱり導きの欠片ガイドコアの力についてだろうな。あれだけフィルさんが執着していることからも、インフィの位置を示す以外の用途があるのかもしれない。



 まぁ、導きの欠片ガイドコアは強大な力を持つ夢幻魔むげんまのエネルギー源になっているわけだし、何か特殊な能力を秘めていたとしても不思議じゃないか……。


 そしてフィルさんの反応から察するに、彼は俺たちがそのことについて何も知らないと気付いたんじゃないだろうか? そう考えると色々と合点がいく。


 そんな感じで俺が脳内で情報を整理していると、フィルさんが気を取り直して問いかけてくる。


『で、お前たちは私の提示した条件を呑むのか?』


「俺の独断と偏見になっちゃいますけど、それは無理ですね。みんなに相談するまでもないです」


『……だろうな。やはり時間の無駄だったか。ならば実力をもってお前らを排除することとしよう』


 ため息混じりに彼はそう言い放つと、即座に通信を切った。それっきりうんともすんとも言わなくなる。試しにこちらからアクセスを試みても途絶したままで、応えてくれそうな気配はない。


 それどころか空間に漂っているフーリエールは静かに各パーツが動き出し、変化の兆しを見せている。おそらく戦闘形態バトルモード転換チェンジオーバーしているのだろう。



(つづく……)

 

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