解1-7-6:借りは返した!

 

 …………。


 ……フーリエールの状態をこうしてあらためて見ていると、フィルさんが本当に大丈夫なのか不安になってきた。


 ゆえに俺はダメージ関係の情報を担当しているショーマに詳しい情報をいてみることにする。


「ショーマ、フーリエールの状況を分析して結果を教えてくれ」


『了解っ! ちょっと待ってて――』


 ショーマは得意気な顔で親指を立てながら返事をした。それから程なく詳細を報告してくる。


『フーリエールは防御力が最大値の3%までダウン。耐久力は残り10%程度かな。しばらくは戦うどころか、満足に動けないはずだよ。ラプラスターのように奇跡でも起きない限りはね』


「フィルさんの生体反応はどうだ?」


『えっと……うん、大丈夫。生きてるよ。体力は20%以下まで低下しているけど、命の危機に至るまでにはなってないね。それと精神にかなりのダメージを負っているのは確かだけど、意識はあるみたい』


「分かった。教えてくれてサンキュ!」


 フィルさんが無事だという確認が取れ、俺は心の中で安堵あんどした。


 もし状態が深刻だったら、助け出して治療をするくらいの意識でいたから。いくら敵意を持って向かってきた相手でも、そのまま見殺しにするなんて俺には出来ない。


 みんなも救出することに反対しないだろうし、例え反対されても俺は押し切る気でいる。


「――さて、と。フィルさん、聞こえていますか? 今回は俺の勝ちです」


 俺は彼に向かって真摯な態度で話しかけた。決して彼をさげすむことも自分が有頂天になることもない。それが力を尽くして正々堂々と戦った相手に対する敬意と礼儀だ。


 相変わらず映像情報はこちらからの一方通行で、あちらからは音声のみの通信しか入ってこない。


『……はぁっ……はぁっ……。さっさと……トドメを……刺せ……っ!』


「いいえ、それはしません」


『なぜだっ?』


「借りがあるからです」


『借り……だと……?』


 当惑したような声を漏らすフィルさん。その反応から察するに、どうやら本当に心当たりが浮かんでいないらしい。


 聡明な彼にも意外に鈍いところがあるんだなぁと俺は心の中でクスッと微笑みつつ、言葉を続ける。


「さっきフィルさんは動けない俺に対して『部下になれば命を助けてやる』と提案してきました。経緯や内容、思惑などはどうであれ、即座にトドメを刺さなかった。これは見方によっては借りを作ったようなものです」


『っ!?』


「だから今回はその借りを返すという意味で、俺はこのままこの場から去ります。今のフーリエールの状態だと当分の間は追ってこられないでしょうから、ラプラスターの姿をロストして今回の戦いは終わりです」


『私に生き恥を晒せと言うのか!』


「どう捉えるかは自由です。少なくとも俺は生きていることが恥なんかじゃないと思います。それにそもそもフィルさんの命を奪うつもりなら、フーリエールを粉々に破壊するような一撃を加えてますよ」


『…………』


 今まで敵意と怒りに満ちていたフィルさんが不意に沈黙した。俺の言葉を頭の中で反芻はんすうし、じっくりと考え込んでいるのかもしれない。


 そしてその間のおかげか彼は少し冷静さを取り戻し、静かに口を開く。


『甘い……その甘さが命取りだ。次に出会った時こそ、私はラプラスターを完膚かんぷ無きまでに叩きのめしてやる』


「俺たちだって簡単にやられるつもりはありません。ただ――」


『……っ?』


「ただ、いつかはフィルさんと分かり合えて、一緒に戦える時が来ると俺は信じてます。カチンと来る瞬間もありましたけど、基本的には気が合いそうな予感がするので」



 これは嘘偽りのない俺の気持ち――。



 きっと出会う形が違っていたら、良い友達同士になっていたんじゃないかという気がしている。魂レベルで波長が合うというか、話していて堅苦しさを感じないから。


 俺は通信の向こう側にいるフィルさんの姿を曖昧ながらも想像しながら、満面に笑みを浮かべる。


 それに対して彼は即座に声を尖らせる。


『ありえない! 共闘などありえてたまるものか!』


「でもフィルさんは俺を気に入ってくれていたじゃないですか。俺も今回の戦いを通じて実はシンパシーを感じたというか、少しだけフィルさんが好きになったかもです」


『なっ!? なななななっ!』


 フィルさんは大袈裟おおげさなくらいに取り乱していた。


 乱れた息遣いや髪を振り乱しているような物音から、狼狽うろたえているであろうことが伝わってくる。もしかして照れているのか?


 だとすると意外に彼は外弁慶なタイプで、親しくなったら内気な感じなのかも。


「それじゃ、フィルさん。いつかまた。次に会う時は戦わずに済むことを祈ってます」


『ま、待てっ、泰武っ!』


 慌てた口調で俺を呼び止めるフィルさん。そしてその直後、不意に俺の目の前の空間に新たなディスプレイが開いて、どこかの様子が映し出される。



(つづく……)

 

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