解1-2-2:車内に起きた変化

 

 おそらく何かの情報の処理や演算などをすると、端から見て分かるようにそういう現象が起きる仕組みになっているんだろう。確かにそうした点はコンピュータみたいだ。


 もちろん、ティナさんの外見は俺たちと同じ人間そのものだけど……。


「緊急事態で時間がなく、カナウが操縦していた移動機械と性質が適合するか一か八かの賭けだったのですが、無事に転換チェンジオーバーが出来たようです。いえ、むしろ幸運なことに相性はかなり良かったみたいです。性能が標準値よりも75%上昇という状態になっています」


「操縦というとなんだか堅苦しいな。オレとしてはやっぱりバスに対しては『運転』という方がしっくり来るよ。今だって外から見たら、バスみたいな形は保っているんだろ?」


「はい、戦闘形態バトルモード以外は基本的に『バス』というものの形状を踏襲とうしゅうした姿になっています。大きく変化したのは内部だけです」


「そっか……。もっとも、戦闘ロボットになってしまったのなら、今後はやっぱり『操縦』って感じになりそうだな。分かった、オレもその呼び方に慣れていくことにするよ」


 カナ兄の言葉に対してティナさんは小さく頷いた。


 確かに精神オペレーティングシステムである彼女にとっては戦闘ロボットもバスもカテゴリ的には同じ『機械』であって、だからこそ『操縦する』というイメージの方が強いのだろう。




 ――うん、こうしてティナさんの話を聞いて少しずつ色々なことが把握できてきた。もちろん、想像の範囲を超えた物事に関しては『そういうものなんだ』と受け入れるしかないけど、とっかかりが何もないよりは良い。


 例えば、真っ暗闇の中で何もなしに彷徨さまよっていた状況で、なんとか1本の棒を手に入れたみたいな感じ。それを持って突くことで、感触などから足下や周囲の様子をなんとなく察することが出来るみたいな。


 ゆえに理解をさらに深めるために、俺はティナさんにほかのことについても問いかけてみる。


「ところでティナさん、あなたがラプラスターの精神オペレーティングシステムということは分かったんですが、どこから来てどういう存在なのかとか、もう少し詳しく話を聞かせてくれませんか?」


「承知しました。ただ、今は悠長に話をしている場合ではありません。もうすぐ夢幻魔むげんまが来ます。必要事項の伝達を優先させ、それ以外の情報交換はヤツを倒してからにしましょう」


「えっ? む、夢幻魔むげんまを倒すといっても、俺たちに何が出来るんですか? やれることがあるとして、何をすればいいのかも見当が付かないし……」


「この場にいる一人ひとりが『起動キー』になり得るものを持っているはずです。まずはそれを使ってラプラスターの力を引き出し、戦闘形態バトルモード転換チェンジオーバーさせましょう」


「起動キー?」


「ヤスタケであれば、上着の内ポケットに入っているカードのことです」


「内ポケットに? あっ、それってもしかしてIC乗車券のことですか? でもこんなの単なる――えっ?」


 俺は内ポケットに手を伸ばしてゆっくりそれを取り出してみると、なんとその姿は見慣れないカードへと大きく変容していた。


 確かにサイズや厚みはいつもバスや鉄道などを利用する際に使っているIC乗車券とほとんど同じ。ただ、表は全面がディスプレイに変化し、そこには俺の顔写真や名前などが表示されている。


 また、画面に指で触れるとその度にキーボードや何かのデータなどが次々に表示され、さながらコンパクトで簡易的なスマホといった印象を受ける。


 一方、裏には何かの差し込み口がいくつかあるけど、今のところどういう機能があるのかは分からない。いずれにしても俺のよく知るIC乗車券とは全く違うものになっているのは確かだった。


 バスの車内だけじゃなくて、まさかこんなところにも変化が起きていたとは……。



(つづく……)

 

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