解1-3-8:初戦を終えて

 

 いずれにしても図星を指された俺は何も言い返せず、恨みがましくにらみ返すことしか出来ない。


 今後しばらくはこのことでからかわれるかも――と思っていた矢先、不意にショーマは真顔になって穏やかな瞳を俺に向けてくる。


「でもさ、ヤス兄の戦う姿はマジで格好良かったぜ。素直に尊敬する。それにピンチになったのに大逆転なんて、胸アツの展開だった」


「……そっか。まぁ、今回は運が良かっただけだよ」


「運も実力のうちだって。結果オーライ。もしそれで不満なら、次は余裕で勝てよな!」


「あぁ、なんとか頑張ってみる!」


「…………。つーか、姉ちゃんを悲しませたら、僕はヤス兄を絶対に許さないし」


 ショーマはうつむきながら小声で何かを呟いた。


 ただ、それは独り言だったのか、あるいは何かの愚痴だったのか、ボソボソとした口調とかすかな声量だったこともあってその内容が判別できない。


 ゆえに俺は首を傾げながらき返してみる。


「ショーマ、今、何か言ったか?」


「っ!? ……は? 空耳だろ。しっかりしてくれよ、ヤス兄」


 呆れ返った顔で溜息ためいきをつくショーマ。その冷静な反応を見る限り、何かを誤魔化しているようには感じられない。ということは、コイツの言う通り俺の空耳だったのかな?



 もっとも、真相なんてどうでもいいんだけどさ……。



 そんなことを思っていると、今度はティナさんが穏やかな笑顔で話しかけてくる。


 ……そういえば、彼女の笑っている姿を見るのはこれが初めてかもしれない。そこには大人びた色気と美しさを感じ、思わず俺は見とれてしまう。


「ヤスタケ、お疲れ様でした。ラプラスターはすでに通常形態デフォルトモードへ移行済みです」


「ティナさんこそお疲れ様です。それで早速ですけど『あの欠片』について教えてもらえませんか?」


「まずは少し休息をとりましょう。ヤスタケはもちろん、ほかの皆さんも疲れているでしょうから。当面の間は敵の襲撃もないでしょうし、もうすぐ時空ディメンション跳躍ワープのための動力蓄積チャージも完了します。そうなれば、ほぼ安全な場所へいつでも移動できるようになりますので」


「あっ! 時空ディメンション跳躍ワープをしてこの時空を抜け出せば、夢幻魔むげんまは位置情報をロストして追ってこなくなるとかって言ってましたっけ」


「その通りです」


「でもラプラスターは夢幻魔むげんまとの戦いでエネルギーを消費してしまってますよね? 動力蓄積チャージには影響が出ていないんですか?」


 俺はティナさんに疑問をぶつけた。


 そもそも俺たちが夢幻魔むげんまと戦わざるを得なかったのは、時空ディメンション跳躍ワープに必要な動力蓄積チャージが出来ていなかったから。



 確かに『あの欠片』のおかげでラプラスターの破損した部分は瞬時に修復されたけど、エネルギーまで回復しているようには感じない。


 また、戦闘が終わってから動力蓄積チャージを再開したにしても、この短時間で時空ディメンション跳躍ワープに必要な量を確保できるとも思えない。


 そんなにすぐに溜められるなら、夢幻魔むげんまが俺たちのいるところへ到着するまでに動力蓄積チャージが完了していたはずだし。


「戦闘に使うエネルギーと時空ディメンション跳躍ワープに使うエネルギーは性質が異なります。独立した別物とお考えください。エンジンを動かすのはガソリン、モーターを動かすのは電気といったことをイメージしていただければ分かりやすいかもしれません」


「なるほど! だから戦闘中も時空ディメンション跳躍ワープに必要な動力蓄積チャージは続いていて、もうすぐそれが完了するわけですね」


「そういうことです」


「それなら休むのもいいですね。俺は『あの欠片』のおかげで元気を取り戻しましたけど、みんなはそうじゃないですし」


「自覚がないだけで、ヤスタケ自身も心の深い部分は回復しきっていません。そうした疲労は休息でしか取り除くことが出来ないのです。ラプラスターもこれから自己修復機能を使ってメンテナンスやチェックを実行します」


「それがラプラスターにとっての『休息』なんですね? 分かりました。俺も無理をせずに休むことにします」


 俺は納得して大きく頷いた。



(つづく……)

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る