第1-4式:紙一重の希望と絶望
解1-4-1:居住区画
体調って自分が一番よく分かってるっていうけど、気が付かない部分も絶対にある。だからこそ適度に休息をとることが大切なんだ。これから長い戦いになるかもしれないんだし、休める時に休んでおいた方がいい。
……なにより、俺は倒れるわけにはいかないんだから。
「では、これから皆さんを居住区画へご案内します。居住区画とは生活に必要となる施設が集まった空間のことです。まだ皆さんの個室と共有のリビングしか構築できていませんが、少しずつ充実させていく予定です」
「つまり
「さすがヤスタケ。おっしゃる通りです。だいぶラプラスターや私たちの時空の常識に慣れてきたみたいですね」
「まぁ、多少は……あはは……」
「皆さんには居住区画にあるそれぞれの個室で休息をお取りいただきます。まずは指令室内にたくさんあるボタンのうち、どれでもいいので押してみてください。なお、
ティナさんのその言葉を聞くと、カナ兄は静かに頷いた。
一方、興味津々で目を輝かせているショーマは、ソワソワしながらその場で小さくジャンプする。
「ティナ姉、そのボタンって降車ボタンのことだよね? この手すりにも付いているヤツ!」
「はい、ショウマが指差しているそのボタンのことです」
「分かった。押してみるよ。――えいっ!」
ショーマが降車ボタンを押した途端、車内にはお馴染みの『ピンポーン♪』という音が鳴り響いた。そして全ての降車ボタンに赤い光が点灯したかと思うと、それは即座に消えると同時にショーマも目の前からいなくなる。
えっ? どうなってるんだっ、これっ!?
「ショーマの姿が消えたっ!? ――って、カナ兄もチャイもなんでそんなに冷静なのっ? 驚かないのっ?」
「ヤスがコックピットに
「その経験がなかったのはヤッくんだけだよ」
「あ……そういうことだったのか……」
ふたりの返答を聞いて素直に納得。ということは、おそらくショーマは居住区画へ移動済みということなんだろう。
本当に見た目はバスとあまり変わらないのに、仕組みや
「ヤッくん、一緒に行こっ!」
「そうだな。――カナ兄、お先に」
「あぁ、オレも運転席から出てすぐに向かう」
その返事を聞くと、俺とチャイはほぼ同時に間近の降車ボタンを押した。
するとチャイムの音が鳴り響きながら目の前の空間が歪み、コックピットへ
高い天井はドーム状のようになっていて、壁は無地でクリーム色。中央には丸テーブルと全員が座れる席が用意されている。また、部屋の一角から通路が延びていて、そちらにはいくつかのドアがある。おそらくそこが各人の個室なのだろう。
ちなみに俺の横にはショーマとチャイも立っていて、ポカンとしながら周囲を見回している。確かにふたりにとっては
そんなことを思っていると、リビングにティナさんとカナ兄も
「おぉっ、こりゃすごいな。居住区画に
思わず感嘆の声を上げるカナ兄。やっぱりこの状況を目の当たりにすれば、みんな同じような反応をするものだ。むしろ無反応な人がいるとしたら、どんな心情なのか聞いてみたい。
こうして俺たちが一様に驚きながら周囲を見回していると、ティナさんがやや声を張り上げながら話しかけてくる。
「皆さん、ここが共有のリビングです。個室はそちらの通路沿いにひとり一室ずつ用意してあります。入退室の際には起動キーをタッチしてください。最初のタッチでその部屋の使用者登録が完了します」
「ティナさん、司令室に戻るにはどうすればいいんですか?」
俺が問いかけると、ティナさんは瞳に浮かんだ白い光をチラチラと点滅させながら静かに答える。
「居住区画のあちこちにも司令室内にあったボタンと同じものが設置してありますので、それを押してください」
確かに室内をよく見てみると、テーブルの足や壁の何か所かに降車ボタンが付いている。そんなところまでバスの仕組みを
そもそも複雑だと
(つづく……)
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