解1-1-5:不意に訪れた世界の終焉
「……っ……」
チャイとショーマはフロントディスプレイに映し出されている外の景色に釘付けになって、ポカンと口を開けたままになっている。起きた出来事が想定外過ぎて、ふたりともパニックになるゾーンを超えてしまったっぽい。
一方、カナ兄は焦った表情になりつつも、ハンドルを握ったままフットブレーキやクラッチ、ギヤ、ボタン類を必死に操作している。それでもバスの動きは止まらない。
「皆さんっ、何かに掴まって衝撃に備えてください! ――
降車ボタンを押した女性は俺たちの方を向いて叫んだ。
ワケが分からないけど、頭で考えるよりも先に俺の体は動いていた。目の前にある手すりを両手で強く握り、前屈みになって頭を低くする。
その数秒後、地鳴りのような
まるで山の上から巨大な岩が転がり落ちてきて、それがバスにぶつかったかのような感じ。ただ、思っていたよりもその衝撃は少ない。
…………。
……やがて音と振動が収まって俺が顔を上げると、フロントディスプレイには目を疑うような光景が広がっていた。あまりにも恐ろしくて思わず全身に鳥肌が立ち、心臓が大きく跳ねて加速し続けている。
「……な、なんなんだよ……これ……?」
さっきまで眩しかった緑の山々は、見渡す限り何もない赤茶けた荒野へと変貌を遂げていた。さらに上空は土埃で厚く曇り、それによって太陽の光が遮られて黄昏時のように薄暗くなっている。
そして眼下にあった俺たちの町は跡形もなく消滅していて……。
「姉ちゃん……姉ちゃん! 何が起きたのっ? ねぇ、何が起きたのっ!?」
「…………」
ショーマが今にも泣きわめきそうになってチャイに問いかけたものの、彼女は真っ青な顔をしたまま一切の言葉を発さない。目を丸くして唇を小刻みに震わせているだけ――。
くそっ、こんな時こそ俺がふたりを支えてやらなきゃダメじゃないか!
俺は奥歯を
「ショーマ、落ち着け。チャイ、大丈夫だ。俺が一緒にいる。運転席にはカナ兄だっている!」
「ヤス兄……姉ちゃん……う……あぁああああああぁーっ!」
「ヤッくん……ヤッくぅんッ!」
とうとうふたりは心の堤防が決壊したかのように、激しく泣き出してしまった。激しくしゃくり上げたり
俺も取り乱しそうになるけど腹に力を入れてそれをなんとか堪え、ふたりの手をさらに強く握ってやる。
温かさと震えがダイレクトに伝わってくる。おそらく悲しみや恐怖、絶望感、様々な負の感情がふたりの頭の中で渦巻いているのだろう。
だからこそ、俺はしっかりしなきゃいけない。支えてやらないといけないんだ!
俺はあらためて気をしっかり持ち、運転席にいるヤス兄に声をかける。
「ヤス兄は大丈夫? それにバスは故障してない?」
「オレ自身は大丈夫だが、車体に関してはどんな状態なのか全く分からん。ただ、異音や異常な振動などがないところから察すると、大きな問題はないんだろうと思う。お前たちの方こそ怪我はないか?」
「みんな怪我は……ないけどさ……」
「…………。あぁ、分かってる。精神的なショックは大きいだろう。オレでさえ激しく動揺しているくらいだし」
そう言った割に、俺の目にはカナ兄がいつになく冷静で落ち着いているように映った。少なくともバスが大きな衝撃を食らう前、なんとかして制御を取り戻そうと奮闘している時と比べれば雲泥の差だ。
確かに心の中では
さすが俺たちの兄貴分だ。俺もいつか余裕を持ってチャイやショーマをフォローできるくらいになりたい。
「ところでアンタ、世界に何が起きたのか教えてくれ。このバスが空を浮遊している理由なんかも併せてな。状況を考えれば、色々と知ってるんだろ?」
カナ兄は前ドアの横で
するとすっかり呼吸の乱れが収まっていた彼女は静かに頷いたものの、依然として厳しい表情は崩していない。まだ何かを警戒しているようだ。
「はい、私の知りうる情報は全て皆さんに提供します。ただし、それは私たちの身の安全が担保されてからにしましょう。どうやら“
「
「先ほどの攻撃を引き起こし、この時空を一瞬のうちに滅ぼした怪物です」
――っ!
その言葉を聞いた瞬間、俺の心臓は大きく跳ねた。居ても立ってもいられなくて、心がゾワゾワした。なぜなら、いまいち信じ難かったことが現実に起きたのだと確信してしまったから。
そう、この世界は……本当に滅びてしまったんだ……。
(つづく……)
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