解1-5-6:コックピットへ

 

「これが敵の姿か……」


 見た目の大きさはラプラスターとほぼ同じ。形状は巨大な亀みたいで、そこから前後左右のそれぞれにアームが付いている。伸びる長さや用途は別として、機能自体はまさに亀を踏襲とうしゅうしている感じがする。



 せっかくならスピードの遅さも似せてほしかったけど……。



 また、甲羅に当たる部分にはいくつもの自在可動式の砲身があり、あらゆる方向への攻撃が可能となっている。


 もちろん、そうした外観はあくまでも外観であって、やはり重要なのはどんな能力を持っているかということ。


 そもそもラプラスターのように外側と内側が一致するとは限らないし、なにより想定外だったアームや超高速移動の能力に俺たちは虚を衝かれてしまった。同じてつを踏むわけにはいかない。


 ちなみにさっきの動きや状況判断の具合から考えると、誰かが乗って操縦しているんだろう。ティナさんのようなオペレーターによる自己判断で動いているにしては、作戦の切り替えが柔軟すぎるような気がするから。



 …………。


 ……だとしたら、なおさら戦いたくない。場合によっては命の奪い合いになるかもしれないわけだし。


 避けられるものなら戦闘を避けたいけど、やっぱり事ここに至ったこの状況では腹を括らないといけないんだろうな。


 一応、俺はダメ元でティナさんにいてみることにする。


「ティナさん、今の状況で逃げることは不可能ですよね?」


「はい、残念ながら……。本来なら時空ディメンション跳躍ワープをした時点で逃げ切れたはずでしたが……」


「アームで拘束されたままだったばっかりに、一緒に時空間道ポシビリティ・バイパスの同じ位置へ跳躍しちゃいましたからね」


「ヤスタケ、やはり戦闘形態バトルモードで戦ってもらうことになりそうです。今回も操縦者をお任せしてよろしいですね?}


「……了解ですっ!」


 俺は吹っ切れた気持ちで力強く返事をした。決意が中途半端だと自分にとってもみんなにとっても悪影響を及ぼしかねないから。もちろん、戦闘の回避について敵と交渉する機会や余地があるなら試してみるつもりだ。


 そんな中、チャイが俺の方を振り向いて凛とした表情を見せる。


「ヤッくん、私はもう止めないよ。――頑張ってこい! そして絶対に無事で私たちの目の前に帰ってくること!」


「もちろん了解だっ、チャイ!」


 そう返事をして俺は立ち上がると、ズボンのポケットから起動ギーを取り出して運転席の横へ移動した。


 その際、ハンドルを握るカナ兄とは軽くグータッチをすることで俺の意気込みを伝える。


戦闘形態バトルモード操縦者設定――ヤスタケ。ティナの有する権限へのアクセスを一時的に許可。データ更新中」


 ティナさんがその言葉を発すると、彼女の瞳が赤色に灯って点滅を始めた。そしてその光が収まったところで俺は彼女と目顔で合図をし、起動キーを読み取り機リーダーにタッチする。


 直後、ピッという確認音が響いて浮遊感を覚えるとともにコックピットへと跳躍する。




「周りが真っ暗闇だ……」


 今回は時空間道ポシビリティ・バイパスにいるということもあり、初戦とは周囲の環境が全く違う。まるで宇宙空間に浮かんだまま戦うかのようで、不安があると同時にちょっとだけドキドキとワクワクも湧いている。


 なお、コックピットにいる時の様々な感覚については以前と変わらない。自分とラプラスターが一体となっているような意識の共有がなされている。


「ラプラスター、戦闘形態バトルモード転換チェンジオーバー!」


 俺の意思と指示により、ラプラスターはバスとよく似た外観の通常形態デフォルトモードから人型ロボットのような戦闘形態バトルモードへ変形していった。もちろん、その過程は全てディスプレイを通して確認できている。


 ――やっぱり戦闘形態バトルモードは何度見ても格好良い。洗練されたデザインと威厳を感じる迫力には思わず惚れ惚れしてしまう。いつかは自分の目で確認してみたいものだ。



『ピピッ! ピピッ! ピピッ!』



 その直後のこと、不意にコックピット内に確認音が響き、目の前の空間に半透明のディスプレイが現れた。そこには外部から通信が入ったことを示す表記が映し出されている。


 発信元はなんとすぐ横で漂う敵機。音声のみの通信をしてきているようだ。



(つづく……)

 

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