解1-7-7:フィルの素顔

 

 発信先はフーリエール。これは意図的に送ってきたものなのか、それとも彼が慌てたことで勢い余って映像情報を送るスイッチに触れてしまったのかは分からない。


 いずれにしても雰囲気から察するに、それはフーリエールのコックピット内を映し出しているようだった。


 背景にはラプラスターと同様に何もない空間が広がっていて、周りには半透明のディスプレイや操作ボタンなどがいくつも浮かんでいる。




 その中心にたたずみ、こちらに向かって身を乗り出している人物がおそらくフィルさん――。


 パッチリとした目に端正な顔立ちと透き通るような美しい肌。サラサラでツヤのある黒髪はショートボブにカットされている。さらに服は青色を基調とした中世ヨーロッパ風の民族衣装のような感じだ。


 一見すると美少年のようにも思えるけど、肩は丸みを帯びていて胸の辺りには膨らみがあるということを考えると、やっぱり女性ってことなんだろうな。




 …………。


 ……えぇっ!? フィルさんって……女性だったのっ……?



 俺は思わず息を呑んでいた。何度も手で目を擦ったりパチクリさせたりしてみるけど、どうやら見間違いではないらしい。


 年齢は俺と同じか少し年下くらいだと思うけど、小柄な体型だから幼く見えているだけという可能性もある。もしそうであれば何歳か年上かもしれない。


 詳細は分からないけど、年齢が近いということだけは間違いないかな……。


 とりあえず、俺は気まずさを感じつつフィルさんに向かって軽く頭を下げる。


「あの……フィルさん。なんか……すみません……」


『ん? なんのことだ?』


「だって俺、今までフィルさんを同年代の男子だとばかり思って接しちゃってましたから。その……フィルさんは女性……ですよね?」


『っ!? ――あわわわわぁあああああぁーっ!』


 一瞬、キョトンとして視線を何かの計器に向けたあと、フィルさんは目を大きく見開きながらいつになく頓狂とんきょうかつ大きな声で叫んだ。


 即座に頬は真っ赤に染まり、激しく狼狽ろうばいしながらディスプレイやボタンを操作している。ただ、どれも目的の操作と違っているのか、エラー音が何度も響いてその度に混乱に拍車を掛けている。


 その反応を見る限り、おそらくこちらに映像情報を送ってきたのは意図しないアクシデントによるものだったんだろうな……。


 やがて俺の目の前からフィルさんの映っているディスプレイが消えた。




 その場に流れる沈黙。ただ、依然として音声通信は繋がったままの状態になっている。


「フィルさん?」


『ち、違うっ! い、今のはフェイク映像だっ! 私は男だっ! そ、そうっ、私はなんだっ!』


「……っ……♪ うん、そういうことにしておきます」


『っっっっっ!』


 音声の向こう側で、頬を真っ赤にしながら項垂れているフィルさんの姿が目に浮かぶ。戦っている時の凛とした格好良さや気高さとのギャップがなんだか萌える。



 ……それにしても、女性であることを隠す必要なんてないのにな。


 操縦者が女性だと見くびられるとでも思っているのだろうか? 少なくとも俺はそんなことをしないし、フーリエールの見事な動きを目の当たりにすれば絶対にそんな気は起きない。


 そんな俺の正直な気持ちをフィルさんに伝える。


「俺としては、性別なんてどうでもいいと思うんですけどね。フィルさんはフィルさんじゃないですか。それに勇ましさや格好良さの中に可愛らしさもあって素敵です。もっと自分に自信を持ってください」


『なっ!? う、うるさいうるさいっ! さっさと私の目の前から消えろ、バカモノがっ!』


「待てって言ったり消えろって言ったり、どっちなんですか?」


『だぁあああああああぁーっ! 消えろ消えろ消えろ消えろっ! お前っ、急に意地が悪くなったぞっ!』


「ふふっ、そうですか? じゃ、今度こそ本当に行きます」


『ふ、ふんっ! ……っ……』


 その直後、フーリエールからの音声通信は途切れた。


 ちなみにふて腐れていたフィルさんは最後に何かをボソッと呟いていたような気がするけど、その声は小さすぎて俺には一文字も聞き取ることが出来なかったのだった。



(つづく……)

 

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