解1-3-4:楽勝ムード

 

 たぶん、各々の座席にあるディスプレイも使用者の意思で自由自在に扱えるようになっているんだろうと思う。もちろん、緊急的な事項や警告表示など自動で優先的に表示される項目もあるはずだけど。


 事実、連携コンボが発動した時、チャイのディスプレイにはラプラスターの能力アップに関する情報が勝手に表示されたみたいだし。



 ま、これに関しては今回の戦いが終わって時間に余裕がある時に色々と試してみることにしよう。今は戦いに集中だ!



 俺は剣を両手で握り直し、切っ先を夢幻魔むげんまに向けて身構えた。


 やはりこうして剣を握っていると心にも余裕が生まれるというか、安心感が湧いてくる。いつでも敵に攻撃できるし、逆に攻撃されても受け止めたり受け流したり色々な戦術が取れるから。


 今のところ、夢幻魔むげんまは目立った動きを見せていない。相変わらずお互いににらみ合ったまま、様子をうかがっている。


 これだけ膠着こうちゃく状態が続いているなら、こちらから仕掛けてみるのもひとつの手か……。



 ――と、戦況について考えているとティナさんからの通信が入る。


『ヤスタケ、敵の分析が完了しました。その結果に基づいた各種対処をラプラスターに反映させます。データは精神の同期シンクロニズムの効果によりヤスタケの脳にも送られますので、敵に関する様々なことが本能的に把握できるようになることでしょう』


「了解! それは便利ですね!」


『ただし、情報が一気に押し寄せます。慣れるまでは目まいや頭痛、吐き気など一時的に気分が悪くなるかもしれません。ご承知おきください』


 ティナさんがそう言った数秒後、俺の脳は大きく揺さぶられたような感覚に陥った。情報を受け止めた反作用で激しくブレたような感じ。確かにこれはあまり心地が良いものではない。


 一方、敵に関する色々なことが自然と把握できていて、まるで何事も見通す力を持った超能力者にでもなったような気持ちだ。



 例えば、この夢幻魔むげんまには特に弱点がない一方、どんな属性の攻撃も標準的に通用するといったようなことが分かっている。ほかには敵の攻撃のパターンやその対処法、危険度、性質とか。


 もちろん、分析の精度や能力には限界があるから、未知の部分もゼロじゃない。その点には注意が必要だけど。


「よしっ! ラプラスターのスピードとパワーがあれば、剣での攻撃も充分に通用しそうだ!」


 俺は夢幻魔むげんまの反応速度が比較的鈍いことに着目。


 さらに物理攻撃や粘液による攻撃の危険度も低く、間合いに入ってもこちらに優位性があることを理解して、積極的に剣での攻撃を仕掛けることにした。


 早速、俺は夢幻魔むげんまに向かって斬りかかる。突進して一気に距離を詰め、横一文字に胴体への一撃!


「うりゃぁああああああああぁーっ!」


 こちらの突然の接近に戸惑ってさらに動きが鈍くなった夢幻魔むげんまは、その攻撃を回避することが出来ない。


 結果、クリーンヒットとなってヤツの耐久値を大きく削ることに成功した。


 さらに身をひるがえし、間髪を容れずに胴体への攻撃を加える。これも通常の威力が出る程度にはヒットしてダメージを与え、続けて蹴りでの一撃を繰り出して夢幻魔むげんまを突き飛ばした。こうして俺の連続攻撃は全てが命中する。


 直後、苦し紛れに夢幻魔むげんまは粘液を吐き出して反撃してくるけど、俺はそれを予測してすでに間合いを取り始めている。


 ゆえに余裕を持ってその全てを回避し、あらためて体勢を整えて身構えたのだった。




 ――最初の一撃がかなり効いているのか、データ上でも見た感じでも夢幻魔むげんまは虫の息。このままなら充分に押し切れる。



 なんだ、思ったほど強くないじゃないか……。



 呆気なさ過ぎて拍子抜けする。当初、過度に警戒していたのがバカみたいだ。あとはトドメの一撃を加えれば、この戦闘は俺たちの勝利で終わる。


 俺はほくそ笑みながら夢幻魔むげんまに次の攻撃を繰り出すタイミングをうかがう。


『えっ? 今の反応は……』


 その時、ティナさんが驚いたような声を漏らした。


 それが気になった俺は夢幻魔むげんまに視線を向けたままその動きに注意を向けつつ、彼女に問いかける。


「ティナさん、どうかしたんですか?」


『い、いえ……一瞬ですが時空に切れ目が発生したのをレーダーが捉えま――』


 ティナさんが喋っている最中、ラプラスター内に大音量の警告音が鳴り響いた。


 さらに赤い光が強弱を繰り返しながらコックピット内も司令室内も照らしている。まるでどこかで緊急車両の赤色灯が作動しているかのような感じ。連携コンボが発生した時とは明らかに様子が違う。



 ――嫌な予感しかしない。全身の毛が逆立って、緊張感が増してくる。



(つづく……)

 

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