解1-5-3:ドッグファイト!

 

 ――これは俺も負けていられない。


 ティナさんやカナ兄はもちろん、チャイやショーマも必死で頑張っているんだから。せめてみんなの手助けが出来るくらいには役に立ちたい。


「よしっ! 機銃で攻撃だ!」


 俺はあらためて気合いを入れると、映し出されている映像やレーダーを参照しながら照準を定めることにした。ただ、振動がある上、左右に大きく揺れていて難しい。体には傾きや遠心力なども感じる。


 もちろん、そうした外部環境からの影響はラプラスターのシステムによって軽減されているんだろうけど、それでもこれだけ伝わってくるということは動きが激しすぎてフォローし切れていないということかな……。


 ちなみにもし全くそういった機能がなければ、強烈な重力加速度でとっくの昔に俺たちは失神してしまっているに違いない。呼吸だって容易には出来なくなるはずだし。


「くっ、とりあえず撃ってみるしかない!」


 俺は完全に照準を合わせることを断念し、大体の感覚で機銃を発射することにした。弾幕での面攻撃が出来るなら、それでも問題ないはずだから。今は敵のスピードを低下させるのが目的なので、命中しなくても近くに弾が飛べばいい。


 早速、レーダーのデータを凝視しながら俺は右側にあるレバーを握り締める。そして意を決し、その先端に付いている射出ボタンを押す。



 ――直後、後方へ向いている砲身から一定の間隔で放たれていく機銃のエネルギー弾。



 でもその軌道は敵から遠く離れた場所を貫くだけで、虚しく空の彼方へ消える。


「思った以上に狙いから外れたッ!?」


 俺は目を丸くしながら愕然がくぜんとした。


 そうか、空気抵抗や慣性などの影響でズレが生じたんだ。静止状態での砲撃でさえ難しいのに自分もターゲットも動いているわけだから、なおさら命中させるのは一筋縄ではいかない。


 限りなく直進するレーザー砲や超高速で射出される電磁波砲レールガンのような周りの影響を受けにくい武器なら、多少は当てられる確率も上がるんだろうけど。


「っ!? レーザー砲か!」


 確か通常形態デフォルトモードにはレーザー砲も装備されているはず。精神の同期シンクロニズムで流れてきた情報の中にあったような気がするから。


 ゆえに俺は急いで端末を操作し、使用武器の候補としてレーザー砲を選択する。


「いっけぇええええぇーっ!」


 俺は間髪を容れず、レーザー砲を発射した。これなら射出し続ければ、まさに面攻撃となっていつかは敵に当たるはず。


 でもそんな俺の期待は直後に打ち砕かれることとなる。


「えぇっ!? レーザーが曲がったっ? 嘘だろっ?」


 敵に向かって真っ直ぐ進んでいったレーザーは命中する直前にグニャリと折れ曲がり、明後日あさっての方向へ飛んでいった。まるでそこに見えない壁でもあるかのように、敵の周りだけを避けている。


 もしかしたら敵には重力バリアみたいな装備があって、空間ごと捻り曲げて攻撃を防いでいるのかもしれない。


 それとこの感じだと、ボディにもレーザー攻撃の対策が施されていそうな気がする。外部装甲が超伝導体でコーティングされていたら、鏡に光を当てた時のように反射されてしまって意味がない。


 こういう時、シューティングゲームなら爆弾ボムのようなものを使って範囲攻撃するんだけどな……。



 …………。


 そういえば、弾数は少ないけど通常形態デフォルトモードには爆弾ボムも装備されているんだっけ。これも精神の同期シンクロニズムで流れてきた情報の中にあったので知っている。


 ただし、一度に発射できるのは1発のみ。しかも次弾の装填までそれなりの時間とエネルギーが必要になるから、現段階で使えるのはそれっきりになると思う。


「チャイ! 参考までにきたいんだけど、この状況での爆弾ボムの使用は適切だと思うか?」


「却下! 何を言ってるのっ? なるべくエネルギー消費を抑えて逃げることを優先させるんでしょ! 何のために機銃攻撃を推奨したのか理解してないのっ? それともさっきの私の話を聞き流してたとかっ?」


「か、確認しただけだよ。そんなに怒るなよ……」


「これはゲームじゃないんだから、どの武器を使用するにもエネルギー消費やリスクを伴うの。それは忘れないでね」


「分かってるって。相変わらず手厳しいな、チャイは」


 ばつが悪くて思わず俺は頭を掻いた。


 なんだか今のチャイの反応を見るに、まるで家計でも握っているかのような感じがする。エネルギーとお金という違いはあれど、しっかり者みたいなイメージは確実にあるから。


 そう考えると、コイツと結婚する相手は小遣いに苦労するだろうな。



 …………。


 ……ま、俺には関係のないことだけど。



(つづく……)

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る