ジョージ・ヘイワード

 1863年 7月19日


 次の日、シャーロットは稽古帰りに、ジョージ・ヘイワードの家を訪れた。

 ジェラルドのことが何か分かるかもしれないと思ってのことだった。


 ジェラルドが帰って来ていないのだから、ジョージも家を留守にしているだろうと思っていたが、意外にも彼はニューヨークから帰ってきていた。


「ジェラルドに、何があったのですか? なぜ彼は帰って来ないの?」


 シャーロットは挨拶も前置きもなく、急き込んで尋ねた。


「分かるよ。混乱しているだろう。まずは、私の話を聞いてくれ」


 ジョージの話は、次のようなものだった。



 到着した日の3日後、シャーロットからの手紙を受け取ったジェラルドは、仕事をジョージに任せてすぐにでもシャーロットの元へ行こうとした。

 ところがその時、宿の下働きから、憲兵司令部で起こった暴動の話を聞かされた。

 事件が収まるまでは宿に留まろうと説得されて、ジェラルドは2日間、宿から外に出られなかった。


 ニューヨークに来てから6日目の朝、暴動が下火になったので、ジェラルドはジョージと共に帰りの汽車が来る駅に向かった。

 仕事は暴動が落ち着いてから日を改めて行うことになった。


 ところが、途中で2人は暴徒の残党に出くわした。

 彼らは、ジェラルドがアイルランド移民であることを見て取るなり、ジェラルドを仲間に引き入れようと説得し始めた。

 ジェラルドが丁寧に断ろうとしているところへ、運悪く、暴動を鎮圧するための民兵隊がやってきた。

 暴動が鎮圧出来ずに気が立っていた彼らは、残党達と一緒くたにしてジェラルドも捕まえ、留置場に入れてしまった。


 ジョージは警察や民兵隊を説得し、ジェラルドが無実であることを示そうとしたが、聞いてもらえなかった。

 そこで、この状況を知らせるために家に帰り、今からジェラルドの父やシャーロットの家に行こうと考えていたところだった。



「ニューヨークへの行き方を教えてください。私が行って、彼を助けます」


 シャーロットは話が終わると言った。


「馬鹿なことを言いなさるな。あなたが行って何になる?」


「ジェラルドを釈放、せめて裁判だけでもして欲しいと懇願します。断られたら、何日でも警察署の前で跪いて聞き入れてもらえるのを待ちます」


 本当にそうするつもりだった。ジェラルドの釈放と引き換えに命を差し出せと言われても、迷わず差し出しただろう。


「どうやら、あなたは本当にジェラルドを愛しているようだ。何を言っても行くのだろうから、いっそ行き方を教えましょう」


 ジョージからニューヨークへの行き方を教えてもらったシャーロットは、家に帰ってすぐに旅立ちの仕度をした。

 今日はもう遅すぎるから、明日、オーガストが仕事に行っている間に行くつもりだった。


 結婚式は2日後に迫っていた。

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