窓の向こうの乙女

1861年 4月


 ぴしゃりと閉められたカーテンを見つめ、ジェラルドはため息をついた。

 乙女を怒らせるつもりではなかった。

 初めて恋というものを経験したジェラルドには、何が彼女を怒らせたのか分からなかった。

 石を投げるというアプローチの仕方か、覗き見していたのが悪かったのか……。


 とにかく、ジェラルドの心を奪った女性はカーテンの向こうに消えてしまった。

 ジェラルドは貧しく毎日食べていくだけで精一杯なのに対し、乙女は大金持ちらしい。

 乙女はアメリカ人だが、ジェラルドはアイルランドからの移民だ。

 家が隣同士である他に、二人の接点は一つもない。


 時折、窓から乙女を覗き見ると、代わり映えのない毎日にうんざりして頭を窓に預け、何かに憧れるように空を見上げていることがあった。

 そんな時、彼女の瞳はまるで、空を映す鏡のようになるのだった。


 ジェラルドはそれを見て、彼女は何かに強い憧れを抱いているのだろうかと思った。

 なぜなら、自分も時々同じ理由で空を見上げることがあるからだ。


 だがカーテンを閉められたので、これからは遠くから乙女を眺めることも出来ない。

 恋というのがこれほど苦しいものだなんて知らなかった。


 ジェラルドはもう一度ため息をついた。

 二人が再び言葉を交わすことは、決してないだろう。

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