馬車

1961年 6月


 ジェラルドの予想に反して、2人は再び言葉を交わすこととなった。

 それは、ジェラルドが親友のガブリエル・エバーフィールドと彼の父が主催するピクニックの準備を手伝いに行った時のことだった。

 息子の友達のよしみでピクニックに参加させてもらえるので、お礼に手伝いをすることにしたのだ。


 ジェラルドはガブリエルの家の前で、これから乗る予定の馬を撫でているところだった。


「元気出せよ、ジェラルド。手の届かない花は諦めろ。恋は一生に一度ってわけじゃあないんだ」


 ガブリエルの父は自作の劇が大ヒットしたことで一挙大金持ちに登り詰めた。

 それでも、ガブリエルは2人とも貧しかった頃と変わらずにジェラルドと親友でいてくれる。


「だけど一生に一度の恋だって……」


 その時だった。


 どこかで、「キャー」という悲鳴が上がった。直後、小洒落た馬車が猛スピードで目の前を走り去るのが見えた。


「大変だ」


 馬車に繋がれた馬が何らかの理由で暴れだし、御者がうっかり手綱を手放してしまったようだ。

 制御の効かなくなった馬車は道を外れ、草地を突っ切って行く。


「まずいぞ。あの先は断崖絶壁だ!」


 ジェラルドは考える前に馬に飛び乗り、馬車を追って走らせた。


 後ろから、ガブリエルが乗る馬の足音も聞こえる。


 ところが、なかなか馬車には追いつかない。


 ついに、馬車は断崖に達した。


――落ちる!


 馬を走らせながら、ジェラルドとガブリエルは息を吞んだ。

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