ワルツ

 2人は顔を見合わせて笑い出した。


 何が面白いわけでもないのに、なぜか笑いが止まらない。


 ジェラルドは、シャーロットが笑うのを初めて見た。

 あの美しい声が笑うと、鈴が鳴るように明るかった。

 目をキュッと閉じて、口元に小さなえくぼを作って笑うのが、少女みたいで可愛らしい。


「さあ、ダンスを踊ったんだから、何を隠しているのか見せてよ」


「ダメよ、ワルツじゃないもの」


 ジェラルドがシャーロットに1歩近づくと、シャーロットも1歩下がった。

 今度は隠しているものを取り上げようと手を伸ばすと、シャーロットは自分の体を盾にするように、くるりと向きを変えて応戦する。


「それよ!」


「え?」


「この動き、ワルツと同じだわ」


 シャーロットは微笑んだ。


 そうやって、2人は向かい合ったまま、クルクル回って部屋中を動いた。

 殺風景な屋根裏部屋の西の窓から差し込む光の上に、踊る2人がシルエットを伸ばす。


 ふいに、シャーロットの背中が壁に達した。狭い部屋だから無理もない。


 突然、ワルツは静止した。


 ジェラルドは勢い余って半歩前に出てしまったので、2人の距離は深く息を吸えばお互いの身体が触れ合うほど、近かった。


「どうだい? ワルツを踊ったよ。何を持ってるのか見せてくれるかい? それとも……」


 シャーロットが纏(まと)う、甘美な香りが、部屋を満たす穏やかな午後の光とまじりあってジェラルドを包み込んだ。


 ジェラルドはシャーロットを見つめた。


 薔薇色の頬、空色の瞳、花びらのようなまつ毛。そして、木苺のように紅い唇……。


 ジェラルドは少しだけ、シャーロットに顔を近づけた。


 彼女も、自分と同じことを考えているだろうか……?

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