雪
何度も、何度も、その短い文を読み返した。
信じられなかった。
信じたくなかった。
何かの間違いだと言ってほしかった。
シャーロットの手から落ちた電報を見て、ジェラルドの父は床に崩れ落ち、ガブリエルは乱暴に立ち上がった。
「馬鹿野郎!」
ガブリエルは、座っていた椅子をめちゃくちゃに蹴り飛ばし、近くの壁を何度も殴った。
「お前は、とんだ噓つきじゃないか!」
ノーラは自分も涙を流しながら、ガブリエルを宥めようとしたが、無駄だった。
「必ず帰るって言ったんだろ? だったら、帰って来いよ! 妻も息子も失った父親の気持ちを考えろよ! いつまでもお前を待ち続ける恋人のことを考えろ! 兄弟みてえに一緒に育ってきた親友のこともな! こんな時に死んで、どうするつもりなんだよ!」
ガブリエルの怒鳴り声が、静まり返ったダイニングルームに虚しく響いた。
「お前なんか、お前なんか!」
ガブリエルは壁を殴るのを止め、脱力して床に座り込んだ。
後から、後から、涙がこぼれて彼の頬を伝った。
ノーラがそんな彼を抱きしめている。
シャーロットは一人、放心したかのように、宙を見つめていた。
数か月前、一緒に笑い、夢を語り、愛を交わした人の存在が、こんな紙切れ1つで否定されてしまうなんて、おかしいと思った。
ようやく立てるようになると、シャーロットは2人に暇を告げた。
下宿先に帰る途中、星一つない夜空から、信じられないほどゆっくりと雪が落ちてきた。
それは少しずつ量と激しさを増し、下宿に着いた頃には、早くもクリスマス・イブの夜を埋もれさせようとしていた。
シャーロットは部屋に引きこもり、しんしんと雪が降る窓の外を眺めた。
彼女の人生を変えた青年と初めて話をしたのは、確か、雪解けの頃だった。
花咲くようにゆっくりと、彼女は彼に心を開いた。
恋は夏とともに燃え上がり、心を木の葉もろとも焼き尽くした。
そして、それは今、灰となって夜空から降り注いでいる。
涙は出なかった。彼のことを考えるには、混乱しすぎていた。
ただ、雪の結晶のような彼との思い出が、彼女の目の前を通り過ぎては消えていった。
その一つ一つが、美しくて、触れたら溶けてしまうほど、淡い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます