小包

 聖歌隊の歌声も、クリスマスツリーやキャンドルの灯りも、遠くの国の物に思えた。

 悲しみと衝撃で、目に映る何もかもに実態がなかったとき、突然、一通の小包が届いた。

 そこには、死ぬ前にジェラルドが書いた手紙も同封されていた。

 小包だから、電報より数日遅れて届いたのだろう。


 シャーロットは、包みを開ける前に手紙を読んだ。


<拝啓 愛する君へ


 君がウエディングドレスを着たままで僕を見送りに来てくれた時、プラットフォームで交わした約束を覚えているかい?


 あれから、随分と時間が経ってしまったね。

 僕は今、戦場にいて、明日の命も保証できない。

 だから、君が代わりに僕の夢を叶えてくれ。


 この曲たちがオペラになって、君がヒロインを演じる。それが、僕の夢だ。

 もしも、僕が帰って来られなくなったとしても、君が僕を歌うとき、僕は必ずそばにいるよ。


 まるで遺書のような手紙になってしまったね。君を心配させたかな。

 当分は死なないつもりだから安心してくれ。

 一刻も早く君と再会できることを願っているよ>


 大粒の涙が一滴ひとしずく、手紙の上に落ちた。


 それはじんわりと広がって、ジェラルドの文字をにじませた。


 シャーロットは、手紙が濡れないように顔をあげた。


 涙がとめどなく瞳からこぼれ、頬を伝っては落ちていく。


 手紙を抱きしめて、シャーロットは嗚咽をこらえる事も出来ずに泣きじゃくった。

 次から次へと流れる涙が、電報を受け取って以来固まっていたシャーロットの心を洗い流した。

 悲しみが全身を駆け巡り、苦しいほどだった。


 しばらくして、シャーロットは小包を開けた。

 入っていたのは、沢山の楽譜だった。

 ジェラルドの魂が込められた楽譜だ。


「きっと、あなたの夢を叶えて見せるわ」


 シャーロットは心に誓った。

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