ドラフト・ウィーク

 1963年 7月17日


 ついにジェラルドが帰ってくる日の前日となった。

 シャーロットは後1日でジェラルドと会えることを喜ぶ一方、もしも彼が明日帰って来なかったらどうしようという不安にもさいなまれていた。


「お嬢様、お嬢様、大変です!」


 ノーラが新聞を片手に部屋に駆け込んできた。


 ノーラが運んできたのは、おぞましいニュースだった。


 ニューヨークのダウンタウンでアメリカ史上最大の暴動が起きた。

 3月に連邦議会で可決された徴兵法が原因だ。

 市民権と引き換えに徴兵対象となる法に、富裕層のように代役を雇うお金がない白人労働者たちは不満を抱いていた。


 初めに労働者たちが襲撃したのは、徴兵対象者への抽選が行なわれていた憲兵司令部だった。

 しかし、彼らは次第に怒りの矛先を、市民権がなく徴兵対象にならない黒人たちに向け始めた。

 そこに奴隷解放宣言以降も彼らの中に根強く残っていた差別意識が加わり、黒人孤児院や黒人港湾労働者が攻撃対象となったという。


 暴動が発生したのは7月13日、つまりジェラルドがニューヨークに発った3日後で、昨日収まった。

 暴動を起こした者の多くが、近年、飢餓が原因でアメリカに渡ってきたアイルランド移民だったそうだ。


 もちろん、このニュースを読んだシャーロットは、ジェラルドのことを考えずにはいられなかった。

 彼は決して人種差別や残酷な行為をしないだろう。

 だが、完全に事件と無関係でいることなどできるだろうか。


 嫌な予感がした。

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