汽車

 人々が行き交い、そこここですすり泣きが聞こえていた。


 だが、ジェラルドのために泣く人はここにいない。

 父との別れは今朝済ませてきたし、恋人は他の男との結婚式の最中だ。

 自分で言い出したこととは言え、戦争から生還しても愛する人は人妻となっていると思うと、辛かった。


 ジェラルドは汽車に乗り込む前に、一度だけ、後ろを振り返った。


 なぜだか、シャーロットが見送りに来てくれるのではないかと期待してしまった。


 今にも、自分の名前を呼ぶ彼女の美しい声が聴こえてきそうでならなかった。


 しかし、ジェラルドは前に向き直り、汽車に乗り込んだ。

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