プラットフォーム

 馬車が止まるか止まらないかのうちに、シャーロットは駅に飛び出した。

 ウエディングドレス姿は周囲の人々の目を引いたが、シャーロットは気にも留めなかった。


 戦地に向かう汽車が待つプラットフォームで、あの愛しい後ろ姿を探す。

 が、中々見つからない。


 発車3分前を告げる係員の声がシャーロットを焦らせた。

 周囲の人々はもう別れの挨拶を済ませていて、プラットフォームにはもう軍服姿の人がほとんどいない。


「ジェラルド、どこにいるの?」


 シャーロットの声は、見送りに来た人々の間に吸い込まれていった。


 涙と蒸気で視界が霞んだ。


「後2分で発車いたします。ご準備ください」


 係員が呼びかけた。


 もう間に合わない。


 このままでは、ジェラルドが行ってしまう。


 シャーロットは走り出した。


「ジェラルド、ジェラルド!」


 人々がすすり泣く声に負けないよう、シャーロットは愛する人の名を叫んだ。


 その時だった。


「シャーロット!」


 あの、低くて、少ししゃがれている、大好きな声が聞こえてきた。


「ジェラルド!」


 彼は、シャーロットの声を聞いて、汽車から降りてきたところだった。


 渦巻く蒸気と人いきれの間を縫って、シャーロットはジェラルドの腕の中に飛び込んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る