花びら

 シャーロットの心は決まっていた。


「誓いません」


 誰もが呆気に取られてシャーロットを見つめ、教会中がしんとなった。


 緊張で震える手から、花束が滑り落ちた。


 その途中、綺麗に整えられた花束から、一枚の白い花びらが舞い出た。


 その花びらを元に戻すことは、もう出来ない。


 赤いカーペットをしっかりと踏みしめて、シャーロットは教会の出口へと走った。


 重いウエディングドレスの裾が、左右に揺れた。


 ヴェールが外れ、シニヨンを留めていたピンも取れ、見事な金褐色の巻き毛が背中に広がった。


 人々のざわめきを後にして教会の外に出ると、一台の馬車がシャーロットを待っていた。

 御者台にはガブリエルが座り、ノーラがシャーロットのためにドアを開けた。

 ノーラには、こうなる事が分かっていたのだろう。


「行き先は?」


 シャーロットが馬車に乗り込むと、ガブリエルが小窓から尋ねてきた。


「ひとまず、ルーシーの家へ。落ち着く先が決まるまで、お嬢様をお泊めしてくださるそうです」


「ああ……いくら感謝しても足りないわ」


 ルーシーの優しさに、シャーロットは涙が出そうだった。


「でも、まずは駅に連れていって欲しいの。急げば、ジェラルドをお見送りできるはず」


「了解。とばすから気をつけてくれよ」


 ガブリエルはそう言うなり、馬車を急発進させた。

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