結婚式
1863年 7月21日
「シャーロット、シャーロット? 準備はいいかい?」
オーガストの声で、シャーロットは我に返った。
いつの間にか、シャーロットは豪華なウエディングドレスに身を包み、手にはブーケを握っていた。
慌ただしい結婚式前の準備の中、シャーロットの時間だけがやけにゆっくりと流れているように感じられた。
「さあ、立って」
言われるがままに立ち上がり、オーガストに腕を預けて教会の入口のドアまで歩いた。
召使いたちがそのドアを開けると、教会の中にヴァージンロードが見えた。
両側のベンチには大勢の人が座り、奥に神父とデイヴィッドがいる。
華やかなパイプオルガンの演奏が、頭の片隅から聞こえてきた。
ヴァージンロードを歩いていても、踏んでいるのは赤いカーペットではなく、雲か羽のような気分だった。
デイヴィッドは、シャーロットの美しさに見とれていた。
誰もが、2人は幸せな夫婦になるだろうと考えた。
だが、シャーロットは気がついた。
彼が自分に向ける眼差しは、ジェラルドのそれとは違う。
デイヴィッドの眼差しに、愛はなかった。
違う、私がいるべき場所はここじゃない。
唐突に、シャーロットはそう思った。
そうだ、自分は何をしていたのだろう。ジェラルドがいないのに、幸せになれるはずがないではないか。
「……汝は、その健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、
これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」
いつの間にか、誓いの言葉を言うところまで式は進行していた。デイヴィッドは、
「誓います」
と答えた。
次は、シャーロットが誓う番だ。
「汝は、その健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、
これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」
「誓いま……」
シャーロットの声は震えていた。
このまま、父に望まれている通りの平穏な人生を歩むか、それとも、自分の気持ちに従うか……
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