ピクニック
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暗転した舞台にパッと照明が点り、バックドロップにはよく晴れた春の風景が描かれていた。
大空には微笑む太陽と綿菓子のような雲。川はせせらぎ、小鳥は歌い、草の緑が目に染みた。
華やかな服装の人々が舞台を行き交い、あちらではクリケット、こちらではコーヒーと軽食、といった具合にピクニックを楽しんでいる。
舞台に立つ全員が明るい曲を合唱し、その喜びを表現した。
その中で、シンプルな服装だが一際目を引く乙女がいた。
さっぱりした空色のドレスにふんわりとした白いチュールを重ねた出で立ちで、裾には金褐色の髪と同じ色の花の刺繡があしらわれている。
大きなリボンで腰に留められたパステルイエローのサッシュベルトが粋だ。
ところが、その美しい顔は曇り気味だった。
「ああ、お父様、私は17歳。運命を決められるにはまだ早すぎます。まして、結婚だなんて」
シャーロットはあの透き通るような声で父に歌いかけた。
「我が愛しき娘よ、何を憂いているのだ? 良き夫を持つことこそ、そなたの幸せ。必ず、地位と権力のある良い相手を見つけてやろう。そなたには何一つ、不自由などさせぬ」
太いバリトンで、父親は答える。
「だけど、私には違う夢があるのです」
「シャーロット、そなたは自分の母親を忘れたのか? あの切ない最期を? もう2度と、愛する者をあのような目には遭わせまい」
シャーロットは俯き、何も言わずに父親に背を向けて去ると、そのまま舞台袖に入る。
その様子を遠くから見ていたジェラルドは、隣のガブリエルに一言声をかけると、シャーロットを追った。
舞台に残ったアンサンブルは再び合唱し、明るいコーダの後で、観客たちの温かい拍手をあとに、三々五々はけていった。
誰もいない舞台の上を、シャーロットは足早に横切った。
背景に湖が足されていることから、ハワード・ヒルズの端の方まで来ていることをうかがわせる。
シャーロットは舞台の真ん中でふと足を止め、目を閉じた。
ここで、誰もがはっと心を奪われるような優しい前奏が始まる。
シャーロットは美しいアリアを歌い始めた。
大きく広がるような旋律に乗せて、シャーロットは音楽が自分にもたらす、言い尽くせないほどの喜びを歌い上げる。
いつしかジェラルドがシャーロットを見つけ、その歌声に聞きほれていたが、シャーロットはそれにも気がつかない。
見事なカデンツァ(アリアの終盤で歌手が独自の装飾をつけて技巧を披露する部分)でシャーロットは曲を締めくくった。
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