父親

「シャーロット、何をしているんだい? その貧し……その男の人と?」


 やって来たのはオーガスト・ゴライトリー。シャーロットの父だった。

 彼は厳しい父親だった。特に、娘が自分の知らない男性と話している時には。


「ええと……それは……」


 シャーロットは口ごもった。

 ここで正直に話しては、ジェラルドをダンスパーティーに無理強いすることになってしまう。


「シャーロ……いえ、ミス・ゴライトリーが僕をダンスパーティーに招待してくださっていたのです。命を助けたお礼だと。

 滅相もないことですから、お父上が否とおっしゃるのなら僕はそれに従いますが」


 シャーロットは驚いてジェラルドの方を見たが、ジェラルドがウインクしたので、慌てて話を合わせた。


「そうですの。馬車の件はジョシュからお聞きになりましたでしょう? お礼にピッタリかと存じまして……」


 すると、オーガストは突然ジェラルドに対する態度を変えた。


「いや、全くだ。素晴らしいお礼だよ。気に入って頂けるとありがたい。ところで、挨拶が遅れたね。私はシャーロットの父、オーガスト・ゴライトリーだ。

 君はジョシュが話していたジェラルド君とお見受けする。娘を助けてくれてどうもありがとう」


 オーガストは明らかに、ダンスパーティーに招待するだけでジェラルドを厄介払い出来るのでホッとしたようだった。


「ではシャーロット、ピクニックに戻ろう。皆が探していたぞ」


 シャーロットは小さく頷いた。


「ありがとう。また今度、ダンスの練習をしましょう」


 ジェラルドに素早くそう囁くと、シャーロットは父の後に従った。


 オーガストに会ってしまったのは不幸なことだった。


 だが、良い点もある。シャーロットにもう一度会えるのだ。

 ジェラルドは遠ざかっていくシャーロットの後ろ姿を見て微笑んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る