焦燥

 1963年 7月20日


 何事も思い通りにはいかないのが人生というものだ。


 翌日は1日中、オーガストがシャーロットと共に結婚式の段取りを確認すると言い出した。

 シャーロットは隙を見てはそこから抜け出そうとしたが、常に周りに人がいて、出来なかった。

 しかし、さすがに多くの人が見ている前で逃げ出す勇気もなく、ついにニューヨーク行きのその日最後の列車が駅を出る時間も過ぎてしまった。


 シャーロットは1人、焦燥に駆られて居ても立っても居られない状況だった。

 自分の臆病さと無力さが悔しかった。

 この家で食べるのも最後だからと、オーガストがシャーロットのために用意させた豪勢な夕食も、喉を通らなかった。


 夜になり、ベッドに入っても眠りは訪れなかった。

 明日になれば、ジェラルドを助け出す望みは完全に潰えてしまう。

 このベッドで眠るのも今日で最後だとは、どうしても考えられなかった。


 ただ、ジェラルドのことを考えながらベッドの天蓋を見つめていると、夜の闇がじわじわと迫り、自分を絞めつけてくるような気がした。

 たまらなくなって、シャーロットは飛び起きた。


 大好きなあの曲が聞こえてきたのは、その時だった。

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