不安
「ああノーラ、私を助けて! 一体どうすればいいの?」
自室でノーラと2人だけになると、シャーロットは叫んだ。
ミラー宅で目を覚ましたシャーロットを、両家の親の質問攻めから救ったのはノーラだった。
彼らは縁談を進めるのに必死で、早くシャーロットの口から求婚への答えを聞き出そうとしていた。
だが、ノーラはシャーロットの脈を取るなり、大急ぎで家に帰り、ベッドに寝かせなければならないと騒いでくれた。
ノーラをお供に選んで正解だった。
「ミラー家の若様に求婚されたのですよね? 今や自由結婚の時代だというのに……。まずは、サリヴァンさんに事の次第を説明する、お手紙をお書きください。早めに帰ってきて欲しいとお願いするのです」
シャーロットはそれを聞くなり、羽ペンとインク壺、便箋を出して、手紙を書き始めた。
「デイヴィッドには、どうお返事すればいいかしら?」
プロポーズされた時に初めてデイヴィッドと目を合わせて、シャーロットは気が付いた。
デイヴィッドは、この縁談に不満こそないものの、自ら望んでシャーロットに求婚したわけではない。
シャーロットがプロポーズを断っても、彼はそれほど悲しまないような気がした。
「恐らく、ご主人様は代筆を頼んで、お嬢様がプロポーズを受け入れるという旨の手紙をミラー家に出してしまっているでしょう」
気絶したふりなど、しなければよかった。
経済的にも社会的にも権力のあるミラー家の長男からのプロポーズを断れば、オーガストはどうなるだろうと考え、一瞬だけ、ノーと言うことをためらってしまったのだ。
苦肉の策だった。
「今出来るのは、結婚式の日程を出来る限り先延ばしにすることです。デイヴィッド様との結婚式の前にサリヴァンさんと駆け落ち出来れば、問題は解決するのですから」
案の定、オーガストはシャーロットに黙って、彼女がデイヴィッドのプロポーズを受け入れたとミラー家に伝えていた。
前々から準備していたらしく、結婚式は5日後に迫っていたが、散々言い争った結果、10日後に変更してもらうことができた。
その頃なら、ジェラルドが帰ってきているだろう。
ジェラルドに宛てて出した手紙の返事は、まだ来なかった。
手紙の返事より早く本人が帰ってくるかもしれないと期待したが、それもなかった。
日が経つにつれ、シャーロットの中で不安が募っていった。
ジェラルドの身に良くないことが起こったのではないかと思うと、気が気でない。
オペラの稽古にも、ちっとも集中出来なかった。
シャーロットは、ジョージ・ヘイワードが一緒だから大丈夫だというノーラの言葉を信じるしかなかった。
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