夕暮れのワルツ

 思った通り、シャーロットは以前馬車が落ちかけた、あの崖に立っていた。


 水平線へと向かう太陽に照らされて、彼女の髪はほとんど赤く見えた。


「シャーロット……」


 彼女はハッと振り向いた。


「……ジェラルド」


 シャーロットの整った顔に、泣いているのか笑っているのか分からない表情が浮かんだ。

 彼女への愛しさと恋しさが一気にこみ上げた。


「……これまでのこと、ごめんなさ……」


 ジェラルドはシャーロットに最後まで言わせなかった。


 彼は、乱暴にも見えるほど強くシャーロットを抱き寄せた。


 そうせずにはいられなかった。


 潮風が優しく2人を撫でた。


「言っただろ、もう離さないって」


 シャーロットは頷いて、ジェラルドの肩に頭をもたせかけた。


「ワルツを、踊らない?」


 シャーロットが囁いた。


「この前、踊れなかったから……」


 ジェラルドは、耳元に柔らかなシャーロットの唇を感じながら、優しく微笑んだ。


そして、至って真面目な顔を作り、一歩離れてシャーロットに左手を差し出した。


「僕とダンスを踊っていただけませんか、ミス・ゴライトリー?」


 シャーロットはジェラルドの手に自分の右手を重ねた。


「いいわ」


 シャーロットはジェラルドの右肩に自分の左手を乗せ、ジェラルドはシャーロットの腰に右手を回した。


 2人はぎこちなく踊り始めた。


 木の葉のシャンデリアから漏れる最後の陽の光が、橙色に染まった芝生の床に複雑な模様を描き、2人は柱代わりの木の合間をぬって踊る。


 太陽がすっかり沈んでしまうまで、2人はワルツを踊り続けた。

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