第5話 やられ役の魔王、ヒロインにプレゼントする




 エルシアと過ごし、数日が経った夜。



「はああああ!!」


「ほう、自らの血液を刃として振るうか。吸血鬼の血液操作は凄まじいな」


「防御も無しで弾いておいて、よく言いますね!!」



 俺は魔王軍の所有する土地を使い、エルシアと戦っていた。


 戦っていると言っても、ただの模擬戦だ。


 エルシアが人間から吸血鬼になったのは良いが、当然ながら吸血鬼としての力を使いこなすには長い時間がかかる。


 エルシアは自身の力を完全に掌握し、自在に振るえるようになりたいらしい。


 しかし、ここで問題が生じた。


 あろうことかエルシアは、最初から吸血鬼として高い戦闘力を有していたのだ。


 もしかしたら主人公補正があるのかも知れない。


 本能的に身体の使い方を分かっている部分があるようで、並みの魔族が相手をしてもエルシアの鍛練にならないとのこと。


 というわけで、魔王軍で最強の俺がエルシアの鍛練相手を務めてるってわけ。



「はあ、はあ……。んっ、はあ、本当に、怪物ですね」


「エルシアも半年くらいダンジョンで過ごしたらこうなるぞ」


「……無理ですよ。食料や水が尽きますし、現実的じゃ……」


「人間の身体ならばな。俺は魔王。食料も水も必要ない」



 俺がそう言うと、エルシアは何かに思い至ったのか、ギョッとした。



「ダンジョンで過ごして強くなったって、もしかして同族を?」


「そこは価値観の違いだな。俺にとって真に同族と呼べるのは、魔王族のみだ。ましてや魔族ではなく魔物。人間の感覚で言うなら、猿を殺しているようなものだ」



 たしかに魔物の中にもコミュニケーションが取れる者はいる。


 しかし、いくら意志疎通が可能でも猿は猿。


 人間が猿を殺すことを躊躇するか? 答えは否である。

 殺すことそのものに躊躇はするかも知れないが、そこに同族を殺すという感覚は無い。



「そう、なんですね」


「今度、暇な時に俺とダンジョンでレベリングでもするか?」


「それってデートのお誘いですか?」


「む、そういう意図はなかったが……。それはそれで良いかも知れんな」


「少しセンスを疑います」



 酷い。



「さて、それはそうと。模擬戦とはいえ、戦いは昂って仕方がないな」


「……も、もう、本当にそういうことしか考えてないんですね!!」



 エルシアが俺を見つめて、特に下半身を見つめて赤面した。


 俺の魔剣はすでに戦闘準備が整っている。


 結婚式以来、俺とエルシアの関係は非常に良好だった。


 ためしにちょっと悪戯してみよう。



「……ちょっと。どこ触ってるんですか?」


「お尻」


「……最低です。触るにしても、雰囲気があるでしょう?」



 と、このようにお触りしても怒られない。


 まあ、もう夫婦なのだからお触り自体を咎められる謂われは無いが……。


 生き物とは単純なもの。


 一度でも肌を重ねた相手というのは気を許してしまうものらしい。


 残念ながら俺は恋愛とは無縁だったため、これが性欲によるものなのか、愛情によるものなのかは分からない。


 分からないが、互いに互いを利用する契約関係でありながら互いを求め合う仲なのは確かだ。



「嫌だったら止めておくが」


「……嫌とは言ってないです。あと、お尻ばかり触るのはやめてください」


「安心してくれ。どちらかと言うと俺は胸派だ」



 エルシアのお尻からそのまま手を這わせ、彼女の大きな果実に触れる。

 その柔らかさを表現する語彙力が俺に無いことが悔しい。


 ただ言わせてもらうなら、極上の柔らかさ。


 少し力を込めたら指がどこまでも沈み込み、力を抜いた途端に押し戻してくる弾力がある。


 流石はヒロイン。


 圧倒的な容姿に加え、この二つの凶器は男を殺しかねない。

 お尻も肉感的でありながら、腰はキュッと細く締まっており、太ももはムチムチというコンボ。


 凄まじいの一言である。


 俺がエルシアの身体をお触りしながら鼻の下を伸ばしていると、思わぬ反撃を食らった。



「ぐっ」


「ここ数日の夜は良いようにしてやられたので、お返しです」



 エルシアが俺の魔剣に優しく触れたのだ。


 その手つきはエルシア御付きのサキュバス侍女直伝らしく、腰が砕けそうだった。


 俺は思わず笑う。



「模擬戦では俺に分があるが、こちらはすぐにでも負けそうだな」


「……そう言っていつも私を鳴かせるくせに」


「今日は勝てるかも知れないぞ?」


「受けて立ちます」



 俺はエルシアの腰を抱き寄せ、そのまま自室のベッドに向かおうとした、その時だった。



「魔王様!! ご報告に参りました!!」


「……バルザック……」



 なんとタイミングの悪いことか。


 バルザックが書類を携えて、ニッコニコの笑顔でやってきた。


 そして、俺とエルシアを見てハッとする。



「申し訳ありません、魔王様。すぐに自害致します」


「「待て待て待て待て待てっ!!!!」」



 バルザックが自らの爪で己の心臓を抉り出そうとしたので、エルシアと慌てて止める。


 こいつすぐ自決しようとするな。


 いやまあ、空気を読めとは思うが、流石にそこまでの罰は望んじゃいない。


 バルザックが感涙に咽び泣く。



「おお、おお!! なんと慈悲深い!! 私は魔王様とお妃様に仕えられることが幸福です!!」


「で、報告は?」



 話が長くなる前に本題に入るよう促す。



「魔王様、魔王軍の再編が終わりました」


「む。思ったより早かったな」


「再編? 何の話ですか?」



 エルシアが俺の隣で小首を傾げている。


 俺はエルシアの問いに答えるように意気揚々と説明した。



「エルシア、魔王軍は大きく分けていくつの軍に分かれているか知っているか?」


「ええと、飛行能力を有した空魔軍、水中移動を得意とする海魔軍、陸上での戦闘に長けた陸魔軍、でしたよね」


「そうだ。そこから更に細かく分かれているが、まあ、その説明は後だ。そなたには各軍から選び抜いて新たに編成した第四の軍、ええと、名前は……」



 第四軍の名前は考えていなかったな。



「うむ、名はエルシア軍としよう」


「エルシア……軍……?」


「……名前が気に入らなかったら、好きに変えても構わんぞ?」


「いえ、安直でアレだなとは思いますけど。も、もしかして、私に?」


「そうだ。そなたに軍を与える。そなたの手足として使うといい」



 俺の発言に対し、エルシアが目を剥いて驚く。


 そりゃあ、いきなり軍の一部を任されるとかビックリするよなあ。


 でもこれは必要なことだ。



「そなたは俺の妻。魔王妃エルシアだ。自分の軍を持っていた方が良いだろう? 受け取れ」


「……まったく、貴方という人は。女性への贈り物としては0点ですよ」



 うわ、否定できない!!



「……でも」


「でも?」


「私への贈り物としては、一億点です」


「気に入ってもらえたなら何よりだ」



 俺の贈り物は復讐したいエルシアにとって、非常に喜ばしいものだったらしい。


 加えて言うなら、このプレゼントはエルシアが新たな魔王になった時のデモンストレーションも兼ねているのだ。


 エルシアがエルシア軍を率いて王国を滅ぼしたなら、魔王軍の関心はエルシアに向くだろう。


 そうなったら万々歳。


 エルシアに魔王の座を押し付けて俺は優雅な一般魔族ライフを送ることができる。


 ……まあ、理由はもう一つあるっちゃあるが。



「でも何故ここまで? 軍の再編も楽ではないのでは?」


「いや? 面倒なことは全部バルザックがやってくれる」


「魔王様のご命令とあらば喜んで!!」


「……何故ですか、魔王様? いえ、ディアブロ様」



 エルシアがバルザックを無視して、真剣な面持ちで問いかけてくる。



「……簡単な話だ」


「ごくり」


「これは、あれだ。結婚祝いのようなものだ。妻の欲しいものを用意するのは、夫の務めだと思わないか?」



 まあ、これがもう一つの理由だ。


 俺は割と真剣にエルシアとの仲を深めたいと思っている。


 夫婦としてな。


 魔王の座を押し付けようとしている反面、エルシアを喜ばせたい気持ちもある。

 我ながら矛盾していると思うが、そういうものだと思うことにした。



「ふふっ、あははは!!!!」


「……笑うことはないだろう?」


「ふふ、すみません。……ディアブロ様、ありがとうございます。お陰で復讐が捗りそうです」



 エルシアが妖しく微笑む。


 その微笑を見たバルザックは「流石はエルシア様!! 魔王様の次に素敵な笑顔です!!」とお世辞を言う。



「……ディアブロ様」


「なんだ?」


「これからのことを考えると、もっと昂ってしまいました。……その、今からしませんか?」


「する」



 俺は即答して、秒でベッドに向かった。


 バルザックが「王子か王女のご尊顔を拝謁できるのはもうすぐですね」と笑う。


 だまらっしゃい。






―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい作者の小話


作者「わいはおぱいの感触を知らん。おしりの感触も知らん」



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