第18話 やられ役の魔王、全力土下座する
「な、なあ、別に怒ってねーから顔上げろって」
「……本当にすまない」
俺は宿の一室で、真っ赤な髪と瞳の美女に土下座していた。
もう魔王の威厳も何もあったものではない。
いやまあ、リュクシュは俺が魔王ディアブロだとは欠片も知らないのだが。
などと考えながら顔を上げてみると。
リュクシュはさっとおっぱいを隠しながら、バツが悪そうに頬を赤らめていた。
「まあ、なんだ。マジで気にしてねーから。つーかオレが誘ったみたいなもんだし。そこまで謝られるのは逆にこっちが申し訳なくなるっつーか」
「そ、そうか?」
「おう。だからまあ、取り敢えず土下座はしなくていいって」
リュクシュがそう言うので、俺は土下座をやめてベッドの端に座る。
ビクッとリュクシュが身体を震わせた。俺は慌てて謝罪する。
「す、すまん。近づきすぎたな」
「あ、いや、そうじゃなくてだな。えっと、昨日お前に色々教え込まれたせいで、身体が反応しちまうみたいで……」
「……重ねてすまん」
「だから謝んなって」
くっ、気まずい!!
エルシアがいるのにマナに手を出してしまった時と同じくらい気まずいぞ!!
ど、どうしよう……。
「えっと、その、アデロ」
「な、なんだ?」
「どう、だった?」
「え?」
「だからよ、その、オレのおっぱいはどうだった?」
質問の意図が分からず、俺は困惑したが、正直に答えることにした。
「最高だった。柔らかくて、挟まれた時は腰が抜けるかと思った」
「……へへっ♡ そ、そうか♡ またして欲しがったら言えよ? お前なら、その、良いからさ♡」
「え? それは、どういう?」
「っと、オレはそろそろ行かねーと!! じゃあな!!」
それだけ言い残して、リュクシュは俺の問いに答えることなく宿を後にした。
俺はリュクシュの最後の言葉に悶々としながら宿代を払い、魔王城にある自室へと戻る。
「朝帰りとは珍しいですね、ディアブロ様」
「うお!? な、なんだ、エルシアか」
「なんだとはなんですか。妻が夫の寝室にいて悪いですか?」
明かり一つ無い俺の部屋に何も言わずに立っている吸血鬼は軽くホラーなのよ。
美少女だから余計に。
いや、というか今日のエルシア、随分と機嫌が悪いような気が……。
何かあったのだろうか。
と、俺が疑問に思っていたら、エルシアの後ろに控えていたマナが近づいてきてこっそり耳打ちしてきた。
「エルシアったら、昨日ディアブロくんとエッチできなくて寂しがってたのよ。ママと慰め合いっこするまでもっと不機嫌だったんだから」
「慰め合いっこのところを詳しく」
どうやらエルシアは俺とエッチができなくて不機嫌になり、その発散のためマナと母娘エッチしたらしい。
まず言わせて欲しい。
見たかった!! その母娘百合をこの目で見たかった!!
俺は心の中で叫びながら、エルシアに謝る。
「あー、すまない。たしかに連絡の一つでもすれば良かったな。機嫌を直してくれ、エルシア」
「……ギュッてしてくれたら許します」
可愛い。俺はエルシアをギュッと抱き締めた。
「……知らない女の匂いがします」
「ギクッ」
「……寂しがっている妻を放って、自分は気持ち良くなってたんですね?」
「そ、それはだな……」
「ふん。もうディアブロ様なんて知りません。好きなだけ他の子とエッチしてれば良いんです。私はディアブロ様のことを想いながらお母さんとするのでお構い無く」
「……」
そっぽ向いてしまうエルシア。
俺は後ろからエルシアを抱き締めて、その身体をまさぐった。
「んっ♡ ……なんですか?」
「いや、エルシアは俺を煽るのが上手いと思ってな。嫉妬してるエルシアを見て、俺が何もせずに終わると思ったか?」
「じゃあ、ナニをしてくれるんですか?」
「くっくっくっ、身体に教えてやろう」
今日中にエルシアと一緒にアヴァンへ戻るつもりだったが、予定変更だ。
俺はエルシアをベッドに押し倒し、彼女が機嫌を直すまでめちゃくちゃエッチすることに。
その途中、エルシアが訊ねてきた。
「ところで、どんな子なんですか?」
「ん? 何がだ?」
「ディアブロ様が抱いた女の子です。……気になるじゃないですか」
「……少し男勝りな性格だが、おっぱいが大きくて柔らかい奴だ」
「ふーん、そうですか」
俺がそう言うと、エルシアはまたしても不機嫌になってしまった。
しかし、今度は少し違う。
「そんなにおっぱいが好きなら、今日はおっぱいだけです。他のところは一切使いませんからね」
「ならママもそうしようかしら?」
「母娘でダブルだと!?」
まるで俺の魔剣に快楽を上書きするように、エルシアは自らの凶器を使ってきた。
マナもそれに便乗し、俺は搾り取られる。
昨日の夜、リュクシュの身体でたっぷり発散したはずのエネルギーが即充填。
それらを秒で発射してしまう。
「きゃっ♡ もう、ディアブロ様ったら♡」
「あらあら♡ たっくさん出たわねぇ♡」
おっぱい三昧、最高です。
sideアルヴェラ王国
アルヴェラ王国では今、半壊した王城の修繕が行われている。
その光景を、アルヴェラの王太子、ユリウス・フォン・アルヴェラは未だに信じられずにいた。
一夜にして王都を恐怖に陥れた犯人が、かつて愛していた少女などと。
「エルシア、どうして……」
否、理由は分かっているのだ。
他ならぬユリウス自身が、誰よりもその理由を知っていた。
その時、ふとユリウスの部屋の扉が乱暴に開かれる。
返事を待たずして部屋に入ってきたのは、ユリウスの友人であり、国境に位置するアヴァン領主の第一子。
ベルノン・フォン・アヴァンだった。
青い髪と瞳の美少年であり、いつもはクールな雰囲気をまとう人物だ。
しかし、今のベルノンはクールさとは程遠く、いつもは綺麗にまとめた長い髪を振り乱して焦っているようだった。
「ど、どうしたんだ、ベル? そんなに焦って」
「大変だ。アヴァンの街が、陥落した」
「なっ」
ベルノンの報告に、ユリウスは目を瞬かせる。
「あの街は難攻不落の要塞でもある。そう易々と落ちるはずが……」
「地下水路から敵が侵入したらしい。街に詳しくないとできない芸当だ」
「……ま、まさか……」
「多分、エルシアだ」
いつだったか、ユリウスはエルシアと彼女を好いている者たちでアヴァンに遊びに行ったことがある。
その際、ベルノンはエルシアに街を隅から隅まで案内していた。
地下水路のことも、話してしまっている。
「民はどうなった!?」
「……皆殺しだ。わずかな数が逃げ延びて、僕に報告してくれた。妹も、ミーシャもおそらくは」
「……そうか。父上に急ぎ報告する。お前は休め」
「いや、まだ報告がある」
これ以上何があるのかと、ユリウスはベルノンの言葉に耳を傾ける。
「魔族たちに主要な街道を乗っ取られたらしい」
「なんだと? つまり、それは……」
「そうだ。陸路による交易ができなくなった。いずれ食糧が高騰する」
アルヴェラ王国は周辺諸国と比べて、頭一つ抜けた軍事力を有している。
しかし、それに反比例するかのように食糧を他国からの輸入に頼り切っていた。
そのため、街道の安全を失ったのは危うい。
「僕は、どうすれば……」
「……このことは内密にしろ。父上と相談する」
「あ、ああ、分かった」
「では行ってくる」
ユリウスが部屋を出て、王のいる謁見室に赴く。
その途中。長い廊下を歩きながら、ユリウスは内心を吐露してしまう。
「……どうして、何故だ、エルシア。俺たちが憎いなら、俺たちだけを苦しめればいいじゃないか」
ユリウスは知らなかった。
王によって魔女の烙印を押されたエルシアが、王国の民から石を投げられたことを。
エルシアの憎しみの対象が、アルヴェラの血を引くすべての者に向けられていることなど、知らなかったのだ。
あるいは、目を背けていたのかも知れないが。
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
作者「主人公と王国サイドの温度差よ」
「まーた土下座してらあ」「MO★GE★RO」「シリアス具合の温度差で風邪引く」と思った方は感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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