第4話 やられ役の魔王、ハッスルする





 エルシアが生贄として送られてきてから、あれよあれよと月日は流れ。


 はい、結婚式当日です。


 と言っても、魔族の結婚式は人間のように大勢を招いて行われるものではない。


 これは結婚することになってから知ったことだが、魔族の結婚式は密室の中で新郎新婦の二人だけで行われる。


 要は、その、はい。


 今からエロいことをするわけですが、その前に何やらローブを羽織ったエルシアから大事な話がある様子。



「貴方の目的を、教えてください。魔王ディアブロ……さん」



 生贄として送られてきた日と比べて、幾分か顔色が良くなっているエルシア。


 魔王城に送られてくるまでにロクなものを食べさせてもらえなかったのか、少し痩せ細っていたからな。


 バルザックに命令して栄養のあるものを食べさせた甲斐があったというものだ。


 さて、その話は一旦置いておくとして。



「俺の目的、か」



 やられたフリして一般魔族になりたい、とは口が裂けても言えない。


 前にバルザックに相談したら大変なことになったからな。



『この私に至らぬことがありましたか!? ならばこの命を以って償いますッ!! ですのでどうか!! どうかそのようなことをおっしゃるのはお止めくださいませェ!!』



 と、自害しそうになったのだ。


 バルザックは極端な例になるが、同じように魔王ディアブロを信奉する魔王軍関係者は多いと聞いた。


 下手に俺が魔王を辞めたがっているなんて噂が広まろうものなら、自害する者が出てくるだろう。


 それはなんというか、ちょっと嫌だった。


 なので、いくら相手がヒロインと言えども情報を漏らすわけにはいかない。



「……」


「だんまりということは、やはり何か目的があると受け取って良いんですね?」


「だとしたら、なんだ?」


「いえ、好都合です。私と契約しませんか?」



 契約?



「私は、私を利用するだけ利用して、都合が悪くなったら捨てた連中が憎い。この手で根絶やしにしたい程に」


「……ふむ。俺に力を貸せとでも?」


「はい。見返りは私自身。奴らに復讐するためなら、この身を煮ようが焼こうが、貴方の目的に使うもご自由にどうぞ」



 覚悟ガンギマってんなあ。


 いやまあ、それだけ彼女を辛い目に遭わせた連中が憎いんだろうけども。



「……はっ!?」



 と、俺はそこで思い至ってしまった。


 おそらく、というかほぼ確実に、この『聖女と五人の勇者たち』の世界は俺のせいで何かがおかしくなり始めている。


 このままではエルシアをここから魔王を倒す志を持った聖女にするのは難しいだろう。


 しかし、俺は閃いた。


 もういっそのことエルシアを魔王にして、俺はその座を譲れば良いのでは? と。


 自分のことを天才だと思ったことは前世でも何度かあったが、今回に関してはその中でも随一の閃きという自信がある。


 エルシアが復讐を成し遂げた後に、それに協力した見返りとして魔王の座を押し付ける。


 完璧な作戦だ。


 俺は不敵に笑いながら、エルシアの差し出した手を取った。



「良いだろう。契約成立だ」


「……ありがとうございます。では、その、さっさと済ませましょう」


「済ませる?」



 そう言うと、エルシアは羽織っていたローブを脱いだ。


 ローブの下にあったのは、露出度が高すぎる衣装。

 というか大事な場所を布で隠しているだけで、他は肌を晒していた。


 その布も向こう側がうっすらと透けて見えるような極薄の生地で、敢えてハッキリ言わせてもらうなら……。


 エッ!!!! である。


 エルシアは俺の視線を感じ取ったのか、少し頬を赤らめた。



「あ、あまりジロジロ見ないでください。私だってこんな破廉恥な格好、本当は嫌なんですから!!」


「な、ならば、何故着ているのだ?」


「……サキュバスのお姉さんたちが、目をキラキラさせながら勧めてきて……断ろうとしたら、凄くうるうるした目で見られて……断れず……」



 ……ふむ。


 やはり根はヒロインのままなのだろう。お人好しというか、断れない性格が出ている。



「に、似合っているぞ?」


「それは私が、この破廉恥な格好が似合うはしたない女に見えるということですか?」


「ち、ちが、そうではない!!」


「じゃあどうなんですか?」



 やべー!! 言葉選びミスった!!


 ど、どうする? ここは何か気の利いた台詞を言わなくては!!



「そうではなく!! あ、ありのままのそなたが美しいと言っているのだ」


「……それ、私を愛すると言った王子様も言ってました」


「ちくしょう!! すまんな、失言の多い魔王で!!」



 くっ、このままだと気まずい!! 何か、何か良い手だてはないか!?



「男の人って口ではなんとでも言えますよね。もっと行動で示して欲しいです」


「行動……行動……はっ!!」



 混乱した俺は、自分でも頭のおかしいと思う行動に出た。


 相手が裸同然となっているのに、自分は服を着たままというのはフェアじゃないとか、絶対に今考えることじゃないことを考えていた。


 すなわち――ボロン!!


 俺の聖剣……。

 いや、今の俺は魔王だし、魔剣と呼ぶ方が正しいのだろうか。


 天を貫く勢いでそり立つそれを、エルシアに見せ付けた。



「なっ、え? こ、これって、男の人の? こ、こんなに大きいの……?」



 それを見せ付けると、エルシアは困惑の表情を浮かべた。


 『聖女と五人の勇者たち』は攻略対象との結婚シーンでキスする描写はあるものの、基本的には全年齢向けだ。


 つまり、エルシアはエッチなことをした経験は無い!!

 攻略対象と結婚式を挙げていない今、キスすらしたことないだろう。


 しかし、エルシアの困惑の表情は次第に別のものへと変わった。


 興味と興奮。


 俺の魔剣を見たエルシアは、息が当たるほどの距離まで近づいてきて、匂いを嗅いだりしてきた。


 心なしか、目もとろんとしている。



「今から行動で示そう」


「へ? あ、ちょ、ま――」



 俺はエルシアをベッドに押し倒し、無事に魔族流の結婚式を終えた。


 これは後で知ったことだが……。


 結婚式に使った部屋は精力と性欲を限界まで高める効果のある香が焚かれていたらしい。


 俺が意味不明な行動をしたり、エルシアが俺の魔剣を見て興奮したりしたのは、おそらくそのお香の効果なのだろう。


 それはもう、お互いに獣のように貪り合った。



「私たち、これで結婚したことになっちゃうんですよね……?」



 と、エルシアが言った時は腰に力が入った。


 なんというか、目の前の女を自分のものにしたいという独占欲が湧いてきて、それをエルシア自身にも分からせたかったみたいな……。


 ちょっとキモイこと言ってるかも知れないが、とにかく最高でした。はい。


 めっちゃハッスルしました。はい。






―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい作者の一言


作者「作者もこんな結婚式がしてみたい。え? 相手がいないだろって? はい、今そう思った人に結婚できなくなる呪いをかけました。呪いを解いて欲しかったら★評価、レビューをよろしく!!」


魔王「ベタな評価乞食だな……」



「後半ニヤニヤした」「呪いをかけられた!!」「この★乞食め!!」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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