第24話 やられ役の魔王、攻略対象を拐う




 ドット・フォン・カイマン。


 アルヴェラ王国騎士団の若手騎士であり、女性の扱いに慣れている、謂わばチャラ男だったキャラクターである。


 チャラ男だったと表現したのは、エルシアが更正させたからだな。


 紫色の長い髪を束ねたイケメンである。



「はあ、隕石落下に巻き込まなくて良かった」



 攻略対象たちはエルシアの本命の復讐相手だ。


 それを間違ってでも俺が倒してしまったら、絶対に機嫌を損ねてしまう。


 生きていてくれてありがとう、ドット君。


 とは言え、さっきまとめて葬った王国軍の中にドット以外の攻略対象が混じっていたら大変なことになる。


 俺は急いで地上に降りて、数少ない仲間の手当てをしているドット君に話しかけた。



「お、お前は、魔王!!」



 俺の顔を見たドットが剣を構える。


 生き残った数少ない騎士たちは大なり小なり怪我を負っているようで、戦う意志は見られない。


 というより、完全に心が折れたようだ。



「俺の命を狙って、エルシアと共に魔王城へ乗り込んできた奴だな。あの時の連中は今ので死んだか?」


「あいつらは別行動中だ。お前には関係ないだろ」



 ドットは身体を震わせながらも、強気な態度を見せてきた。



「それもそうか。今日はお暇しよう」


「……殺さないのか?」


「俺はお前たちの命に興味は無い。お前たちを殺したがっているのはエルシアだ」



 俺のやりたいことと言えばレベリングくらいだからな。

 本来の目的である封印は回避してしまったし、本当にただの趣味だが。


 あとはエルシアたちとのエッチである。


 それ以外の魔王軍に関することはバルザックに任せれば大丈夫だし。ああ、あとダンジョン探索も好きかな。


 その他のことはあまり興味ない。


 攻略対象やアルヴェラ王国のこともエルシアがやりたがっているから手伝っているだけ。



「ああ、そうだ。今回のエルシアへの手土産はお前にしよう。安心しろ、殺しはしないから」


「っ、や、やれるものならやってみろ!!」



 剣を構えて、向かってくるドット。


 遅い。あまりにも遅い。止まって見えると言っても過言ではない。


 俺はドットの振り下ろした剣を、指先で受け止めてやった。



「なっ、ぐっ!! 剣が、動かせない!?」


「前よりも少し強くなったようだが、俺の方が強くなってしまったらしい」


「くっ、だったら!! ――ライトニング!!」


「む」



 ドットが雷の魔法を放ち、俺の顔面にクリティカルヒットする。


 そうだったな、完全に忘れていた。

 ドットは剣も魔法も扱える魔法剣士スタイルのキャラクターだったな。



「けほっ。今のは驚いたな」


「ば、馬鹿な。ワイバーンの鱗すら貫いた魔法だぞ!?」


「俺の肌はワイバーン以上ということか」



 何だろう。改めて冷静に考えてみると、俺ってマジモンの怪物だよな。


 いや、魔王だからマジモンの怪物だけどさ。


 雷が頭に直撃しても髪の毛が焦げすらしないって相当な頑丈さだ。


 少し自分が怖くなってきたな。



「うぐっ」



 無言の腹パンでドットの意識を刈り取る。


 ……ミーシャの時もそうだったが、最近の俺は誰かを拉致してばかりだな。


 まあ、別に良いけど。














sideアルヴェラ王国





「ドットが敵に捕まった、だと!?」



 アルヴェラ王国の王太子、ユリウス・フォン・アルヴェラは部下の報告に愕然としていた。


 改めてユリウスが報告に耳を傾ける。



「は、はい。先程王都を出立した王国軍五万が、上空から降り注いだ巨岩の雨の直撃で壊滅しました。生存者は千人にも満たないようです」


「空から岩を降らせるなど、そ、そんなことが可能なのか?」


「少なくとも、生存した魔法使いがそう証言しています。人間では扱えないような、凄まじい魔力を要する極大魔法だと」



 人間では扱えないと聞いて、ユリウスは最愛だった少女の姿を思い浮かべる。


 もしかしたら、人間をやめてしまった彼女の仕業なのかと。



「そう、か。それでドットはどうなったと?」


「はっ。それが、生存者を探して治療に当たっていた際、上空から姿を現した男に連れ去られてしまったようです」


「男? どういう男だ?」


「ええと、灰色の髪の人物で、ドット様が手も足も出ないほどの強者だったと」


「灰色の髪の、男!?」



 ユリウスには心当たりのある人物がいた。


 それは、エルシアと共に魔王城を襲撃した際、最奥で自分たちを待ち受けていた存在。


 即ち、魔王である。



「……そうか。やはり、そうか」


「ユリウス殿下?」



 ユリウスの中でユリウスにとって都合の良いシナリオが描かれる。



「ようやく得心が行った。エルシアは魔王に操られているんだ!! でなければ、あの優しい彼女が大勢の人々を苦しめるわけがない!!」


「は、はあ、そうですか」


「彼女に、会いに行かなければ。会って話をして、俺が魔王の洗脳を解く!!」



 ユリウスは己の空回りしている正義感に気付かず、部屋を飛び出した。


 その矢先、ある人物に遭遇する。



「ユリウス。どこへ行くのだ?」


「ち、父上!! 止めないでください!! 俺は魔王からエルシアを取り戻しに行きます!!」


「……ならぬ」


「な、何故ですか!!」


「ならぬものは、ならぬ」



 部屋を飛び出したユリウスが遭遇したのは、アルヴェラ王国の国王ことアルヴァンス・フォン・アルヴェラ、その人だった。


 ユリウスは自らを止める国王、アルヴァンスに食い下がる。


 

「エルシアは魔王に操られているんです!! 正気に戻せば、きっと魔王を倒すのに協力してくれるはず!!」


「……仮に操られているとして、どう正気に戻すつもりだ?」


「俺たちには愛があります!! 学園で共に過ごし、培ってきた本物の愛が!!」



 ユリウスは本気でそう思っている。


 エルシアがユリウスたちやアルヴェラ王国を激しく憎悪する理由も知らずに、本気でそう考えているのだ。



「……ならぬ。そなたは国の未来を担う王子。危険な真似はさせられん」


「では、ではどうするのですか!!」


「余は『あれ』を、聖竜を目覚めさせるつもりだ」


「なっ」



 聖竜。


 それは古くから王国の地下で眠り続けている守護者でありながら、意志を持った災害。


 目覚めさせるだけで王族一人の命を奪い、大勢の民を巻き込みながら災いを退ける、王国にとっての切り札。


 まさに最終兵器である。


 以前の会議で賢者ナリアからその起動を止められて決定は先送りになっていたが……。

 アルヴァンスは聖竜を目覚めさせる決意を固めたらしい。



「聖竜を目覚めさせれば、王国は甚大な被害を被るだろう。しかし、魔女エルシアはそうする必要があるほど危険だ」


「で、でも、彼女は魔王に操られていて!!」


「知ったことではない。王国のために生贄となるはずだった女が、どうやってか魔王に取り入り、王国に牙を剥いている。洗脳されていようがいまいが、それは事実だ。ならば、奴を確実に仕留めねばならん。そうしなくては、王国に未来はない」



 アルヴァンスの意志は固い。


 こうなったら何をしても決定を覆さないことは息子であるユリウスが誰よりも知っている。



「余は聖竜に命を捧げ、死ぬだろう。その後のことはそなたに任せる。今日は最後の挨拶に来たのだ」


「なっ、ま、待ってください、父上!!」


「さらばだ、我が息子よ。近衛兵、ユリウスを聖竜が目覚めるまで拘束しておけ。邪魔をされてはならんからな」


「「「「はっ!!」」」」


「父上!! お待ちください!! 父上!!」



 アルヴァンスの命令に従い、王を守る近衛兵たちがユリウスを拘束する。


 斯くしてアルヴァンスは自らの生命と引き換えに、王国の地下深くに眠る聖竜を目覚めさせるのであった。





―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「次回、エルシアの復讐タイム!! デュエルスタンバイ!!」



「主人公が拉致るのに慣れてきてて草」「王様が無駄死にになりそう」「ざまぁまでが長かったなあ」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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