第23話 やられ役の魔王、王国軍を殲滅する





「王国の切り札、か」


「うむ」



 魔剣の暴走がようやく収まり、理性を取り戻した俺はナリアから有益な情報を受け取っていた。


 それは前世で『聖女と五人の勇者たち』をプレイしていた俺は知っているが、エルシアは知らないもの。


 エルシアが難しい顔で頷く。



「かつて聖女と勇者が育てた竜であり、今は王国を守る存在、ですか。……厄介ですね」


「そうだな」



 ゲームにも聖竜は登場している。


 と言っても、聖竜が登場するのは終盤も終盤、ラストシーンである。

 それもエルシアが攻略対象全員から好意を向けられている逆ハーレムルートのみの登場だ。


 聖竜の役割は王国の秩序を守ることであり、王国を揺るがす存在を許容しない。


 エルシアが攻略対象全員からの好感度を高め過ぎていると、王国の秩序を乱しかねない存在として大変な目に遭うのだ。


 まあ、攻略対象はどいつもこいつも権力を持った王子や未来の重鎮たちだからな。

 そいつらが揃いも揃って一人の女に惚れているとか国の行く末が心配にもなるのだろう。


 逆ハーレムルートでは好感度の調整が難しく、俺も前世の妹と試行錯誤の末にようやくクリアしたルートだ。


 まあ、魔王を倒すか封印したらフラグが成立するようになっていてな。


 聖竜はエルシアが飼い主の生まれ変わった姿だと気付いてめちゃくちゃ懐き、エルシアと攻略対象たちを祝福する。


 人類最強枠はナリアだが、作中最強なのは聖竜だろう。


 今の俺とどちらが強いか確かめたいな。



「エルシア。聖竜が出た時は俺に任せてくれないか?」


「よろしいのですか?」


「ああ。倒したらどれ程の経験値になるか、すごく気になるからな」


「ふふっ。流石はディアブロ様です」



 俺がそう言うと、エルシアは笑った。



「いや、ご主人様よ。それは無謀じゃぞ」


「なぜだ?」


「奴の正確なレベルは分からんが、竜は生きているだけでレベルが上がる生き物じゃ。儂と同じくらい長生きしておるから、多分Lv1500はある。あくまでも最低でその値なのじゃ。下手したら倍以上あるかも知れん」


「ふむ、となるとLv3000か。もしかしたらそれ以上と」



 それなら倒せそうだな。


 実はここ最近、俺のレベルが上がっていなかったりする。


 確認してみたらLv999になっていた。


 つまり、魔王族Lv999と魔族Lv999、合計で俺のレベルは1998。

 聖竜と同格の力を得るにはもう一種族を極めてしまえば良い。


 問題は次にどの種族を極めるかだな。



「よし、悪魔族にするか」



 俺は胸ポケットから転生石を取り出し、早速種族を変えてみた。


 悪魔族は魔法を得意とする種族。


 元から魔王族として高い魔力を有している俺がこの種族になったら、その魔法がどれ程の威力になるのか自分でも想像もできない。



「む? ご主人様の魔力の気配が変わった? この魔力は……悪魔族か?」


「ご名答」



 流石は賢者だ。


 即座に魔力の変質を察知し、俺が先程までとは別の生き物になったことに気付いたらしい。

 俺はレベル測定用の魔導具を使い、改めてレベルを確認する。


 すると、今度はレベルの表記が『Lv1(★2)』に変わっていた。


 以前は(+999)だったが、二つ以上の種族でレベルを最大にしたから表記が変わったのかも知れない。


 となると(★2)は二つの種族をカンストさせたという意味で合っている、はず。



「さて、と。どこかに冒険者でもいないかな」


「そう都合良くはおらんじゃろ」



 俺の好戦的な発言に対し、ナリアがどこか呆れた様子で言う。


 仕方ないじゃないか。


 レベリングは俺にとっての数少ない娯楽であり、趣味なのだから。


 あとはエルシアたちとのエッチだな。


 レベリングとエッチはアニメやゲームのような娯楽が無いこの世界では最高の娯楽と言っても過言ではない。


 ……いや、レベリングはともかくエッチを娯楽と言うのはやめておこう。


 自分が物凄くヤリチンになった気になる。


 まあ、実際に前世の記憶を取り戻してから隙を見てはヤりまってるし、あながち間違いではないかも知れないが。


 俺は自分をヤリチンとは認めたくない。


 言い訳に聞こえるかも知れないが、しっかり一人一人を大切に思っているからな。


 そこは理解して欲しい。



「ディアブロ様、どうやら早速レベリングの機会がやってきたようですよ」


「ん? どういうことだ?」



 エルシアが妖しく笑って言う。



「どうやら王国が軍を派遣し、アヴァンの街へ進軍を始めたようです」


「アルヴァンスめ、儂の交渉が失敗すると見越して軍の準備を整えておったのじゃな。しかし、なぜ分かるのじゃ?」


「コウモリをアンデッド化して使役しているんです。視覚を共有できるので、情報収集がてら王都付近を見張らせていました」



 ほほう、コウモリのアンデッドか。


 すごく吸血鬼っぽいな。気になるから後で少し見せてもらおう。



「なら、そいつらは俺がもらっても良いか?」


「構いませんけど、全滅はさせないでくださいね? きちんと私が苦しめる分も残しておいて欲しいです」


「分かっている。俺は妻の楽しみを奪うような男ではない」


「ふふっ、そうですね」



 俺は飛翔し、大空を舞う。


 この身体に転生して良かったと思うのは、空を飛ぶ時だな。

 鳥になった気分を味わえるし、単純に移動速度が徒歩と段違いだから。



「おお、見えた見えた。たしかに凄まじい数だ」



 上空から王都近辺を見下ろすと、万単位の軍が移動していた。


 いくつかの街を経由し、最短距離でアヴァンの街へ向かっているらしい。

 万単位の人間が列を為して進む光景は圧巻の一言だった。


 うーむ。

 魔王軍と正面から戦わせたら、数の上では王国軍の方が有利かも知れないな。


 もっとも、あくまでも数の上での話。


 個々の戦闘能力は明らかに魔王軍の方が上で遅れを取ることはない。



「それにしても、アルヴェラの王様は思い切りが良いな。まさかとは思うが、全軍を動かしているのか?」



 普通は王都にも最低限の戦力は残しておいて然るべきだろう。


 しかし、眼下の王国軍はそれを考えていない。


 戦力を動かせるだけ動かして、エルシア軍にぶつけようとしている。



「まさか兵士たちを捨て石にして、その間に聖竜を目覚めさせる気か?」



 聖竜は王国の地下で眠っている。


 そして、聖竜を目覚めさせるには王族が魔力を流し込む必要があり、それなりの時間を要するのだ。


 この大規模な行軍がそちらから目を逸らすための囮である可能性は十分にある。



「……まあ、どちらでも良いか」



 聖竜に勝つためには、王国軍の多くを始末せねばならない。


 囮であろうとそうでなかろうと、彼らの行く末は決まっているのだ。



「ダークネスメテオストーム」



 俺は体内の魔力を練り上げて、隕石を落とす魔法を発動した。


 ストームという単語から分かるように、落とす隕石は一つや二つではない。


 その数、数百。



「全滅はするなよ。俺がエルシアに怒られてしまうからな」



 隕石の大嵐は地上を這うしかない王国軍を無慈悲に蹂躙した。


 生き残った者はあまり多くない。


 それと同時に俺の中へ経験値が入ってきた時の独特の快感があった。


 背筋がゾクゾクしてしまう。



「んっほおっ、コレコレ!! このレベルアップした時の感触がエッチと同じくらい気持ち良いんだよなあ!!」



 頭の天辺から爪先に電流が流れたような、生き物としての格がワンランク上がったかのような感覚が堪らない。


 俺のレベルはたった数分の間にカンスト近くまで上がるのであった。



「ん? おっと、まじか」



 生き残っている王国軍の中に、見覚えのある人物が混じっていた。


 その人物の名はドット・フォン・カイマン。


 代々王国騎士団で騎士団長を務めるカイマン家の嫡男であり、乙女ゲーム『聖女と五人の勇者たち』の攻略対象である。


 


―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「予言しよう。聖竜は絶対に人化して性竜になる、と」


デ「それ言って良いの?」


作者「……」



「聖竜……性……竜……閃いた!!」「大体予想できて草」「作者が自分からネタバレするスタイル」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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