第25話 やられ役の魔王、竿になる






 気絶させたドットを連れてアヴァン城に帰還した俺は、エルシアと合流した。


 エルシアがドットを見て顔を歪める。


 今までに何度か見た中でもダントツの、いっそ清々しい程の邪悪な笑みだった。

 いつもの女の顔からは想像もできないその笑みが少し怖い。


 エルシアは普通に笑っている方がずっと可愛いと思うが……。


 そのための復讐だ。


 俺は余計なことを言わない男なので、エルシアを見守ることにした。



「ふんふんふーん♪」



 エルシアが鼻唄を歌いながら、ドットの手足を拘束して椅子に縛り付ける。


 ご丁寧に魔法を封じる枷を装備させて。



「ディアブロ様」


「なんだ?」


「彼が目を覚ましたらイチャイチャしても良いですか?」


「……見せ付けるのか」


「はい♡ 何ならエッチもしましょう!!」



 エルシアが積極的だ。俺も魔剣がバキバキだぜ。



「ぐっ、ここは……」


「エルシア。どうやら彼がお目覚めのようだぞ」


「える、しあ?」



 虚ろな目で周囲を見回していたドットが、エルシアの名を聞いた途端にハッとする。

 そして、エルシアとドットはついに感動の再会を果たしたのだ。


 エルシアが笑顔で話しかける。



「お久し振りです、ドット様」


「エルシア、君なのか? 本当に?」


「まあ、酷いですね。しばらく会っていないだけで私の姿をお忘れですか?」


「いや、いいや!! 僕が君のことを忘れるわけがない!!」


「……ドット様は、まだ私のことを愛してくださっているのですか?」



 エルシアの問いに対し、ドットは即答する。



「当たり前だ!! 僕は、僕は君のお陰で変われたんだ!! そんな君を愛していないわけがない!!」


「……そうですか。それは、良かったです」



 ドットは元々複数人の女の子に手を出すチャラ男だった。

 それは彼が代々騎士団長を務めるカイマン家に生を受けてしまったことが原因だ。


 一族の期待を一身に背負った彼は、両親から厳しく育てられた。


 しかし、騎士団長だったドットの父が魔物退治の最中に部下を庇って死亡。

 当時副団長だった母が騎士団長の座を継いだが、引き継ぎやら新人の育成やらでの無理が祟り、病に伏せてしまう。


 厳しかった両親の目が無くなり、ドットはそれまで抑圧されてきた反動で複数人の女性に手を出すチャラ男になってしったのだ。


 そんなチャラ男になってしまったドットを更正させたのが、他ならぬエルシアである。


 ドットはいつもの調子でエルシアをナンパし、そこで『貴方のように女性をアクセサリーみたいに侍らせている人は嫌いです』と一喝される。


 今までドットに落とせなかった女はおらず、ドットはプライドを刺激されてしまう。

 それを切っ掛けにドットとエルシアの交流が始まるのだ。


 そして、最終的にドットは心優しいエルシアに本気で惚れてしまうというシナリオだな。


 そのドットは、今でもエルシアを愛している。



「そうですか、それは良かったです。復讐が捗りそうですから」



 エルシアが笑顔のまま言う。


 ドットは『復讐』と聞いて苦虫を噛み潰したような表情を見せた。

 エルシアを見捨てたことを悔いているのだろうか。


 仮に悔いているとしても、それは遅すぎる後悔という奴だ。


 エルシアは俺の腕に抱きついて、その育ちすぎたと言っても過言ではない豊満なおっぱいを押し付けてくる。


 おおっ、柔らかい!!



「ああ、でもドット様たちには感謝してるんですよ? お陰で素敵な男性と出会うことが出来ましたから。あんっ♡ もう、ディアブロ様。もう少し待っててください」


「エルシアが言ったのではないか。俺たちの相思相愛っぷりを見せてやろうと」


「言いましたけどぉ♡ あんっ♡ ふふ、分かりました。すみません、ドット様。ディアブロ様がもう我慢できないそうなので、貴方はそこで見ていてくださいね?」



 エルシアの発言を開始の合図だと思った俺は、遠慮なく彼女の体に手を伸ばした。









sideドット




 僕は、何を見せられているんだ?


 ずっと会いたかった愛しい少女が、憎き魔王の手でよがっている。

 その色白な肌に躊躇いなく触れて身体の隅々まで貪っている。


 その光景を嫌でも脳に焼きつけられる。



「あんっ♡ あんっ♡ ディアブロ様っ♡ いつもより激しっ♡ 私が元カレとお喋りしてたから嫉妬しちゃったんですか? 可愛いですっ♡」


「嫉妬なんてするわけがないだろう」



 エルシアの腕よりも太く長い『それ』が、彼女の身体を貫いて抉る。

 それをエルシアはただただ幸せそうに受け入れていた。


 本能のままに貪るオスと、そのオスを受け入れているメス。


 獣だった。


 誰も知らない、僕ですら知らないエルシアが目の前にいる。


 でも、かつて女遊びにハマっていた僕は嫌でも分かってしまう。

 エルシアのその顔は、女性が心と身体を許した相手にだけ見せる女の顔なのだと。



「ぷっ、ふふ。見てください、ディアブロ様。ドット様ったら……」



 ふと、エルシアが僕の方を見て笑う。


 その視線の先は、恋人が奪われて情けなくも大きくなっている『それ』だった。



「何が愛してる、ですか。本当に私を愛しているなら、他人に抱かれている私を見て興奮しないでしょう?」


「こ、これは……」


「ああ、言い訳は結構ですよ。貴方の気持ちはよく分かりましたから。愛してる女の子を奪われて興奮する変態さん?」



 最愛の少女が僕の痴態を見て嘲笑する。



「ふふっ、ドット様。実はここだけの話、魔王様ったら私以外の女の子にも手を出している悪い方なんですよ?」


「な……」


「昔、私は貴方に言いました。『貴方のように女性をアクセサリーみたいに侍らせている人は嫌いです』って。酷い人ですよね。でも、この御方は一人一人をしっかり愛してくださるんです。貴方とは違って」



 僕を変えてくれたエルシアは、もう変えられてしまっていた。


 僕は静かに目を閉じる。


 この現実を直視していたら、頭がおかしくなりそうだったから。


 でも、他ならぬエルシアがそれを許してはくれなかった。



「勝手に目を閉じないでください」


「うぐっ」



 突然、首を絞められて思わず目を開いた。


 エルシアが魔王に抱かれながら僕の首をその手で掴み、本気で絞めていたのだ。


 息が出来ない。苦しい。



「あんっ♡ 見てください、ディアブロ様♡ ドット様――いえ、もう名前で呼ぶのも面倒ですね♡ この人間、首を絞められて興奮してるみたいですよ?」


「あ、ああ。人間は死を予感すると生殖本能を発揮すると何かで読んだな」



 嘲笑するエルシア。


 そして、どこか僕に同情するかのような哀れみの視線を向ける魔王。


 ふざけるな、ふざけるな!!



「魔王……ッ!! お前だけは、お前だけは絶対に!!」


「え? 俺?」



 そうだ。全て魔王のせいだ。


 こいつがいなかったら、僕たちは幸せになるはずだったのに。


 僕はエルシアを守る騎士になるはずだったのに。



「ふんっ!!」


「ッ!? ぐあ――ッ!!!!」



 下半身に激痛が走る。


 エルシアが僕の大きくなった『それ』を容赦なく蹴飛ばしたのだ。


 鈍い痛みに悶絶し、僕は椅子に縛られながらも思わず前のめりになって蹲る。


 エルシアは僕の髪を乱暴に掴み上げ、無理矢理顔を上げさせた。



「本当にどうしようもない人ですね。自分の不甲斐なさをディアブロ様のせいにするなんて。一時でも貴方を好いていた自分が心から恥ずかしいです」



 一瞬、失望した顔を見せたエルシア。


 しかし、すぐにその顔も消えてしまった。

 何の興味も無さそうな、路傍の石を見るような目に変わったのだ。



「あ……あぁ……」


「まあ、もう興味もないので別に良いですけど。ディアブロ様、続きをしましょう?」


「……て」



 気が付くと、僕は声を搾り出していた。



「はい?」


「殺してくれ。もう、殺してくれ」



 もう生きているのが嫌になった。


 このまま彼女が魔王と愛し合う姿を見せられるくらいなら、いっそと。


 でもエルシアは、僕に慈悲を与えなかった。



「安心してください。殺したりなんて、そんな酷いことしませんよ。私から貴方に二つの贈り物があるんです」


「……ぇ?」



 そう言うとエルシアはどこからか拘束具のようなものを取り出した。



「コレ、貞操帯って言うらしいんです。騎士や兵士の方が長期遠征する際、妻に着けさせるそうですね? これは男性用ですけど」


「な、にを……?」


「これを着けちゃったら、自分で慰めることもできません。きっと辛いでしょうね?」



 エルシアはそれを、無理やり僕に装着した。



「気が向いたら、また私たちの乱れる姿を見せて差し上げても構いませんよ? まあ、貞操帯を外すかどうかは魔王様がお決めになられることですが。もしかしたら、私とこっそり肌を重ねられるかも知れませんね?」


「エルシア」



 悪戯っぽく笑うエルシアの名を、魔王が真剣な面持ちで呼ぶ。



「あんっ♡ 怒らないでください、ディアブロ様。冗談に決まってるじゃないですか」


「……今日はお仕置きだな」


「ふふ、はい♡ 浮気をちらつかせた悪い女を存分にお仕置きしてください♡ あ、こちらは貞操帯の鍵ですけど――えいっ」



 エルシアが僕の貞操帯の鍵を握り潰して破壊してしまった。


 僕はもう永遠に、このままということだ。


 すると、エルシアは思い出したように手をポンと叩いた。



「あ、もう一つの贈り物というのは私の血です。自害されたら面白くないですし、アンデッドにしてあげます。大丈夫ですよ、自我は残しますので」



 エルシアが微笑む。


 僕の大好きだった優しい笑顔ではなく、相手を嬲るような邪悪な笑みだった。



「存分に、絶望してくださいね?」



 ああ、神様。


 僕は自分の精神が少しでも早く狂うことを、神に願うしかなかった。





―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい?小話


作者「多分今回が作者の癖が一番出てる。……怒られないかな? 直接的な描写は一切してないし、セーフだよね?」


「わざわざNTR視点で書いてるのは作者の癖なのか」「アウ……セーフ!!」「ダイレクト描写はないからセーフ」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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