第27話 やられ役の魔王、勃◯しながら空中戦する





『……君は?』


「俺はディアブロ。魔王と言った方が通じるのではないか?」


『そう、君が……。直接会うのは初めてだね』



 俺は黄金に輝く鱗を持った巨大な竜と対峙していた。


 聖竜の声は頭の中に直接響いてくるようで、不思議な感覚に襲われる。



『ボクは聖竜。名はアルシオン。王国の秩序を守る竜であり、王国の敵を葬る者。君を始末する』


「直球だな。容易くはないぞ」


『ボクの前に立つ者は皆そう言う。結局、君も大したことはないのだろうね』


「決めつけてくれるじゃないか」



 聖竜改め、アルシオンが全身から凄まじい魔力を迸らせる。


 俺も同様に魔力を放ち、牽制した。



『戦う前に一つ聞いても良いかな』


「なんだ?」


『……君は、その、えっと、どうして、それを大きくしてるの?』



 アルシオンが俺の股間の魔剣を見つめながら、少し遠慮がちに問うてくる。



「お前を倒したらハーレムエッチができる」


『……は? ふざけてんの?』



 俺の至って真面目な回答に対し、アルシオンは声を低くする。


 どうやら機嫌を損ねてしまったらしい。


 アルシオンがよりいっそう凄まじい魔力を迸らせて俺を威圧してきた。



『死ね』



 その直後、アルシオンが口から光線を放った。


 超極太のレーザービームも斯くやという圧倒的な熱量のブレス攻撃である。



「いきなり撃ってくるか!! ダークネスフレイム!!」



 俺はアルシオンのブレスに正面から魔法で応戦してみたが、火力はほぼ互角。


 王国軍を殲滅したことで俺のレベルはかなり上がった。

 だから余裕だと思って高を括っていたが、まさかの破壊力である。


 このままだと押し切られるな……。


 でもまあ、一発の魔法では駄目なら何十発も重ねて撃てば問題あるまい。


 単発ではこちらが劣っていても、アルシオンの口が一つしかない以上、全てを防ぎ切るのは不可能だ。



「ダークネスライトニング!! ダークネストルネード!! ついでにダークネスフレイム!!」


『っ、ぐっ』



 あらゆる攻撃魔法を連続で叩き込む。


 アルシオンは堪らずブレスによる攻撃をやめて防御に徹した。


 こちらの攻撃が思ったより効いているらしい。



『す、少し侮っていたよ。思ったよりやるみたいだね』


「謝るなら今のうちだぞ」


『……君はボクの神経を逆撫でするのが上手だね。ボクは聖竜アルシオン。聖女アリシアと勇者アルヴィンの竜。魔の者に下げる頭は――無い!!』


「そうか。だったら潰す!!」



 アルシオンが翼をはためかせ、上昇する。



「む。下げる頭は無くとも、巻いて逃げる尻尾はあるようだな」


『……君、いちいちムカつくね』


「俺もお前にムカついていてな」



 さっき馬車の中でハーレムエッチできなかったのはアルシオンのせいだからな。


 俺もアルシオンの背を追って上昇した。


 よく戦記モノの映画だと空中戦は上を取った方が有利って言うしね。

 上から一方的な攻撃を受けるのは嫌だし、可能ならこちらが上を取りたい。


 しかし、俺と竜のアルシオンでは素のスピードに大きな差がある。



『遅いね!! さっきまでの威勢はどうしたのかな!!』


「逃げてるのはそっちだろう? 偉そうにするな」



 こうして、俺はアルシオンとの空中戦に臨むのであった。







sideエルシア




 こういう時、私は無力だと思う。



「あらー。凄いわね、ディアブロくんったら」


「流石はお兄様」


「は、速すぎて何も見えねー」


「うーむ、レベルが高すぎる者同士の戦闘はああも派手なのじゃなあ」



 空を見上げると、そこでは想像を絶するほどの凄まじい戦いが繰り広げられている。


 私も大勢の人間を殺し、それなりにレベルは上がったはずだが、ディアブロ様のお姿を辛うじてしか捉えられないでいる程だ。



「私がもっと強かったら、ディアブロ様のために戦えたかな」



 私はディアブロ様に絶大な恩を感じている。


 信じていたものに裏切られた私に、復讐の機会をくれたから。

 いつかは必ずディアブロ様に恩返ししたいと考えている。


 でも、その日はまだ少し先だ。


 少なくとも今の私がディアブロ様にできることは何も無いのだから。



「あっ!!」



 その時だった。


 ディアブロ様に聖竜のブレスが直撃し、数百メートルほど落下してしまう。


 しかし、すぐに態勢を立て直して上昇した。



「今のはヒヤッとしたわね」


「お、お母さん。ディアブロ様、大丈夫だよね?」


「そうね……。大丈夫だとは思うけど、私たちには信じて待つことしかできないから」


「それは、そうだけど……」



 ディアブロ様と聖竜の激しい戦いに割って入ったところで、私は役に立てない。


 レベルに差がありすぎる。



「師匠、どうにかなりませんか?」



 私はこの場にいる中で最も強いであろう師匠、賢者ナリアに意見を求めた。


 すると、師匠は嫌そうに顔を歪める。



「儂に聞くでない。儂もそれなりに強いが、あれは人外の戦いじゃ。儂も寿命を克服した身ではあるが、まだ人間の範疇からは出ておらん。あんなものに割って入ったら秒殺されるのが落ちじゃ」


「そうじゃなくて、こう、間接的にサポートする方法はないんですか?」


「無い。儂らにできることは、ご主人様の戦いの邪魔にならぬよう、さっさとこの辺りから離れることじゃ。ほれ、さっさとお主の軍に指示を出せ」



 私は己の無力を恨み、師匠に促されるまま自軍に指示を出す。



「リュクシュさん、マロンちゃんと一緒に軍の皆さんを連れて王都へ向かってください」


「う、うっす!! でも、エルシア様はどうなさるので?」


「私はここでディアブロ様の戦いを見守ります。戦闘の余波で巻き込まれても死ぬことはありませんから、安心してください」


「そ、そっすか。分かりました」


「ならば儂もそっちに付いて行こうかの。ご主人様と聖竜の戦いに巻き込まれたら死にかねん」



 師匠がそそくさと馬車に乗り込んだ。



「ミーシャちゃんは――」


「残る。お兄様の応援をする」


「……そうですか。でも一応、私の近くにいてください」


「不要。……と言いたいけど、私では巻き込まれたら死ぬかも知れない。今回は甘える」


「ふふっ」



 王国の魔法学園にいた頃は、ミーシャちゃんの兄が邪魔してロクにお話することができなかったから、少し嬉しい。


 ミーシャちゃんは、とても良い子だ。


 ディアブロ様を兄と思い込んでいる今の姿を見ると改めて思う。


 きっと学園でミーシャちゃんが私を心から憎悪していたのは、彼女のお兄さんがミーシャちゃんと向き合おうとしなかったからだろう。


 ミーシャちゃんの兄は、彼女からの好意に応えることはできずとも、向き合うべきだった。


 それを怠ったからミーシャちゃんは自分を抑えられず、暴走し、私を暗殺する計画を企てるに至ったのかも知れない。


 まあ、だからと言って殺そうとしてきたことを許したわけではないし、嫌いだけど。


 それでも今のミーシャちゃんは自分の記憶を改竄している状態とは言え、本気でディアブロ様の身を案じている。


 そういう意味では、嫌いではない。



「お母さんはどうする?」


「うーん、ママも残ろうかしら? ディアブロくんが怪我をしたら治療してあげないといけないし」


「そっか」



 と、改めて空を見上げ、ディアブロ様と聖竜の戦いを見守っていると。


 馬車に乗り込んだ師匠が声をかけてきた。



「おーい、エルシアよ!! アンデッド共はお主の命令でしか動かぬのじゃ!! さっさとこの木偶の坊どもに王都まで進むよう命令させるのじゃ!!」


「あ、すみません。すぐに命令し……て……」


「なんじゃ? どうしたのじゃ?」



 ……思いついた。


 ディアブロ様の役に立つ方法を、私はたった今思いついた。








―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「勃◯しながら戦ってんの草」



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