第28話 やられ役の魔王、戦闘中にレベリングする





 俺とアルシオンの戦いは、次第に決着が見え始めていた。



『地力の差が出たね。君よりも、ボクの方が強い』


「……たしかに、このままだと俺が押し負けるな」



 アルシオンの攻撃は一撃が重く、速い。


 こちらが魔力の大半を費やして戦っているにも関わらず、アルシオンの方にはまだまだ余裕がありそうだった。


 今の俺は3000近いレベルだが、アルシオンはおそらくそれ以上。


 どうやったら勝てるか、さっぱりである。



『正直に言うとね、君のことを侮っていたよ』


「もう勝った気でいるのか?」


『違う。これは、強者への敬意と謝罪だ』



 アルシオンが俺に向かって一礼する。



『このボクがここまで苦戦するとは思わなかった。君は本当に強い。楽しかったよ』


「……ちっ。まあ、俺も楽しかったぞ。ここまで全力を出した相手は本当に久し振りだからな。ダンジョンでもお前ほど強い奴はいなかった」



 これは俺の本心だ。


 俺はレベルが上がってからもエルシアや魔王軍の連中との鍛練で何度か戦っていた。


 しかし、そのどれもが全力ではなかった。


 絶大な力でワンサイドゲームの如く一方的に蹂躙するのは気持ち良いが、たまには全力を出したくもなる。


 そういう意味では、アルシオンとの戦いは本当に楽しかった。


 俺が全力で拳を振るえば、相手が人間だったら木っ端微塵になる。

 でもアルシオンは俺の拳を受けても軽く仰け反るだけで、大したダメージにならない。


 たしかにアルシオンは強い。


 しかし、同時に俺が勝てない相手ではないとも思えてしまうのだ。



『これはボクなりの慈悲だ。大人しくするなら、苦しませずに仕留める』


「……ぷっ」


『?』


「はは、ははははははッ!!!」



 俺を真っ直ぐ見つめながら、アルシオンは大人しくしろと言う。


 悪いな。



「アルシオン、お前はまだ俺のことを侮っている」


『……君に勝ち目は無い。もう魔力もすっからかんじゃないか』


「そうだな。だったら増やせばいい」



 アルシオンが首を傾げる。



『どうやって?』


「レベルを上げるんだよ」



 レベルが上がれば、それに合わせて少なからず魔力が増える。


 何なら他の肉体スペックも上がるからな。


 しかし、現実はそう上手く行かない。アルシオンは俺の言葉に理解を示しながらも、それを否定した。



『たしかに現状、君が取れる打開策はそれだろうね。でも現実的に考えて不可能だ』


「なぜ言い切れる?」


『君が時折、地上に魔法を放って野生の魔物を倒していたことには気付いている。でも、君は相当レベルが高いだろう?』


「……まあな」



 当然ながら、レベルが上がれば上がるほど、レベルは上がりにくくなる。



『君が戦闘のどさくさに紛れて魔物を十数匹殺そうが、大してレベルは上がらないよ。地上にいる魔王軍を皆殺しにして経験値に変えるなら話は別だろうけどね』


「……流石にそこまで酷いことはできないな」


『だろう? 君はたしかに強いけど、どこまでも強さを欲するバーサーカーじゃない』



 アルシオンの指摘はもっともだろう。


 しかし、アルシオンはあまりにも重大な見落としに気付いていない。



「でもな、元から魔王軍だったわけじゃない連中は別だぞ」


『? どういう意味だい?』


「下、地上でぞろぞろと動いている連中をよーく見てみろ」



 アルシオンは俺を警戒しながらも、地上に目を凝らした。



『あれは、アンデッド?』


「正解。エルシア、俺の妻が作ったアンデッドでな。日光の下でも動けるらしい」



 どうやらエルシアがアンデッドを見えやすい場所に集めてくれたらしい。


 気付いたのは殆ど偶然だった。


 俺の魔法が地上にいるエルシアたちに当たらないよう注意を払っていたら、アンデッドが不自然な動きをしていたのだ。


 もしかしてと思ってアルシオンとの戦いの最中に何度かチラ見していたが、そういうことだろう。



『それが何だって言うんだい?』


「あれは元々魔王軍にいた連中じゃない。王国の人間を殺して作った、いわばリサイクルした連中だ」


『……まさか』



 アルシオンが目を見開いた。しかし、焦りながらも首を横に振る。



『いや、それがどうしたんだい? たしかにあの数を君が殺せば、それなりにレベルは上がるかも知れない。でも、あくまでそれなりだ。すでにレベルが高い君は大して強くなれない』


「もしレベルをリセット――とは少し違うかも知れないが、今の強さを維持したまま1にすることができたらどうだ?」


『……有り得ない。そんなことは不可能だ』


「可能なんだよなあ、それが」



 俺は懐から常に幾つか持ち歩いているダンジョン産のアイテムを取り出した。


 毎度お馴染み、あのアイテムである。



『それは……?』


「転生石。使うと種族を変えられる魔法のアイテムだよ」


『!?』


「本番はここからだ」



 俺は地上に向けて魔法を放ち、同時に転生石を使用する。


 変更先の種族は大魔族。


 魔族の中でも特定の条件を満たした者のみが進化して成れる、いわば上位種族である。


 それを条件ガン無視で成れてしまう転生石って、冷静に考えなくても有り得ないチートアイテムだよな。


 大魔族へと転生し、レベルが1になる。


 ちょうどそのタイミングで地上に向けて放った魔法が着弾し、アンデッドたちを消滅させた。



「ふぉー!! キタキタキターッ!!!!」



 凄まじい快感が俺の全身を駆け巡り、身体の奥底から力が沸いてくる。


 魔力も回復し、身体能力も上がった。


 エルシアの作ったアンデッドの中にはアヴァンの街で皆殺しにした住民も含まれているからな。


 その数は万単位。


 それを一度に仕留めたとなると、上昇したレベルは三桁にも及ぶだろう。

 感覚的にはLv500くらい上がったかも知れない。



「行くぞ、アルシオン!!」


『くっ、君のレベルが少し上がったくらいで、ボクが負けるわけないだろう!!』



 俺は先程までよりも速いスピードでアルシオンに接近することができた。



『な!?』


「速度は俺が上回ったな。次は俺の攻撃力とお前の防御力を比べてみようか!!」



 アルシオンの懐に飛び込み、拳を振り抜いた。


 今までは分厚い鉄板を叩いているような感触だったが、今回は手応えが違う。


 頑強なアルシオンの鱗を叩き割ったのだ。



『うぐっ、こんのぉ!!』


「ブレスか!! 来い!!」



 アルシオンが口からブレスを放つ。最初に撃ってきた極太レーザービームだ。


 俺はそれを正面から受け止める。


 何の魔法も使わず、己の肉体のみで全てを受け切るつもりで。


 少し前の俺なら全身が焼け焦げていただろう。


 しかし、今の俺はさっきまでの俺と比べてレベルが数百単位で上昇している。



「ふぅ、日焼けしたみたいな痛さだな」


『な!?』



 暫定Lv3000のアルシオンと、暫定Lv3500の俺。


 たった500の差と思うかも知れないが、それは遥かに大きい差だった。


 確認はもう十分。


 今の俺なら、確実にアルシオンを仕留めることができる。



「次はこっちの番だ。――ダークネス・コア」



 俺は持ちうる魔力をありったけ込めて、最高威力の魔法を放った。


 これは以前、俺がノリと勢いで作って使った結果、ダンジョンを丸ごと一つ消滅させてしまった魔法だ。


 別に放射線が出たりはしないが、使った後に生じる煙がキノコみたいになるからそう呼称している。


 俺の必殺技だ。


 今の俺のステータスでこれを使えば、聖竜とてひとたまりも無いだろう。



「吹っ飛べ!!」


『ぐっ、うわああああああああああああああああああああああああああッ!!!!』



 アルシオンが爆炎に飲まれ、地上に落下する。


 並みの生き物であれば肉片一つの残さない必殺技だが、まだ息があるようだ。


 でもこれは俺の勝ちと言って良いはず。



「よっしゃああああああああああああああああああああああああッ!!!! ハーレムエッチだああああああああああああああああッ!!!!」



 俺は勝利の雄叫びを上げる。


 しかし、まだアルシオンには生きているはず。少なからず息があるだろう。


 確実にトドメを刺さねばならない。


 そう思ってアルシオンが墜落した場所に降りてみると、俺はあまりの驚愕にひっくり返りそうになってしまった。


 ミーシャと同じ十三、四歳くらいだろうか。


 アルシオンが墜落した場所には裸の可愛らしい金髪美少女がいたのだ。


 瞳は黄金に輝いており、どこか高貴なオーラをまとっている。

 一見すると高位の貴族令嬢にも見えるが、問題はそのおっぱいにあった。


 華奢で小柄な体躯とは不釣り合いな爆弾おっぱいをお持ちだったのだ。


 あと太ももがむっちりしている。


 二つの果実は奇跡的なバランスで成立しており、そのあまりに大きすぎるおっぱいに違和感はちっとも無い。


 その爆弾おっぱいの金髪美少女が、俺をうっとりした目で見つめている。



「ボク、自分より強い存在に初めて出会ったよ。まさか負けるとは思いもしなかった」



 それはさっきまで頭の中に直接響いてきた、アルシオンの声だった。

 まさかとは思うが、この美少女がアルシオンなのだろうか。


 いや、絶対にそうだろう。早く仕留めないと。



「決めたよ」



 そう言うと、アルシオンは意を決した様子で立ち上がった。


 俺はアルシオンがまだやる気なのかと思って、いつでも応戦できるよう拳を構える。


 しかし、アルシオンは意外なことを口にした。



「ボクは君の赤ちゃんを産むっ♡ お願いっ♡ ボクを孕ませてっ♡」


「……」



 全力の戦闘で昂っていた俺は、またやらかしてしまうのだった。






―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「ロリ巨乳は邪道とか言う人に言いたい。おっぱいに正道も邪道も無ェ。おっぱいはおっぱいだ。全てが正しいんだ」


デ「良いこと言ってる、のか?」



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