第29話 やられ役の魔王、イチャイチャ配信する





 脳を魔剣に支配されそうになる。


 しかし、鋼のような意志を持ち合わせている俺は思わずハッとした。



「い、いかんいかん!!」



 最近の俺はあまりにも自堕落だ。


 たしかにイチャイチャハーレムエッチがしたいとか、もっと沢山の可愛い女の子を侍らせたいという欲望はある。


 しかし、いくら何でも節操が無さすぎる。


 近頃はエルシアも俺がハーレムを作ることに否定的ではないし、歯止めが利かなくなりそうだ。


 そろそろ加減に自重せねば。


 故にアルシオンの言葉は無視して、早急に始末するべきで……。



「お願ぁい♡ ボクに君の赤ちゃんを産ませてぇ♡ 君の好きにして良いからぁ♡」


「……ごくり」



 お、落ち着け。


 いくらロリ爆乳おっぱいドラゴンが上目遣いの媚び媚び猫なで声でおねだりしてきても、俺の心は揺るがない。


 目の前の敵を倒すべく、俺は魔法を放つ準備をするが、アルシオンは媚びるのをやめない。



「ねぇねぇ、ディアブロ♡ そんな怖い顔しないでよぉ♡ さっきは色々言い合ってたけど、ボクのこと嫌いにならないで?」



 そう言って大きすぎるおっぱいを押し付けてきたアルシオン。


 ぐぬぬ、どうしよう。


 アルシオンを息の根を止める気満々だったけど、このまま押し倒してめちゃくちゃエッチしたい自分がいる。


 というか目の前のロリ爆乳おっぱいドラゴンを女として意識し始めている。



「ボク身体が頑丈だから、強くて可愛い赤ちゃん沢山産めるよ? 十人でも百人でもっ♡」


「ず、随分と多いな」


「えへへ♡ ボクはドラゴンだから、強いオスの赤ちゃんは沢山産みたいんだ♡」



 くっ、なんて魅力的な提案だ!! でも、でも俺は誘惑に屈しない!!



「あっ♡ じゃあ想像してみて?」


「想像?」


「そうそう♡ 鬱陶しかった生意気メスドラゴンをボッコボコにして♡ 腕っぷしの強さを分からせてから、ディアブロの太くて長くて硬い『それ』でメスとしても分からせるの♡ 征服欲満たしまくりの子作りエッチができちゃうよ♡」


「……すぅー、はぁー」



 想像したらダメだった。


 俺はアルシオンをその場に押し倒して、いきり勃った魔剣でトドメを刺すのであった。













sideアルヴェラ王国





「くっ、状況はどうなったんだ!?」



 そわそわしながら重鎮に怒鳴っているのはアルヴェラ王国王太子、ユリウス・フォン・アルヴェラだった。


 ユリウスは国王アルヴァンスが聖竜を目覚めさせた直後に軟禁を解かれ、方々を走り回っている。


 聖竜アルシオンを目覚めさせたことで国王アルヴァンスは息絶え、アルヴェラ王国国王の座はユリウスが正式に受け継いだのだ。


 もっとも、戴冠式などしている暇は無い。


 アルシオンが王城を破壊して地下から飛び出し、王都に甚大な被害を与えたからだ。


 ユリウスは先の魔王による襲撃で数を大きく減らしてしまった兵士を使い、被害状況の確認と民の避難誘導を行う。 



「ユリウス、少し落ち着いたらどうだ?」


「ベルノン……。あ、ああ、そうだな。すまない」



 取り乱すユリウスを宥めたのは、彼の幼馴染みでもあるベルノン・フォン・アヴァンだった。


 ベルノンの故郷、アヴァンの街はエルシアによって住民が皆殺しにされてしまい、彼は失意のドン底にいる。


 あまりの心労から痩せ細り、艶のあった青い髪も今はボサボサだった。


 それでも王都の民を救うべく行動するベルノンの姿は、父の死を悲しむ暇すら与えられなかったユリウスに希望を与えてくれている。



「すまない。皆、報告を頼む」



 冷静さを取り戻したユリウスは、重鎮たちに状況を改めて訊ねた。


 重鎮たちが新たな王へ報告を上げる。



「殿下――いえ、陛下。建物への被害は甚大です。復興には十数年の時を要するでしょう」


「しかし、先王陛下があらかじめ民を避難させていたこともあり、重傷者は少なからずいますが、死者はおりません。また、先王陛下のご命令で聖竜の存在を明かしたためか、民衆は魔女が滅びると沸き立っています」


「そう、か。そうか、それは良かった」



 民に死者はいないと聞いて安堵するユリウス。



「問題は『あれ』が、聖竜が魔女を滅ぼしてくださるのに邪魔が入らぬかどうかだ」


「っ」



 王国の軍務を司る大臣の言葉に、ユリウスは思わず歯噛みした。


 魔女。


 かつてユリウスとその友たちが愛し、何があっても絶対に守ると誓った少女。



「軍務大臣、言葉を慎め!! 陛下、どうかお気になさらず」


「いいや、慎むものか!! 陛下、まさかこの期に及んで魔女に慈悲を与えるつもりはありませんでしょうな!?」



 軍務大臣は興奮した様子で吐き捨てる。



「先王陛下が命を賭して目覚めさせた聖竜アルシオンは、必ずや魔女を滅ぼすでしょう!! ですが、聖竜は王族の言葉に従います!! 陛下があの魔女に未練があり、殺すななどとふざけたことを命令されては、先王陛下に申し訳が立たぬ!!」


「軍務大臣!! それ以上は不敬であるぞ!!」


「――よい」



 軍務大臣を止めようとする他の大臣たちを止めたのは、他ならぬユリウスだった。


 ユリウスは興奮する軍務大臣を落ち着かせるよう慎重に言葉を紡ぐ。



「俺は……いや、余は王だ。故に、聖竜アルシオンを止めはしない。エルシアは王国の敵だと、割り切ろう」



 ユリウスは拳を握り締めて言う。


 誰よりも愛した少女が死ぬという事実に目を逸らしたくなる。


 しかし、ユリウスはもう王になったのだ。


 王になったならば、私利私欲を捨て、民のことを第一に考える必要がある。


 と、その時だった。



『やっほー、王国のみんな!!』



 それは聖竜アルシオンの声だった。


 どこから聞こえてきたのか分からず、ユリウスは重鎮たちと共に困惑する。



「へ、陛下!! 上空をご覧ください!!」



 会議室に駆け込んできた兵士に促され、ユリウスは窓から空を見上げる。


 そこには横長の四角いガラスのようなものが浮遊しており、人化した聖竜アルシオンが写し出されていた。


 人化しているとは言え、アルシオンのまとうオーラは人間のものとは駆け離れている。


 一目で民衆はアルシオンだと気付いた。


 民衆は人化した聖竜アルシオンのあまりにも美しい姿に女神が降臨したのかと仰天している。



『みんなにお知らせがあるんだ』



 王国を守る聖竜直々のお知らせ。


 まだアルシオンが何も言っていないにも関わらず、民衆は「もしや魔女を滅ぼしたのでは?」と思って歓声を上げる。


 ようやく魔女が滅びた!!


 王国は先王アルヴァンスの献身と聖竜アルシオンの絶対的な力で魔女を滅ぼしたのだ!!


 と沸き立つ民衆に対し、アルシオンは。



『ボクね♡ ここにいる彼――魔王ディアブロの赤ちゃんを産むことにしたんだ♡ 王国の皆、ごめんねっ♡』



 次第に上空に写し出されたアルシオンがズームアウトし、彼女が何をしているのかが分かった。


 王国を守る聖竜が、女神のごとき美しさを持つ少女が王国を滅ぼさんとする魔女の伴侶、魔王に組み敷かれていたのだ。


 王都の各地から悲鳴が木霊する。



『えっとね♡ 事の成り行きを説明すると、ボクは負けちゃったんだ♡ ボク、自分より強い人に出会ったのは初めてだから好きになっちゃって♡ 思わずディアブロの赤ちゃん産ませてってお願いしたの♡ あとは見ての通りだよ♡ あんっ♡ ディアブロぉ♡ 好き好き♡ 大好きっ♡ 愛してるっ♡』



 四つん這いになりながら、魔王と愛し合う王国の守護者。

 その表情は誰が見ても分かるくらい、立派な女の顔をしていた。


 絶対的な力を持つはずの聖竜が敗北し、あまつさえ魔王に媚びを売っている。


 誰もが言葉に出来ない衝撃を受けていた。


 アルヴェラ王国の国旗にも描かれている聖竜が魔王に屈する様は、まるで国そのものが魔王の手に落ちたかのようだった。


 軍務大臣が叫ぶ。



「へ、陛下!! アルシオンに命令し、今すぐ魔王を殺させるのです!!」


「そ、そうか、その手があった!!」



 魔女エルシアを始末しに行ったはずの聖竜アルシオンが、魔王ディアブロと共にいる。


 魔王を殺せばエルシアの洗脳が解けて国を救えると思ったユリウスは、迷わず王族の血に流れる力を使い、アルシオンに魔王を攻撃させようとした。


 しかし、アルシオンは眉を寄せて顔をしかめるだけでちっとも動かない。



『どうした、アルシオン?』


『んー、何でもない。アルヴェラの王族がボクに命令しようとしたみたいだけど、ボクへの絶対命令権があるのはアリシアとアルヴィンだけだから無視したんだ』


『無視できるのか?』


『うんっ♡ 今のボクに命令できるのは君だけだよっ♡ あ、ディアブロ♡ 今度はボクが上になるねっ♡ 君にいっぱいサービスさせてっ♡』



 ユリウスは予想外の真実に困惑する。



「馬鹿な、聖竜は王族の命令には逆らえないんじゃなかったのか!?」


「へ、陛下、落ち着いてくだされ!!」



 落ち着けるはずがなかった。


 王国の希望だった聖竜は魔王の手に堕ち、絶望へと変わったのだ。


 民衆にもパニックが広がっている。


 そこへ更なる追い討ちを仕掛けたのはアルシオンだった。

 彼女は魔王の腹の上で踊りながら、恐ろしい提案を口にする。



『あ、そうだ♡ せっかくだし、ボクとディアブロの赤ちゃんに王国を滅ぼさせてみる? きっと最強なボクたちの赤ちゃんなら余裕だよ♡』



 聖竜アルシオンが、王国を守る者が王国を滅ぼそうと言う。


 それは王国の民に深い絶望を与えた。



『駄目だ。この国はエルシアの獲物だからな。勝手に滅ぼしたら怒られるぞ』



 助かった!! いや、助かっていない!!


 結局滅ぼされることは変わらないと知り、王国の民が恐怖を抱き、怯え始める。



『それにしても、王国の守護者とは思えん発言だな』


『だってずーっとお城の地下に閉じ込められてたんだよ? アリシアやアルヴィンのお願いだから王国を守ってたけど、いい加減我慢も限界!! ボクは愛に生きるっ♡』


『そ、そうか』



 まるで見せつけるようにイチャイチャし始める魔王と聖竜。

 王国の重鎮たちは猶予が無いと理解し、ユリウスに命令を乞うた。



「へ、陛下!! 指示をっ!! もうじき魔女が!! それどころか魔王が!! 魔王の手に堕ちた聖竜――いや、魔竜が来ます!!」


「あ、ぅ、お、俺は、余は――」



 逃れられぬ絶望を前に、ユリウスは選択を迫られるのであった。







―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話

アルシオンは聖竜っぽいキャラを作っていた。配信中の姿が本性。


「アルシオンかわいい」「エッ」「……ふぅ」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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