第38話 やられ役の魔王、またもやらかす






 エルフの少女は自らをフィオーネと名乗った。


 フィオーネの話によると、彼女はエルフの村で迫害されていたらしい。


 原因は――銀色の髪だった。



「わ、私たちの村では、灰色やそれに近い髪の色は不吉と言われているんです。それで、村の皆からいじめられていて……」



 フィオーネは涙ながらに語る。


 その姿がこちらの庇護欲をそそり、守ってあげたくなる。



「さ、さっきも、魔王……様からの呼び出しって言われて、皆が口を揃えて私の名前を……」


「なるほど。つまり、本当の代表者は別にいると?」


「い、いえ、村長は、魔王軍に捕まった時、抵抗して……ふふっ」



 本当の代表者はうちの連中が殺しちゃったのか。


 というかフィオーネ、村長が死んだ時の話をしながら笑ったな。

 もしかして村長までフィオーネを迫害していたのだろうか。



「それにしても、何故灰色の髪が不吉なんだ?」


「全くです。ディアブロ様の髪は灰色ですけど、素敵だと思います」


「……」


「……」



 俺はエルシアと顔を見合わせて、瞬時に理解してしまった。



魔王と同じだからか」


「そ、そうと決まったわけでは……」


「いや、エルフは長寿だ。俺の容姿を知るエルフが灰色は不吉とか、そういうことを言い始めたのかも知れない」



 これはもしかしたら、フィオーネに恨まれるかも知れないな。


 と思ったら。



「あ、あの、別に魔王……様を恨んだりはしていません。むしろ、感謝しています。魔王様が村を襲ってくれたお陰で、私は地獄から解放されましたから」



 フィオーネが穏やかな顔で言う。


 しかし、その表情はどこか無理をして作ったようなものだった。


 やっぱり恨まれているのでは……。


 と考える俺に対し、どうやらエルシアは少し違った見方をしているらしい。



「本当に、それだけで満足なんですか?」


「え?」


「復讐は自分の手でしないと、あまり楽しくないですよ?」



 エルシアは心のどこかで満足していないフィオーネの本心を見抜いたのだろうか。


 復讐者としてのエルシアの言葉に、フィオーネは少し俯いてしまう。



「本音を言うなら、この手で奴らの心を、命を、尊厳を踏みにじりたい。もう殺してと懇願しても、痛めつけて痛めつけて苦しめたい」



 明確な悪意と殺意を宿らせた目で淡々と語るフィオーネ。


 とても怖い。


 元々気に入らない相手には敵意全開のミーシャとは違ったベクトルの幼女だな……。


 フィオーネの本性が分かって内心で少しビビっている俺とは逆に、エルシアは嬉しそうな笑みを浮かべた。



「ならやりましょう!! お手伝いしますよ!!」


「……よろしいのですか?」


「はい、私は貴女のような人と仲良くなれそうな気がしますので。ではディアブロ様、少し失礼しますね!!」



 と、エルシアがフィオーネを連れて部屋を出て行ってしまった。


 後日、エルシアから聞いた話によると。


 フィオーネはそれはそれは恐ろしい方法を用いて自分を迫害してきたエルフたちに復讐を実行したらしい。


 男のエルフは四肢とイチモツを切り落とし、昆虫型の魔物の生き餌にしたそうだ。


 女のエルフはゴブリンやオーク、オーガに犯させて孕ませ、自らの子供に生きたまま食わせたらしい。


 いや、本当に怖いです。


 それを考えたのが全てフィオーネ本人というのが何よりも怖い。


 エルシアもエルシアでインスピレーションを受けたのか、それらの凄惨な光景を見て「この復讐方法は使えますね」と呟いたそうな。


 哀れ逃亡中の攻略対象たちよ。


 早い段階で捕まっておいた方がまだ良かったかも知れないぞ。


 それからエルシアはフィオーネを自らの側近の一人にした。

 一般魔族たちにとっては食料でしかないフィオーネが側近になること反発があると思ったが、そう反対はなかったらしい。


 というのも、フィオーネがエルフたちをエグイ方法で始末したことが知られているそうだ。


 どうもその残虐性から、魔族たちはフィオーネを見た目が違うだけで精神性は同族と認識したらしい。


 ナリアのようなペットという立場でなくても魔王軍に在籍できていることには驚いた。


 しかし、問題が一つ。



「エルシア、フィオーネのその格好は……?」


「いえ、その、私も想定外というか……」



 フィオーネは今、やたらとエッチなメイド服を身にまとっている。


 白と黒を基調としているが、古き良きメイド服ではない。

 スカートの丈が短く、絶対領域がほぼ丸見えというありがたい――コホン。破廉恥なデザイン。


 上半身に至ってはほぼ紐で、服として成立していなかった。


 そこに白いニーソックスと長手袋。


 ド◯キで売ってるような安物コスプレ衣装とは異なり、しっかりとした材質で作られている。



「フィオーネちゃんには私の身の回りの世話を頼もうと思ってたんです。だからサキュバスのお姉さんたちにフィオーネちゃんのメイド服を作って欲しいとお願いしたら……」


「サキュバスはエッチな衣裳しか作らないことを失念していた、と」


「……はい」



 どうやらわざとではなかったらしいが、何とも目に悪い格好だ。


 ここ数日、俺はあまりスッキリできていない。


 というのもエルシアたちの妊娠が発覚し、本番エッチができてないからだ。


 手や口、おっぱいで代わる代わる俺の下の世話をしてくれるエルシアたちだったが、やはり物足りない。


 でもそれはエルシアたちも同じだと思って我慢しているのだ。


 そこにフィオーネの刺激的なメイド服。



「……ごくり」


「ディアブロ様」


「はっ!?」



 やばいやばい。隣にエルシアがいるのに、頭の中で色々と考えてしまっていた。


 エルシアが俺の名前を呼ぶ声でハッとする。



「な、なんだ?」


「私たちと本番エッチができないからと、フィオーネちゃんに手を出してはなりませんよ?」


「あ、ああ、分かっているとも。……ごくり」


「むぅ、こういう時のディアブロ様は信用できないですね……」



 俺がフィオーネをガン見し、エルシアが少し呆れていたその時。


 エルシア軍の副官、マロンが慌てた様子で部屋に入ってきた。



「エルシア様、ご報告なのです!! ようやく逃げていたアルヴェラ王国の奴らを補足したのです!!」


「っ、場所は!?」


「アルヴェラ王国内にある――」



 マロンが持ってきた地図を広げて、ある大きな森を指差した。



「この森なのです!!」


「っ、あの森は……」



 ガン見していた俺は見逃さなかった。


 フィオーネがマロンの指差した森を見て表情を険しくしたことを。


 本当に些細な変化だったため、ガン見していた俺以外は気付いていない。



「商人に偽装していたそうなのですが、偵察部隊によると間違いないそうなのです!!」


「すぐにエルシア軍の全戦力を動員して包囲してください!! もう逃がさないように!!」


「はいなのです!!」


「ディアブロ様、少し失礼しますね」



 そう言って俺に一礼し、部屋を出て行こうとするエルシア。


 そのエルシアを、フィオーネが呼び止めた。



「エルシアさま!! 私も一緒に行かせてください!!」


「……駄目です。フィオーネちゃんは、戦う力を持っていないでしょう?」


「そう、ですけど……」


「お願いしたように、ディアブロ様が他の女の子に手を出さないよう見張っていてください」



 え!? フィオーネって俺の監視役なの!?


 いやまあ、このパターンだと絶対に出会った可愛い女の子に手を出すからなあ。


 監視役を付けるのは当たり前か。


 ……いや、待て待て。普通のメイドさんならまだ耐えられる。

 しかし、今のフィオーネはドスケベロリエルフメイドのフィオーネだ。


 我慢できる自信が欠片も無い。


 などと考えているうちに、エルシアはマロンを伴って部屋を出て行ってしまった。


 部屋には俺とフィオーネの二人のみ。


 さっきエルシアと一緒に出撃すれば良かったと俺は後悔した。

 今ここで部屋を出て追いかけるのも気まずく感じられる。


 しかし、気まずい以上の問題があった。



「……ごくり」



 やばいやばい。ロリエルフメイドは本当にやばい。


 このままだとフィオーネに手を出してしまいそうだし、久し振りに自分で慰めたいが……。


 フィオーネがいるから一人遊びもできない!!



「魔王さま、どちらに?」


「少し、な。散歩に行こうかと」


「お供します」


「え? いや、別に……」


「エルシアさまからの命令ですから」



 付いてこようとするフィオーネ。



「ふぅー、ふぅー」


「魔王さま? 呼吸を荒くして、大丈夫ですか?」



 今にも暴走しそうな魔剣を抑えるのに必死で呼吸が荒くなる。


 しかし、フィオーネはそれを露知らず、可愛らしく俺の前で首を傾げた。


 もう駄目だ。我慢できない。


 エルシアもエルシアだ。

 このドスケベロリエルフメイドが目の前にいたら俺が何もしないわけがないだろうに。


 いや、承知の上なのだろうか。


 エルシアなら俺がフィオーネに何もしないとは思わないはず。

 つまりフィオーネに手を出すと分かっていて俺を監視させているのでは?


 そうだ。そうに違いない。


 だからきっと、フィオーネに手を出しても大丈夫なはず。



「フィオーネ」


「はい、魔王さま」


「ベッドに行くぞ。付いてこい」


「? はい、畏まりました」



 俺は何の疑問も持たずに付いてくる無垢なフィオーネを身体の隅々まで堪能した。


 自分の思考が下半身に支配されていたことに気付いたのは、翌日の朝。


 フィオーネを純白のエネルギーで全身を白く染めてからだった。



「はあ♡ はあ♡ はあ♡ 魔王さまぁ♡」


「……また、やっちまった」



 俺はエルシアへの言い訳を考えながら、取り敢えずアクロバティックジャンピング土下座を決めるのであった。







―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


デ「これは俺悪くない」


作者「いや悪い」



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