第39話 やられ役の魔王、アレ呼ばわりされる





「あ、頭をお上げくさだい、魔王さま!!」


「いや、そういうわけにはいかん。俺はフィオーネを無理矢理……」



 俺はフィオーネに土下座していた。


 魔王としての威厳を保つべきではあるが、それはそれ、これはこれ。


 男としてやっちまったことへの責任は取らなきゃいけないし、その最初の行動として土下座をしているのだ。


 そう思っての行動だったが、フィオーネは青ざめながら止めさせようとする。



「ご、合意の上ですから!! 大丈夫です!!」


「フィオーネは優しいな。大丈夫だ、エルシアには俺が全面的に悪いと説明して――」


「優しさではないです!! エルシアさまも承知の上です!!」



 え?



「そう、なのか?」


「はい」



 下半身に脳を支配されていた際、自分を納得させるためにそう考えたが、まさか本当にそうだったとは。


 しかし、理由が分からない。


 俺はエルシアの意図が分からず困惑していると、フィオーネが苦笑しながら話す。



「エルシアさまが『ディアブロ様のことですから、本気のエッチができなくて欲求不満になると思います。目を離した隙に絶対に他の女の子に手を出すかも知れません。その時はフィオーネちゃんが鎮めてあげてください』と」


「うぐっ、俺の行動を完全に読まれてる!?」



 我慢ができない魔剣を憎むべきが、それを先読みしているエルシアを凄いと称えるべきか。



「し、しかし、良かったのか? その、やらかした俺が言うのも何だが、もっと自分の身体を大切にした方が……」


「……本当に魔王さまが言えることじゃないですね」


「ぐふっ」



 このロリエルフ、口撃力が高い。


 フィオーネはしばらくジト目で俺を見つめた後、俺に向かって一礼した。



「エルシアさまに感謝していますから。私には、私を迫害してきた人たちに仕返しする勇気がありませんでした。でもエルシアさまのお陰で、私は私の尊厳を取り戻せました。エルシアさまのお願いであれば、何も辛いことはありません。それに……」


「そ、それに?」


「……魔王さまとのエッチ、凄く気持ち良かったですから♡」


「え? 結構乱暴にしちゃったと思うが……」


「はい。激しくて、すっごく乱暴でした。まるで『この女は俺のもの』って教え込むような感じが幸せで、安心して……。でも胸がドキドキして。今もしています」



 頬を赤らめて言うフィオーネ。


 その幼い姿に反し、妖艶さを感じさせる微笑は堪らなく俺の魔剣を刺激した。


 フィオーネの身体をつるぺたロリボディと侮ること勿れ。

 彼女はナリアやミーシャとはまた違った、極上の抱き心地である。


 特にフィオーネの鞘は俺の魔剣を収めるにはあまりにも小さく、少しコツが必要だった。


 あの抉じ開けるような感覚が忘れられない。


 思い出したら俺の魔剣はもうエネルギーをフル充填してしまったようで、天を貫く勢いで反り勃っている。



「……魔王さま♡ まだまだお元気ですね?」


「い、いや、これは、ははは」



 どうしよう。


 今すぐフィオーネを襲いたいが、俺の見立てでは彼女の体力が保たない。


 いっそ向こうからぐいぐい来てくれたらガンガン攻められるのに、フィオーネは奥手なのかもじもじしていて動く気配は無かった。


 不意に無言の気まずい空気が流れる。



「……」


「……」


「ええと、あー」


「?」



 気まずい。


 何か、何か適当な話題でこの気まずい空気を払拭せねばならない!!


 俺は魔剣を暴走させながらも、微かに残った理性でフィオーネと会話する。



「そう言えば、さっきマロンが地図に書いてある森を指差した時に随分と取り乱していたが、何だったんだ?」


「っ、あ、あれは、その……」



 フィオーネが言葉を詰まらせる。


 どうやら俺は聞いてはならないことを聞いてしまったらしい。


 更に気まずくなったかと思ったが、フィオーネは俯いて事情を話し始めた。



「……私には、妹がいるんです」


「妹、だと?」


「私が小さい頃に引き離された双子の妹が、多分あの森にあるエルフの村にいるんです。だから少し心配で」


「ふむ。詳しく話してみろ」



 俺はフィオーネから詳細を聞き、思わず溜め息が出てしまう。


 どうやらフィオーネの妹も銀髪だったらしい。


 不吉な髪色の娘を二人も村にはおいておけないという理由で妹の方は余所の村に追いやられたそうだ。



「フィオーネ、エルシアはその事を知っているのか?」


「いえ、知らないかと」


「まずいな。エルシアは復讐の邪魔をしてきた奴らを皆殺しにする。もしエルフたちが邪魔してきて、その中にフィオーネの妹がいたら……」


「っ」



 フィオーネの表情が暗くなる。


 その様子を見るだけで心がチクッとした。どうにかしてやりたくなる。



「よし、今すぐエルシアを追おう」


「……よろしいのですか?」


「妹を死なせたくないのだろう?」


「はい」


「ならば是非も無い。妹はフィオーネと同じ銀髪だったな? 見つけやすくて助かる」


「あ、あの!!」



 部屋を出て行こうとした俺を、フィオーネが呼び止める。



「わ、私も一緒に連れて行ってください!!」


「分かった」


「足手まといになることは分かっています!! でも――え? 今、なんと?」


「分かったと言った」



 一刻も早く妹と会いたいという気持ちは、俺には分かる。


 俺も会えるなら、前世の妹に会いたいからな。


 まあ、俺の場合は違う世界にいる以上、絶対に叶わないものではあるが、フィオーネはそうではない。



「とは言え、だ。そうなるとエルシアに見つかった時に俺が怒られる」



 エルシアはフィオーネを実力不足故に連れて行かなかった。


 ならば俺が守れば良いわけだが、いくら俺自身がLv4000近いと言っても万が一を想定せねばなるまい。



「だからフィオーネ。お前には俺のコレクションを貸してやろう」


「コレクション……?」


「少し待っていろ」



 俺はステータス任せの全速力で魔王城に戻り、その宝物庫に向かう。

 その宝物庫には俺がダンジョンで集めてきた無数のアイテムが保管されているのだ。


 そこから装備者を守る強力なアイテムを厳選し、フィオーネのところへ戻る。



「魔王さま、これは?」


「死神避けのネックレスと言ってな。即死する攻撃を食らっても一回耐えられる」


「では、こちらは?」


「それは死神避けの腕輪。ネックレスと同じ効果がある」


「ならば、これも?」


「いや、それは死神殺しのイヤリング。死ぬような攻撃を食らっても相手に跳ね返すことができる」



 とまあ、とにかく強力なアイテムをフィオーネに持たせてやった。


 これならまず絶対に死なないし、これらのアイテムは効果が発動した際に膨大な魔力を発するようになっている。


 仮にフィオーネとはぐれてしまっても、すぐに異変を察知できるってわけだ。



「よし。準備は整った」


「ほ、本当によろしいのですか? 私に、このような貴重な魔法のアイテムを……」


「なに、またダンジョンに潜れば嫌というほど手に入るからな。以前ならいざ知らず、今は全くと言って良いほど使っていないアイテムだ。宝物庫で埃を被らせておくよりずっと良い」


「……魔王さまは、エルシアさまのおっしゃっていた通りの人物ですね」


「む?」



 エルシアが俺のことを? え、なんて言われてるのか気になる!!


 ……悪口だったらどうしよう?



「エルシアは何と?」


「『ディアブロ様は一度でも抱いた女の子に甘い』、と」


「ぐふっ」



 否定できない。


 いや、仕方ないじゃん? 可愛い女の子のお願いなら聞いてあげたくなるもんじゃん?



「『目を離したらすぐ女の子に手を出す駄目な方』とも」


「ごふっ、お、俺のライフは0に近いぞ。ほ、他には?」


「……『でも、だからといって私を蔑ろにするような方でもない。他の子を抱いた後は倍以上可愛がってくれる』とおっしゃっていました」


「む。そ、そうか」



 たしかに誰かとエッチした後はエルシアを抱いているかも知れない。


 意識はしていなかったが……。



「客観的に見るとアレですけど、エルシアさまはとても幸せそうに言ってました」


「アレ呼ばわりはやめてくれ」



 でもまあ、そりゃあそうだ。


 俺は沢山の女の子に手を出しているが、誰一人として遊びではない。


 いや、切っ掛けはアレだったりするけど、一人一人を本気で愛している。そこに限っては自信を持って言える。


 その上で俺はエルシアを蔑ろにはしない。


 ……浮気してる時点でアウトだよ、とかそういうツッコミは要らない。


 などと考えながら、俺はフィオーネと彼女の妹を再会させるべく、攻略対象を捕えに行ったエルシアを追うのであった。








―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「エルフ姉妹……」


デ「……ごくり」



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