第40話 やられ役の魔王、エルフを拐う




 フィオーネを抱えて空を飛び、俺はエルシアを追いかける。


 攻略対象らが逃げ込んだ森はすでにエルシア軍が包囲しており、俺は親衛隊隊長アデロとしての顔を利用してエルシアに会いに行った。


 エルシアのいる陣幕にはリュクシュやミーシャの姿もあり、副官のマロンもいた。


 リュクシュやミーシャ、エルシアは妊娠してるわけだし、あまり危ないことはして欲しくないのが本音だが……。



『戦場で人間をぶっ殺したい!!』


『お姉様の役に立ちたい』


『復讐するチャンスですので』



 とまあ、お腹の子を気遣いながらも各々の欲求を満たすために行動している。


 それはさておき、俺はエルシアにフィオーネの事情を説明した。



「なるほど。フィオーネちゃんの妹ちゃんが……」



 事情を話すと、エルシアは口に手を当てて難しそうな顔をする。


 どうやら何か思い当たる節があるようだ。



「実はディアブロ様がこちらに来る前、少数の部隊を森に突入させました。ですが、王国の人間ではない者たち――武装したエルフたちの襲撃を受けたんです」


「む。どうなったんだ?」


「元々様子見のための出撃させた部隊だったため、被害が出る前に撤退したので問題はありません。ただ、敵のエルフたちの中に……」


「まさか、いたのか?」


「はい、銀髪のエルフがいました。それも相当な手練れです」



 エルシアがそう言うと、その隣でリュクシュが悔しそうに唸った。



「めちゃくちゃ強かったぜ……。どこから攻撃してくるのか分からなくてよぉ」


「リュクシュが戦ったのか?」


「おう。ありゃ無理だと判断して急いで逃げたぜ」



 リュクシュはエルシア軍の中では最強格、魔王軍全体で見ても上澄みだ。


 そのリュクシュが迷わず逃走を選択するほどの実力者が、まさかフィオーネの妹かも知れないとはな。



「……よし、分かった。俺が行こう」


「「「「「え!?」」」」」


「森はエルフの領域だ。ゲリラ戦……森の木々に紛れながら散発的な攻撃をされたら少なくない被害が出るだろう」


「それは、そうかも知れませんが……」



 エルシアは納得できないのか、頬を膨らませてしまった。



「間違っても私の獲物をうっかり殺さないでくださいね……?」


「分かっている。フィオーネの妹を捕まえたら持ってくるつもりだ」



 エルシアを怒らせたら後が怖いし。と、心の中で呟いておく。


 こうして俺は単身で森に突入した。


 森は視界が悪く、道は獣道で一歩前に進むのも一苦労する。

 この中を行軍した様子見部隊はさぞ戦いにくかったことだろう。


 森を焼き払ってしまえば楽チンだが、それをやると攻略対象やフィオーネの妹まで巻き込んじゃうだろうしなあ。


 思うように行かないものである。



「む」



 などと考えていた、その時。


 矢が俺の脳天目掛けて真っ直ぐ飛来した。思わずキャッチしてしまう。



「危ないな……。あ、毒が塗ってある」



 殺意が高い。


 いやまあ、エルフからしたら俺たちは侵略者側だし、普通に殺す気で襲ってくるのは当然か。


 しかし、こうも視界が木々で遮られていると圧倒的なレベル差があっても面倒だな。


 あとは単純に襲撃者が気配を隠すのが上手い。


 襲撃者が木の上を移動しているのは何となく分かるが、足音がしない。

 風の動きで位置が分かりそうな感じがして、でも分からない。


 あれだ、家の中で虫を見たらその後しばらく虫がどこかに潜んでいるのでは? みたいなゾワゾワする感じ。


 どうしたものか。



「ん?」



 足音の数が増えた。多分、二十人くらいか?


 最初の一人とは違って隠密がお些末というか、普通に位置が分かる。



「ダークネス・ガトリング」



 取り敢えず増援としてきたであろう連中に向かって魔法を放つ。


 増援に銀髪エルフが混じってたら一大事なので、間違っても殺さないよう魔法の威力は最小限に抑えておく。


 すると、至るところから悲鳴が聞こえてきた。



「うわあ!!」


「ぎゃひっ!!」


「ごほっ!!」


「ぐぺっ!!」


「ぐごおっ!!」



 俺の魔法は面白いように当たり、何人ものエルフたちが木から落ちてきた。


 エルフも木から落ちる、ってやつだな。


 最初の襲撃者は……驚いたな。まさか全部回避してしまうとは。


 しかし、思わぬ反撃に驚いたのか、最初の襲撃者は攻撃の手を止めてこちらの様子を窺っているらしい。



「さて、銀髪のエルフは……いないな」



 木から落ちたエルフたちを確認するが、そこに銀髪の女エルフはいない。


 エルフたちは俺をキッと睨みつけてきた。



「ぐっ、な、何者だ、貴様!!」


「……ふむ。通りすがりの魔王だ」


「なっ……。そうか、そうか!! 貴様が魔王か!!」



 エルフのリーダーと思わしき男が笑う。



「――やれっ!! 魔王を殺すのだ、キリカ!!」


「いたっ」



 首の後ろに冷たいものがコツンと当たった。


 おそらくは首を切り飛ばす勢いで俺に刃を振るったのだろう。


 俺の首から金属のような手応えが伝わってきて、明らかに動揺した襲撃者の気配がひしひしと伝わってくる。


 俺は背後に振り向いた。



「お、いた。ダークネス・バインド」


「!?」



 俺の首を狙ってきたのは銀髪のエルフだった。


 おっぱいはまあ、程よい感じ。身長は170程度とモデルみたいに高く、スレンダーな印象を受ける。


 エルフの衣装は露出度が高く、太ももや肩、鎖骨が晒されていて妙なエロスを感じる。


 あとお尻がデカイな。


 名前もフィオーネから事前に教えて貰ったものと一致する。


 俺はキリカを魔法で拘束した。


 黒い触手が地面から生えてきて、キリカの四肢をガッチリと固定。


 ……触手プレイみたいになっちゃったな。



「くっ」


「安心しろ、お前に危害を加えるつもりは無い」



 俺が宥めるようにそう言うと、キリカは唾を吐き捨ててきた。



「何をするんだ?」


「黙れ!! 魔族に殺されたフィオーネ姉さんの仇ッ!! 私がこの手で殺してやる!!」


「……ふむ」



 もしかしなくても、キリカはフィオーネが死んだと思っているのだろうか。


 最近になって人間牧場を作ったから、その際に拐われたフィオーネが殺されたと勘違いしても不思議ではない。


 いや、それにしては……。


 今のキリカから感じられる憎悪は、たった数ヶ月で培えるようなものではない。


 ともすれば、それはエルシアの攻略対象たちに対する憎しみより強いかも知れない。


 まるで何十年も前から憎み続けていたような、その憎しみを晴らす機会がようやく巡ってきたと言わんばかりの殺気だ。


 俺はハッとして思い至る。



「キリカ、お前の姉は生きているぞ」


「……え?」


「他のエルフにどういう教育を受けたのかは知らんが、フィオーネは生きている。信じられないならついて来るといい」



 俺の言葉に対し、キリカは激しく動揺しているようだった。


 やっぱり「お前の姉は魔族たちに殺されたー」とでも教えられたのかも知れない。

 有事の際に自分たちを守る戦力として扱うために。


 エルフって中々腐ってんだなあ。


 いやまあ、彼らからしてみれば銀髪のエルフに人権なんて無いんだろうけど。



「だ、騙されるなキリカ!! お前の姉は魔王率いる魔王軍に殺され――」


「黙れ」


「っ、し、しかし、そいつは魔王で……」


「黙れと言ったのだ!!」


「ひっ」



 騒ぐエルフを一喝したのは、俺ではなくキリカだった。


 エルフを黙らせたキリカは俺を睨みながら、言葉を続ける。



「……姉が生きているなら案内しろ。本物の姉だったら、貴様への……いや、貴方への非礼を詫びる」


「分かった。なら行くぞ」


「……自分の足で歩けるが……」


「遠慮するな」



 魔法で拘束したまま運ぼうとすると、キリカが苦言を呈してきた。


 しかし、逃げられたり抵抗されたりすると面倒だからな。

 本人にその気が無くても警戒しておくに越したことはない。


 こうして俺はフィオーネの妹を拐うことに成功したのであった。








―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「姉の方がロリで妹の方が長身って最高だと思うのよ」


デ「分かる」



「エルフも木から落ちるで草」「エルフ最低やな」「分かりみがマリアナ海溝」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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