第12話 やられ役の魔王、悪役令嬢ポジの子を捕まえる
アヴァンの街に突撃する。
大門から慌てた様子で出てきた兵士たちが応戦しようとする。
しかし、パニックに陥っているアヴァンの兵士たちは対応し切ることができなかった。
アヴァンを囲む壁の上の兵士たちが空魔部隊を相手にしており、大型バリスタによる支援攻撃ができなかったこともあるのだろう。
水路から侵入した海魔部隊の対処に手一杯らしく、大門に終結している兵士が少ない。
「はっはっはっ!! 弱っちいなあ、おい!! アヴァンは難攻不落だったんじゃねーのかぁ!?」
「くっ、このリザードマン、強いぞ!?」
「か、囲んで対処しろ!! これ以上街の中に魔族共を入れるな!!」
と、少し離れたところでリュクシュが十数人の兵士を相手に大立ち回りしている。
身の丈ほどある大剣をブンブン振り回して、人体を真っ二つにした。
おお、凄いな。
パワーだけで見るなら俺を倒しに来た攻略対象のイケメン勇者たちを軽く凌駕しているぞ。
「この、魔女の手先どもが!! 死ね!!」
人の妻に向かって魔女とは失礼な。
いや、本人は自称してるみたいだし、別にそこは気にしなくて良いかな?
などと考えながら、俺に向かってきた兵士の首を適当に振るった剣ではね飛ばして始末する。
すると、俺の中に大量の経験値が流れ込んでくる感覚があった。
んほおっ、レベルアップした感覚キタ!!
「……やっぱり、あっさり殺せたな。むしろレベルアップしたことを喜ぶとは……」
魔王としての記憶が人間だった頃の感覚を狂わせているのか、それとも俺がこの世界の人間ではないからか。
あるいはその両方かも知れないな。
どちらにしろ、俺は人を殺しても大した感情を抱かなかった。
「おお!? やるじゃねーか、新入り!!」
適当に兵士を殺してレベルアップの感覚に浸っていると、俺の背中をリュクシュがドンと叩いてきた。
リュクシュの背負う大剣は血塗れで、その周囲には無数の兵士が倒れている。
「あの数を一人で倒したのか。凄いな」
「はっ、リザードマンの戦士を舐めるなってんだ。こちとら竜の末裔だぜ? っと、他の奴らは先に行っちまったな」
「そうだな。追いかけよう」
俺とリュクシュは兵士を始末しながら、先行する部隊に追随する。
どうやら先陣を切っているのはエルシアらしく、彼女の血の刃でズタズタに斬り裂かれて絶命したと思わしき人間の死体が転がっていた。
うーむ、やっぱり惨殺死体を見ても何とも思わないな。
前世の記憶を取り戻した直後は人間をバリボリ食べる他の魔族にドン引きしたが、意外と平気だったりするのだろうか?
……いや、やめておこう。殺すのと食べるのとでは、また感覚が違う。
流石に食べるのはナシだな、うむ。
「っと、いつの間にかアヴァン城まで来ちまったな!!」
アヴァン城は文字通り、アヴァンの街の中央に位置する大きな城だ。
アヴァンを守る領主の居所でもあり、今魔法で調べてみた限りでは中にまだ大勢の兵士が籠城している。
「中にはまだ兵士が立て籠ってるみたいだな……」
「へへっ、だったらアデロ。ちょいと勝負しねーか? どっちがより多くの敵兵を狩るか、負けた方が勝った方の言うことを聞くってのはどうだ?」
「乗った。――ダークネスライトニング」
「!?」
俺はリュクシュの賭けに乗り、エルシア軍の侵入を阻んでいる城門に漆黒の雷を放った。
閉じられている城門には無数の防御魔法が施されていたが、俺の魔法はそれごと城門を破壊し、無理矢理抉じ開ける。
「おま、魔法が使えたのか!?」
「実は剣よりこっちが得意なんだ。おっと、魔法の使用は無しとか言わないよな?」
「……へへっ、面白いじゃねーか。勝負だ!!」
俺とリュクシュは破壊した城門からアヴァン城内部に侵入し、兵士を見つけ次第始末した。
途中、アヴァン城の上部から爆音が響く。
エルシアは城門の防御魔法を破れなかったらしく、宙を舞ってアヴァン城の上部から攻略を始めているらしい。
この調子なら、エルシア軍の勝ちだな。
「くっ、ここから先には一歩も通さんぞ、魔女軍め!!」
「はいはい。ダークネスフレイム」
「ぐわああああああああああああああああああああああああっ!!!!」
立ちはだかる兵士は漆黒の炎で燃やす。
「ぐっ、申し訳、ありませぬ、お嬢、さま」
「お嬢様……?」
俺は兵士の死に際の言葉を正確に聞き取った。
このアヴァン城でお嬢様と呼ばれる人間は一人しかいない。
……少し会ってみたいな。
「お、この部屋かな?」
俺はアヴァン城に残る兵士を排除しながら、それらしい部屋を発見。
扉を開けて中に入ってみた。
「私に近寄るな」
「おっと」
「近づいたら、刺し違えてでも殺す」
その部屋には短剣を片手に握り、殺気を放つ少女がいた。
水色の綺麗な長い髪をした藍色の瞳の美少女である。
年齢は十三、四歳くらいだろうか。
エルシアやマナのおっぱいを見慣れている俺からすると残念なサイズ感だが、絶無ではなく、微かな膨らみが感じられる。
一見すると無表情でクールだが、その額には汗が滲んでいた。
俺は、この少女を知っている。
「ミーシャ・フォン・アヴァンか」
「!? ……何故、私の名前を知ってるの?」
「さあ、どうしてだろうな?」
ゲームのキャラデザと同じだから言ってみたけど、やはり本人だったらしい。
ミーシャは『聖女と五人の勇者たち』に登場する攻略対象の妹であり、エルシアと兄の恋路を邪魔する、いわば悪役令嬢だ。
兄同様にエルシアと同じ王都の魔法学園に通っていたが、兄と仲良くするエルシアに嫉妬。
エルシアに陰湿な嫌がらせをしてしまう。
エルシアは子供のしたことだからと笑って許そうとしたが、厳格な兄はそれを拒否。
更に密かに企てていたエルシア暗殺計画が露呈してしまうのだ。
兄は父に一連の出来事を詳細に報告し、魔法学園を退学させられ、故郷であるアヴァンの街に半ば無理矢理連れて来られたのだ。
まあ、ざっくりまとめるなら。
ブラコンを拗らせて大好きなお兄ちゃんに近づいた女を排除しようとしたら、バレて学園を追い出されちゃった子である。
ルート次第ではエルシアを『お姉様』と慕う子になるから嫌いになれないんだよなあ。
もっとも、このミーシャはエルシアを嫌っているらしい。
「……あの魔女が教えた?」
「あー、まあ、そんなもんだ」
前世でプレイした乙女ゲームの登場人物だから知っているなどと言っても信じられないだろうし、適当に頷いておく。
「で、だったらどうする? その剣で俺と殺し合うつもりか?」
「簡単な話。お前をここで殺して、あの女も殺す。そうしたら、お兄様も私を見てくれる」
「お、おお、そうか」
ゲームでもヤンデレ気味だったが、断罪後は更に悪化してるな……。
しかし、どうしたものか。
エルシアの復讐相手には攻略対象のイケメン勇者たちも含まれているはずだし、その妹ともなれば何かに使えるかも知れない。
よし、ここはミーシャを生け捕りにしてエルシアに処遇を任せよう。
「死ね」
などと考えてるうちにミーシャが襲いかかってきた。
しかし、ただの短剣では俺の身に傷一つつけられない。
手応えの無さに驚愕したミーシャが目をぱちぱちと瞬かせる。
「え?」
「少し寝てろ」
「あぐっ」
魔法で意識を奪い、俺はミーシャを抱える。
アヴァンの街をかけた戦いは、エルシア軍の圧勝で終わるのであった。
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
作者「どーせこの子もハーレム入りするんだろなあ!?(クソデカ声)」
「リュクシュとの賭けはどうなった?」「お、新しいハーレムメンバーか?」「作者が自分からフラグ立てて草」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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