第13話 やられ役の魔王、愛し合う
アヴァンの街での戦いは、エルシア軍の圧勝で終わった。
捕虜はごく僅かであり、残りは皆殺し。
エルシアのできるだけ苦しめて殺すようにという命令を守り、魔族たちは数少ない捕虜を特に意味もなく拷問している。
街の至るところから悲鳴が聞こえてきた。
俺は気絶させたミーシャを小脇に抱えながら、どこかにいるであろうエルシアを探す。
アヴァンの街は広い。
エルシアはアヴァン城の上部で戦っていたようだが、俺がミーシャを連れ出す頃には物音がしなくなっていた。
すでに戦闘を終わらせてどこかにいるはず。
さっさとミーシャを引き渡して、エルシアにミーシャの処遇を決めてもらおう。
「おーい!! 新入り!!」
「ん? リュクシュか。――え?」
後ろからリュクシュの声が聞こえて、振り向いた俺は絶句した。
何故ならこちらに人懐っこい笑顔で駆け寄ってきたのが、二足歩行するトカゲみたいなリザードマンではなかったからだ。
ボンキュッボンである。
燃え盛る真っ赤な髪と爬虫類を思わせる金色の瞳を輝かせ、頭に角や尻尾の生えた絶世の美女だった。
手足は真紅色の鱗に覆われているが、肩やへそ、おっぱいや大事なところは丸出し状態でこちらに駆け寄ってくる。
特に驚いたのはおっぱい。
あれはエルシアと同格、もしかしたらマナにも匹敵するかも知れない。
しかも身長が高くておっぱいに迫力がある。
「だ、誰?」
「あん? オレだよ、オレ。リュクシュだよ」
「いや、だから、誰!?」
俺の知っているリュクシュと違う。
たしかに美女の見せる人懐っこい笑みには面影を感じるが……。
「な、なんか凄い美人になってないか!?」
「へへ、照れるじゃねーか。なんか人間ぶっ殺しまくってたら進化したんだ」
「進化って、あの進化?」
「そ。その進化」
魔族の中には、時々進化する個体が現れる。
ゲームでは登場しなかった設定だが、この世界では割と知られている現象だ。
ある程度レベルを上げることで、ワンランク上の生物になるのである。
「す、凄いな……。でっか」
「うん? お、おいおい、あんま見るなよ。返り血で鱗が汚れちまってんだから」
「いや、そっちじゃねーよ」
「?」
どうやらおっぱいや鞘が丸出しなのは気にしていないらしい。
リザードマン的な感性では汚れている鱗をみられる方が恥ずかしいようだ。
俺は上着を脱いでリュクシュに渡す。
「これを着てくれ」
「ん? なんだ、これ?」
「リュクシュ。今のお前は、大勢の目の毒になる」
「よく分からんが、くれるならもらうぜ!!」
首を傾げながらも上着を受け取り、にっこにこの笑顔で羽織るリュクシュ。
くっ。
さっきまでは話しやすい友達みたいだったのに、顔は可愛くて身体がエロすぎて困る!!
と、そこでリュクシュが俺の脇に抱えられているミーシャに気付いた。
「なんだその人間? 食うのか? まあ、人間の子供の肉は美味いからなあ」
「食わねーって。こいつはエルシア様が憎む相手の妹かも知れないんだ。エルシア様に引き渡したいんだが、どこにいるか知らないか?」
リュクシュが首を横に振る。
「わりー。城の上の方でドンパチやってたのは分かったんだけどよー」
「む、そうか」
「それより新入り!! お前、賭けのこと忘れてないだろうな?」
「ん? ああ、それはもちろん」
俺はリュクシュと『より多くの敵を倒した方が少なかった方の言うことを何でも聞く』という賭けをしていた。
リュクシュが胸を張って言う。どたぷんっ、という効果音が聞こえそうだ。
「オレは二十人は殺したぜ!!」
「俺の方が多いな。三十人は始末した」
「な、なにぃ!?」
正確には五十人くらい倒したと思うが、何しろ三十人から先は数えていない。
「ちくしょー!! 本当に三十人も殺ったのか!?」
「む、そう言われると証拠は無いな」
「あっ、オレも二十人ぶっ殺した証拠はねーわ。殺した奴の首でも持ってきた方が良かったか?」
「そんな戦国時代じゃあるまいし……」
「せんごく? よく分かんねぇけど、新入りは色々知ってんだな!!」
そう言いながら、リュクシュが肩を組もうとしてきた。
大きなおっぱいが目の前に――ッ!!
「ま、賭けは引き分けってことにしよーぜ!!」
「有耶無耶にするつもりだな?」
「ギクッ。じゃ、じゃあほら、お互いに言うことを聞くってのはどうだ?」
「……ごくり」
言うことを聞く、か。
リュクシュのおっぱいを揉ませて欲しいと言ったら殴られるだろうか。
いや、行けそうな気がする。
リュクシュはリザードマンだったからか、感性が少し違う。
……やっぱりやめておこう。
最近はハーレムを作りたいと思っているが、エルシアやマナが知らない場所で女の子に手を出すのは不誠実な気がする。
え? ハーレム自体が不誠実だって?
俺は思う。一人一人をしっかり愛するなら、それはもう純愛なのでは? と。
「……柔らかい」
「ん? 何がだ?」
リュクシュのどたぷんおっぱいの感触を楽しみながら、二人でエルシアを探す。
「あ、見つけたのです!!」
「んあ? っと、副官殿!?」
「……どうしましたか、マロン様?」
俺は声をかけてきたエルシアの副官、マロンに笑顔で応じた。
魔王である俺に様付けされ、マロンはビクッと身体を震わせたが、動揺をリュクシュに見られないよう、努めて冷静を装う。
「えーと、アデロさん。エルシア様がお呼びなのです!!」
「む、分かりました。エルシア様はどちらに?」
「こっちなのです!!」
「また呼び出しかよ。大丈夫か、新入り?」
リュクシュが心配そうに俺を見つめる。
くそっ、ただでさえ血を見て高ぶっているのに、こんなエロい美女を見たら魔剣が暴走しちまう!!
俺は足早にリュクシュから離れ、エルシアの待つ場所へ向かった。
「ここは、教会か?」
「はいなのです。エルシア様はこの中なのです」
俺は抱えていたミーシャをマロンに任せ、教会の中に入った。
この教会を管理している者が綺麗好きだったのか、中には塵一つ無い。
教会に入ってすぐ正面にある女神像が、ステンドグラスを通して差し込む太陽に照らされていて美しかった。
その女神像を見つめながら、エルシアは呆然と立ち尽くしている。
「エルシア?」
「……ディアブロ様? いつの間に……?」
「マロンからエルシアが呼んでいると聞いて来たんだ」
「あ、そ、そうでしたね」
「どうかしたのか?」
「……」
俺がそう訊ねると、エルシアは何も言わずにこちらに近づいてきた。
そして、無言のまま俺に抱き着いてくる。
「私、たくさん殺しました。女の人も、子供も、皆殺しにしちゃいました」
「……そうか。辛いのか?」
「いえ、違うんです。ディアブロ様、私は最低な女です」
俺に抱き着きながら、エルシアが顔を上げて妖しく笑う。
「楽しかったんです……ッ!! すっごく!!」
「む、そうか」
てっきり大量ジェノサイドで良心が痛むとか、そういう悩みでもあるのかと思ったが……。
どうやら違うらしい。
エルシアはまるで夢が叶った子供のように、楽しそうだった。
しかし、途端にその笑顔に影が差す。
「でも、何故か分からないんですけど、身体が震えているんです。私のしたことは、間違いだったんじゃないかって、心のどこかで思ってるみたいなんです。ディアブロ様、私は間違ってないですよね……?」
まるで縋るような問いだった。
俺はエルシアの問いに対し、彼女の目を見つめながら答える。
「復讐は正当な権利だろう。それは、エルシアが次に踏み出すためには必要なことだ。何も間違いではない」
「そう、ですよね。そうですよね!!」
「まあ、仮に間違っていたとしても大丈夫だ」
「え?」
エルシアの頭を撫でながら、俺は真剣に言う。
「俺がその間違いを間違いではなくする。お前の旦那様は魔王だぞ? エルシアを不安にさせるものは、俺が全てぶっ壊してやる」
「っ、ディアブロ様……。あ、あのっ!!」
「ん?」
エルシアが急に大きな声を出す。
我ながら少し臭い台詞を言ったと思うし、笑われるかなと考えていたら。
「あの、えっと、その、こうして言葉にしたことはないので、改めて言います」
「ふむ?」
「――あ、愛してます。これからも私は、エルシアは貴方様だけの妻です。どうかエルシアを、ずっと可愛がってください。ずっと、お側に置いてください」
「……」
なんだ、この可愛い生き物は。
「あ、あの……?」
「……これが俺の答えだ」
「え? あっ……も、もう!! せっかく勇気を出して告白したんですから、真面目に答えてください!!」
俺の反り勃つ魔剣を見て、エルシアがポッと頬を赤く染めた。
酷いな。俺なりの真面目な答えだったのに。
「なら今日はやめておくか?」
「……ディアブロ様は、本当に意地悪です。でもそんなディアブロ様を、心から愛しています♡」
「奇遇だな。俺もだ」
俺はエルシアを抱き締め、そのまま教会で激しく愛し合った。
一発や二発ではちっとも収まらない。
お互いに戦闘の後で昂っていたこともあってか、それはもう濃密な時間だった。
愛のあるエッチとは、気持ち良いものですね。
え? さっきリュクシュのどたぷんおっぱいに邪な感情を抱いていただろ、だって? それはそれ、これはこれである。
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
進化したリュクシュは腹筋がうっすらと割れている。スポーティーな感じの美女。デカイ。
「オレっ娘は最高」「純愛だな。……純愛?」「今回はエルシアに免じて無罪――いや、有罪!!」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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