第42話 やられ役の魔王、差し出せるもの
エルシアが気絶した王子を引きずって帰ってきた。
すでにエルフたちを無力化し、無抵抗な者を王都まで輸送する手筈を整え、エルシア軍の魔族たちは宴を始める。
抵抗したエルフが思ったよりも多かったらしく、そいつらは文字通り酒の肴になった。
それから数日後の出来事。
かつて王都だった場所に帰ってきたエルシアに声をかけられる。
「ディアブロ様、少し付き合ってもらえますか?」
エルシアは大きな袋を抱えており、何やらとても楽しそうにしている。
ただ、俺には分かった。
エルシアのこの表情は復讐者の時のもの。これから何かしようとしているらしい。
「あ、ああ。どこに行くんだ?」
「少しお城の地下まで」
城の地下に向かうと、そこには王子が手足を拘束されていた。
ロクな食事や水を与えられていないようだが、拷問された様子も無く、目立った怪我もしていない。
エルシアが王子に話しかける。
それはもう天使のように可愛らしい満面の笑みだった。
「体調はどうですか、ユリウス様?」
「……える、しあ……」
「気安く名前を呼ばないでください」
霞むような声でエルシアの名を呼ぶ王子。
その次の瞬間、エルシアが笑顔のまま王子の腹に重い一撃を入れた。
「あぐっ」
「ふふ、すみません。ついムカついて殴っちゃいました」
「……き、君は……」
「?」
「君は、そこの魔王に、洗脳されているんだ……正気に戻って、くれ」
え? なんで俺が洗脳したことになってんの?
と思ったら、エルシアが笑顔のまま更に一撃を叩き込む。
「ぐふっ」
「もう喋らなくて結構です。謝罪の一つでもあれば、もう少し手心を加えても良かったのですがね。イラッとしたので予定通りにやります」
「な、何を……」
エルシアが王子の拘束を解いて、抱えていた袋を王子の前に放り投げる。
「こ、これは……?」
「どうぞ、中をご覧ください」
逃げる気力も無いのか、王子は言われるがまま袋の中を見た。
俺も中身が気になったのでちらっと見る。
俺は硬直し、王子は半狂乱になった様子で情けない悲鳴を上げた。
「うわあっ!?」
「あら、酷いじゃないですか。感動の再会ですよ?」
「な、ど、どういう意味だ!?」
袋の中には頭蓋骨を始め、沢山の骨が入っていた。
エルシアのアンデッドは何度か見ているから俺は平気だったが、いきなりはビックリする。
それにしても、感動の再会とはどういう意味だろうか。
「それ、ユリウス様のお父様ですよ」
「……え?」
「王様の葬儀は時間がかかるんですね。大切そうに保管されていたので、使わせてもらいます」
「な、何を……」
「ユリウス様、ゲームをしましょう!! ユリウス様がクリアしたら、何もしないで解放して差し上げます」
エルシアは邪悪に嗤う。
「ゲーム、だって?」
「はい、パズルゲームです。そのバラバラの王様の骸骨を元通りに直せたらユリウス様の勝ち、制限時間を過ぎたら私の勝ちです」
エルシアが指をパチンと鳴らし、エルシアの支配下にあるアンデッドが地下室に何かを運び込む。
それは無数の棺だった。
中からドンドンと音がして、思わずビクッとしてしまう。
「この棺の中には、貴方が見捨てた王都の民衆を再利用して作ったアンデッドが入っています。彼らが棺を破壊して出てきたら、貴方を身体の端から順に食べ始めます」
「!?」
「大丈夫ですよ。ユリウス様が食べられる前に骸骨パズルを完成させてしまえば良いんです。この勝負、受けますか? まあ、選択肢は与えませんけど」
「……わ、分かった。勝てば、本当に解放してくれるんだな?」
「もちろん!! 私は約束を守りますから!!」
エルシアが微笑む。
最近、俺もエルシアの考えていることが分かるようになってきた。
まだ何か企んでいるな、エルシア。
それも結構エグイ何かだ。
最初から王子を勝たせる気がないようにも思えてくる。
「これが、こう、で……」
王子が王様の骸骨パズルを着々と進める。
命懸けということもあってか、王子は相当集中しているようだった。
しかし、王子は何かに気付いて手を止める。
「た、足りない……骨が、足りない!!」
「あら、そうみたいですね?」
王様の骸骨パズルは、ピースが圧倒的に足りていなかった。
右腕と左足が丸々無い。
これではパズルを完成させることは到底不可能だろう。
王子がエルシアに抗議する。
「こ、これでは最初から俺に勝ち目が無いじゃないか!!」
「楽に勝たせるわけがないでしょう? でもまあ、私は優しいので特別にアイテムをプレゼントしましょう。どうぞ」
「こ、これは?」
「ただのナイフです」
エルシアが王子に投げ渡したのは、本当にどこにでもあるナイフだった。
しかし、刃が一部欠けているなまくら。あれでは大してものを切れないだろう。
「こ、このナイフをどうするんだ?」
「そこまで言わないと分かりませんか? パズルのピースが足りないなら、補わなくてはいけないでしょう?」
「!?」
やっぱりエルシアは怒らせると怖い。
どうやらエルシアはあのなまくらのナイフで自らの手足を切り落とし、足りないピースを補えと言いたいらしい。
王子がみっともなく喚いて抗議するが、エルシアは取り合わない。
ただ静かに微笑みながら、王子が自らのナイフを切り落とすのを待っている。
絶望。
王子は最初からエルシアに勝たせるつもりが無かったと気付いて、発狂した。
「うわあああああああっ!!!!」
「ああ、残念です。そのナイフは私を攻撃するために渡したのではありませんよ?」
ナイフを振り回す王子を軽く蹴飛ばすエルシア。
「ほらほら、早くしないと怒って地獄から帰ってきた王都の民が棺から出てきちゃいますよ?」
「ひっ」
「ああ、その顔!! とっても良い表情ですね!!」
エルシアが楽しそうに笑い、ついにアンデッドが棺から飛び出してきた。
アンデッドは王子に群がり、身体を端から食い始める。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああっ!!!! い、痛いっ!! や、やめろ、俺を食べるなァ!! 俺は、俺は――」
「ふふ、ゲームオーバーですね。あ、安心してください。殺すのは可哀想なので、回復してあげます」
「――え?」
エルシアが魔法で王子の怪我を瞬時に治してしまい、王子はまた最初から食べられる。
それは一度ではなかった。
どうやら王子の身体がある程度欠損すると、自動で回復させる仕組みのようだ。
えぐい。
「える、しあ、た、助け――」
「大丈夫ですよ。気が狂わないよう、師匠から習った精神保護魔法もかけてあげますから」
……えぐい。でも。
「……エルシア、大丈夫か?」
「何がです?」
エルシアに声をかけると、彼女はこちらを見ないで返事をした。
声が少し震えている。
復讐を成し遂げて感動しているのか、あるいは別の理由か。
それは分からないが、エルシアは静かに問いかけてきた。
「ディアブロ様は、私のためならどれだけ差し出せますか?」
それは、生きるために手足を差し出せなかった王子を見て抱いた純粋な疑問だったのだろう。
しかし、ここで答えを間違えてはならないと直感的に思った。
「……そうだな……」
俺は少し痛いのを我慢して、エルシアに覚悟の程を見せてやることにした。
手を自分の胸に突っ込み、心臓を取り出す。
「!?」
「さ、最低でも、心臓は差し出せるぞ。はは、凄いな。レベルが高いとこの状態でも半日は動けそうだ」
「な、何やってるんですか!?」
「あとエルシアのために差し出せるものは、なんだろうな? すまん、心臓が無いと頭に血が回らなくて何も考えられん……」
意識が遠退く前にエルシアが魔法で俺を回復させる。
俺を治療している時のエルシアは、目に涙を浮かべていた。
「ただ聞いただけです!! 実際に差し出そうとする馬鹿がいますか!!」
「す、すまん」
「……本当に、馬鹿です……。お母さんや師匠、ミーシャちゃんだって、他にもディアブロ様を愛している人が沢山いるんですよ」
エルシアが頬を赤らめる。
「これ以上、私に貴方を好きにさせてどうするんですか」
「……すまん」
ちょっとやり過ぎたようだ。
俺はすっかり元通りになり、エルシアがあることに気付いた。
魔剣が大きくなっていたのだ。
「……ディアブロ様……」
「いや、これはあれだ。死を感じて生殖本能が刺激されてだな」
「……ふふっ♡ 本当に貴方は、仕方のない人ですね♡」
「……良いのか?」
「前は駄目です。赤ちゃんがいるんですから、ビックリしちゃいます。今日は後ろだけですよ?」
俺は生きたまま食われているユリウスの前で、エルシアを抱いた。
見せつけてやるように。
この女は身も心も俺のものだと主張するように、本気でエルシアと愛し合った。
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
作者「かっこいいとこあるやん」
エ「ディアブロ様はいつでもかっこいいです!!」
デ「……/////」
作者「あ、次回最終話ね」
デ&エ「「!?」」
「ざまあ!!」「かっこええとこあるやん」「え? 次回最終話ってまじ?」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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