第20話 やられ役の魔王、エッで暇を潰す






「た、頼む、い、命だけは!!」


「悪いな、苦しませるつもりはない。王国の人間は皆殺しにする命令なんだ、特に商人はな。――ダークネスライトニング」



 俺は命乞いするアルヴェラ王国の商人を魔法で一思いに始末する。


 人の焼け焦げた臭いは苦手だ。


 しばらくお肉とか食べられなくなるからな。今は魔王族ではないため、ある程度の食事が必要なのだ。



「しかし、兵糧攻めとはエグい」



 エルシアは主要な街道を押さえ、その道を通る商人を片っ端から襲わせていた。


 と言っても、殺すのは王国の商人のみ。


 他国の商人が通った場合は積み荷を奪うだけに留めて見逃がしている。


 ついでに他国の商人に「魔王軍の標的はアルヴェラ王国」という旨を伝えることでアルヴェラ王国の孤立を狙う。


 他国の商人にとってはアルヴェラに関わらない限りは安全ってわけだからな。


 危険を冒してまでアルヴェラ王国を救おうとする他国の商人がどれ程いるだろうか。

 おそらくは片手で数えられるくらいには少ないはずだ。



「アデロ~!!」



 と、そこで人懐っこい笑みを浮かべた真っ赤な髪の美女が声をかけてくる。


 進化リザードマンのリュクシュだった。



「このぶっ殺した人間、喰っていいか?」


「何度も言ってるだろ、駄目だ」


「……お兄様、あいつ野蛮」



 ミーシャがリュクシュを指差して言った。


 いやまあ、気持ちは分かる。人の頭をバリボリ喰ってる美女とか軽くホラーだし。



「くぅ、人間の焦げた匂いは腹が減っちまうなあ」



 などと言いながら、お腹から可愛らしい音を出すリュクシュ。


 俺は言動のギャップに戦慄しながら懐から小瓶を取り出し、始末したアルヴェラ王国人の商人の亡骸に小瓶の中の液体を振りかける。


 待つことしばらくすると、亡骸がもぞもぞと動いて立ち上がった。



「何度見てもアンデッドはキモいな」



 俺がアンデッドに振りかけたのは、エルシアの血液だった。

 吸血鬼は自らの血を分けた者を眷属とし、自在に操れるようになる。


 要は殺した分だけお手軽に戦力を補充できるってわけ。


 まあ、自在に操れると言っても所詮は死体。近くにエルシアがいるなら話は別だが、簡単な命令を与えることしかできない。


 それでも数が揃えば脅威だ。


 しかもエルシアの血を使って作ったアンデッドには弱点の一つである日光が効かない。


 ヒロイン補正が凄いよね。


 エルシアはアンデッドによる軍勢を作るつもりらしく、殺したアルヴェラ王国人を片っ端からアンデッドに変えている。


 我が妻ながら、敵を嬲ることに関しては容赦がないと思う。



「さて、これでまたしばらくは暇だな」



 アンデッドの軍勢が揃うまで、俺たちはここを監視することになっている。

 もうじき侵攻の準備は整うだろうが、それまで今しばらくは暇だ。


 本来は親衛隊の俺たちがやる仕事ではないと思うが、そこは俺がエルシアにお願いした。


 人間は魔物を殺すよりも遥かに良い経験値になるようで、アヴァン攻略戦と今の任務でレベル999に届きそうなところまで来ている。


 可能ならどこかでレベリングしたいが、この近くにダンジョンは無い。

 仮にあったとしても仕事を放り出すのはいけないだろう。


 よってレベリングは無しとする。


 そうなるとめっちゃ暇になってしまうので、どうにかして時間を潰さないと。



「あの、お兄様♡」


「なんだ?」


「良かったら、ミーシャを可愛がって♡」


「……ごくり。し、仕方ない妹だな。この欲しがりめ」



 俺はミーシャの小さな身体を力強く抱き締めた。



「んっ♡ お兄様、チューしよ?」


「……舌を出せ」


「んっ♡ れろっ♡ ちゅ♡」



 ミーシャとちょっぴり大人なキスをする。


 リュクシュがギョッとして俺たちの方を見てくるが、慌てる気配は無い。

 ここ数日の間、リュクシュは行動を共にしているからな。


 俺とミーシャの関係を具体的に話したわけではないが、こうして身体を貪り合う関係ということは知られている。


 だからこそ、遠慮無くエッチなことができた。



「んっ♡ お兄様、キス上手♡」


「ミーシャも上手くなったな」



 そう言ってミーシャの頭を撫でながら、小振りなお尻を鷲掴みにする。

 それから俺とミーシャは青空の下で激しく愛し合った。


 途中で王国に雇われたであろう冒険者が襲ってきたが、片手間に倒せるような相手だったので即座に始末してそのまま続行。


 レベルも上がって気持ち良かったです。



「あひっ♡ お兄様しゃま♡ しゅごい♡」


「おっと、またヤりすぎてミーシャを気絶させてしまった……。まだ物足りないな?」



 俺がわざとらしくそう言うと、リュクシュが内股を擦らせて近づいてきた。



「な、なあ、おい、アデロ♡ オレも、抱いてくれよ♡」


「内緒で頼むぞ?」


「お、おう♡ へへっ、おっぱい以外の使い方も知り合いのサキュバスの姉ちゃんから教わったからな♡ 覚悟しろよ♡」



 俺とリュクシュの関係は続いていた。


 弁明させてもらうなら、俺は妻がいるという話はした。

 流石にエルシアだとは言っていないが、たしかに言ったのだ。


 そうしたらリュクシュは「嫁がいたらなんかダメなのか?」と言ってのけた。


 後で調べて分かったことだが、リザードマンは男が複数の女を独占するのが当たり前で、特に問題ないとのこと。


 ちなみに、エルシアから関係を続ける許可は貰っている。


 流石に申し訳なくて素直に白状したら、特に責められることもなかった上、エルシアは困ったように笑った。


 エルシア曰く。



『最近、他の女の子とエッチしたディアブロ様とエッチするのにハマってしまいまして。すっかり変態になってしまいました。責任、取ってくださいね?』



 と、危ない性癖に目覚めたらしい。


 俺は責任を取って、他の子とエッチした後は同じ回数以上エルシアを抱いている。


 それがまた背徳的で堪らなく興奮するのだ。


 俺はリュクシュのどたぷんおっぱいの感触を楽しみながら、侵攻再開の日を待つのであった。














sideアルヴェラ王国






 非常時に使われるアルヴェラ王国の王城地下にある会議室で、初老の男が唸っていた。


 彼の名はアルヴァンス・フォン・アルヴェラ。


 アルヴェラ王国の国王であり、聖女を魔王への生贄として差し出した人物。

 加えて言うなら、アルヴェラを危機に陥らせた張本人だ。


 彼は今、王国の重鎮たちと対策会議中だった。


 そこにはアルヴァンスの息子であり、王太子たるユリウスの姿もある。



「やはり、もう『あれ』を使うしかないのか」


「陛下、本気ですかな!?」



 王の呟きに対し、重鎮の一人が叫ぶ。



「今や王国の陸路は断たれ、他国からの援軍は期待できない。このままでは王国は干からびるだろう。民だけは、民だけは守らねば」


「し、しかし、陛下。『あれ』は呼び出した者の命を奪いまする」


「余がいなくなってもユリウスがおる。皆にはユリウスを支えて貰いたい」


「「「陛下……」」」



 国を守るため、自らの命を捨てる覚悟を決めた国王に対し、重鎮たちは目頭が熱くなる。


 しかし、そこに水を差す者がいた。



「何やら感動的な雰囲気を醸し出しておるが、もとはと言えばお主の早計な判断が招いた事態であろうに」



 国王、お前のせいだぞ。


 王に向かって直接そう言えるのは、アルヴェラ王国には一人しかいないだろう。


 一見すると十二、三歳ほどの少女だった。


 身体をすっぽりと覆う外套の下にやたらと露出度の高いマイクロビキニのような衣装をまとい、片目に眼帯をした幼女である。


 王国では珍しい黒い髪と瞳を持つその可愛らしい少女の名はナリア。


 数百年前から王国を守る賢者である。



「ナリア殿。いくら貴女でも陛下に対してそのような物言いは――」


「黙れ」



 ナリアが一言命じると、彼女を諌めようとした重鎮の口が動かなくなってしまった。



「儂は今、極めて不機嫌なのじゃ。可愛がっていた弟子が、儂の親友であった少女の転生体が研究室にこもっている間に魔女として国を追われ、あまつさえ本物の魔女に成り果てた。のう、何か言い訳はあるかえ?」


「ナリア殿、余は間違ったことをしたつもりはない。あのままでは魔王の怒りを買い、国が滅びる可能性すらあった」


「結局同じではないか。いや、聖女という魔王への切り札がいなくなった今の方が最悪じゃな」



 ナリアは黙らない。


 今、アルヴェラ王国を滅ぼさんとする少女は数十年ぶりに見つけたダイヤの原石だった。

 賢者たるナリア自身が魔法の使い方を教え、面倒を見ていた少女だ。


 たしかに研究に没頭するあまり、外界の情報を断って弟子を守ってやることができなかったのはナリアの落ち度だろう。


 その上で、ナリアは言う。



「元々の原因を言うなら、くだらぬ理由であやつを唆し、魔王にけしかけた貴様の愚息のせいであろう」


「くだらぬ理由、ですって?」



 ナリアの物言いにムッとしたのは、他ならぬユリウスだった。



「なんじゃ、怒ったのか? ならばもう一度言ってやる。貴様がエルシアとの婚姻を皆に祝福されたいからという理由で魔王に喧嘩を売ったのがそもそもの間違いじゃ」


「そ、それは……」


「たしかに前世が聖女とは言え、今のエルシアはただの平民。万人から祝福はされぬじゃろう。何ならそなたが廃嫡となる可能性もあった」



 ナリアはユリウスが行動に移した際の思考に一定の理解を示す。


 その上で、敢えて言う。



「そなたは王太子の座を失うのを恐れ、またエルシアが手に入らぬことを恐れた。その結果がこれじゃ。エルシアを失い、国が地図から消える可能性が出てきた。貴様の責任じゃ」


「くっ」


「まあ、長々と言ったが……。儂は今日でこの国を見限る」


「「「「「!?」」」」」



 その発言は、会議室にいる重鎮たちに衝撃をもたらすには十分なものだった。


 ナリアは数百年に渡り王国を守ってきた賢者。


 その賢者が国を見限ると言ったのは、それほどの一大事なのだ。



「じゃがまあ、この国は儂の親友と初恋の男が興した国。何もせず見捨てるのは良心が痛む。故に、儂が交渉に向かおう」


「……良いのか?」



 アルヴァンスが問う。ナリアは鼻で笑った。



「ふん、良いわけがなかろう。いくら儂とて今のエルシアには殺される可能性すらある。儂は死にたくない」


「……むぅ」


「じゃから、『あれ』を使うのはもうしばらく待て。あれは人間のことなど考えぬ。意志を持った嵐や地震と同じじゃ」


「あい分かった。頼む、ナリア」



 こうして、長きにわたって王国を守ってきた賢者が魔女と成り果てたかつての弟子に、かつての親友に会いに向かう。


 その賢者が帰ってくることは、ついぞ無かった。





―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「マイクロビキニのじゃロリは作者の癖」


デ「ほぇー」



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