やられ役の魔王が攻略対象を返り討ちにしたらヒロインが生贄として送られてきたんだが。

ナガワ ヒイロ

第1話 やられ役の魔王、攻略対象を返り討ちにしてしまう




 『聖女と五人の勇者たち』。


 それは俺が前世の妹に勧められてプレイした乙女ゲームだった。


 内容に関しては割とありがちなもの。


 聖女の力に目覚めたヒロインが学園に通い、勇者候補である青少年たちとイチャイチャして好感度を稼ぎ、最後にはゴールイン。


 ファンタジーらしく冒険パートもあり、男の俺でも楽しめるシステムとなっていた。


 攻略対象となる五人のイケメン勇者たちは有名イラストレーターや声優を採用したことで近年稀に見る名作として話題にもなった程だ。


 しかし、どこにでもアンチというものは湧く。


 この『聖女と五人の勇者たち』も例外ではなく、特に冒険パートのラストだ。ここに関しては俺も文句を言いたい。


 それは人類を滅ぼそうとする魔王との最終決戦。


 ヒロインが攻略対象と共に魔王を倒そうと魔王城を訪れた時だ。


 そもそもこの乙女ゲームは学園での攻略対象とのイチャイチャがメインであり、ぶっちゃけ冒険パートはおまけ。


 魔王を倒したら超ウルトラハッピーエンド、別に倒さなくてもハッピーエンドって感じ。

 そのせいか、魔王だけは大したレベリングもしないで勝てるようになっている。


 というか倒さなくても一定時間が経過すると、ヒロインの聖女ちゃんが魔法で魔王を封印してくれるのだ。


 要は勝ち確イベント。負けは最初から無い。


 何ならその手前で戦うボスキャラの方が苦戦する程だ。


 でもまあ、魔王からしたら冗談でも笑えないものだろう。

 まだ人類を攻撃する前で、何もしていないのに勇者と聖女にボコられた挙げ句に封印されるとか可哀想にも程がある。


 え? 誰も魔王の心情なんか気にしないって?


 それはそうかも知れないが、俺は気にしてしまうのだよ。


 だって俺、その魔王に転生しちゃったから。



「あれが……魔王か!!」


「なんて邪悪な魔力だ……」


「でも僕たちに負けは許されない!!」


「ああ!! 魔王なんてぶっ倒して、世界を救ってやる!!」


「皆、行くぞ!!」



 赤、青、黄、緑、紫……。


 ニチアサの戦隊みたいなカラフルな色をした頭髪の五人組が並び、更にその後ろで一人の少女が両手を組みながら祈りを捧げている。



「皆さん!! 一緒に世界を救いましょう!!」



 あの少女こそ、この『聖女と五人の勇者たち』の世界における主人公であり、ヒロイン。


 名前はエルシア。


 雪のような純白の髪とサファイアのように青く輝く瞳。

 色白な肌は儚げな雰囲気と相まって、さながら妖精のようだった。


 あと何より大切なのは、巨乳。


 ネットを中心に『聖女と五人の勇者たち』が話題となったことで、エルシアのエッチなイラストが世の中に出回った程だ。


 遠目から見ても結構な大きさだし、近くで見たらもっと迫力あるんだろうなあ。


 っと、いかんいかん。



「ようこそ、我が城へ。歓迎しようではないか、愚かな人間たちよ」



 一応、ゲームの魔王と同じ台詞を言う。


 俺は魔王に転生してから、ずっと今この時のことを考えて生きてきた。

 倒されるのはもちろん嫌だし、何百年も封印されるとか論外。


 ならば、いい感じに倒されるフリをして残りの人生を一般魔族として過ごそうと決めたのだ。


 そのためにはある程度の強さがいる。


 全力で俺を倒しにかかってくる攻略対象たちを相手に手加減しながら、いい感じにやられた演技をしなきゃだからな。


 俺はとても頑張った。


 前世の記憶を取り戻してから、ヒロインと攻略対象がやってくるまで。


 人間に化けてダンジョンにこっそり潜り、魔物を倒しまくってレベリング。

 同族を倒して得た経験値は意外とウマウマでレベル上げは捗った。


 やられる演技の練習で忙しかったから今のレベルは把握していないが、攻略対象たちの攻撃を一斉に受けても死ぬことはないはず。


 あとは予定通りに、いい感じにやられるだけ!!


 でも魔王でいられるのはこれが最後だし、ちゃんと魔王らしい振る舞いをしないとな。



「まずは歓迎の挨拶だ。――ダークネスフレイム」



 ゲームの最終決戦でも魔王が使った魔法だ。


 広範囲に闇属性の炎を撒き散らす攻撃魔法だが、エルシアの扱う光属性の防御魔法で簡単に防ぐことができる。


 できる、はずだったのだが……。



「「「「「ぐわあああああああああああああああああああああああッ!!!!」」」」」


「あれ!?」



 なんかエルシアの展開した防御魔法を貫通してしまった。


 おかしい。


 今のはゲームでも挨拶程度の魔法で、エルシアの防御魔法を貫通することはないはず。



「そ、そんな、皆さん、大丈夫ですか!?」


「うっ、こ、これが、魔王、なのか? こんな化け物に、俺たちは勝てるのか……?」


「わ、私が隙を作ります!! 皆さんはその間に態勢を整えてください!! ――ホーリーライトニング!!」



 と、ここでエルシアが攻略対象たちの前に立ち、光属性の攻撃魔法を使ってきた。


 おお!! これは魔王を追い詰めた魔法!!


 よし、このエルシアの魔法をわざと食らってやられたフリをしよう。


 しかし、ここで更にトラブル発生!!


 何故かエルシアの魔法は俺に当たらず、明後日の方向に飛んで壁に着弾した。



「う、うそ、魔王が全身から放つ魔力が強大すぎて、私の魔法が弾かれてる……?」


「え、そうなの?」



 思わず素で聞き返してしまった。



「くそっ、魔法がダメなら俺の剣で倒すまでだ!!」


「お、おお、骨のある奴もいるようだな」



 俺は慌てて魔王の顔を取り繕い、剣を片手に立ち向かってきた攻略対象の一人を相手に身構える。


 エルシアの魔法でいい感じにやられる作戦は失敗したが、この場にいる俺を倒しにきた者は一人ではないのだ。


 攻略対象の鋭い一閃をその身で受ける。


 しかし、痛みが無かった。というか、バキーンと耳をつんざく音が響いただけだった。



「ば、馬鹿な、代々王家に伝わる聖剣が、魔王の肉体を傷つけることなく折れた、だと?」


「え、まじ?」



 流石に嘘だろ? 実は聖剣が偽物でしたとか、そういうオチじゃないのか?


 いや、ゲームにそんな話は無かった。


 まさかとは思うが、俺が強くなりすぎてシナリオが変わってしまったのか?



「無理だ、か、勝てない、俺たちじゃ、この化け物には勝てない!!」


「くっ、まさか魔王が完全に力を取り戻していたなんて!!」


「て、撤退するぞ!! エルシアも急げ!!」


「え、で、でも、ここで魔王を倒さなければ、世界が!!」


「また強くなってリベンジするしかない!!」



 そう言って、ヒロインと攻略対象たちは逃げ出してしまった。


 いや、ちょ、ちょっと待って!? 流石におかしいよな!?



「バルザック!! バルザックはいるか!!」


「こちらに、魔王様」


「急いでレベル測定用の魔導具を持って来るのだ!!」


「え? レベル測定用の、ですか?」


「そうだ!! いいから早く早く!!」



 急いで部下に持って来させたのは、レベルを測定するための魔導具。

 一見するとただの水晶玉みたいだが、これに触れることで自身のレベルを知ることができるのだ。


 レベリングややられる演技の練習に忙しくて最近は測定していなかった。


 果たして結果は――



「な、なんと!? 流石は魔王様!! Lv999とは!! これは人類を滅ぼすのも容易いですね!!」


「おうふ、やっちまったよぉ」



 いや、たしかにね?


 最近はレベルが上がった時の何とも言えない爽快感にハマってたけれども。


 このレベルはダメでしょ!?


 ゲームでの魔王はエルシアたちがレベル1でも封印できる強さだ。


 それがこのレベルは流石にヤバいって!!



「いや、大丈夫だ。まだ慌てる時間じゃない」



 エルシアたちはレベルを上げてリベンジに来ると言っていた。


 チャンスはまたその時にやって来る!!


 と思ってレベリングはしばらくお休みしていたら、ここでまた想定外の出来事が起こった。









「魔王様。どうやら人類は魔王様のお命を狙ってきた聖女を生贄として送ってきたようです」


「オーマイゴッド」



 魔王がオーマイゴッドとか言っちゃダメな気もするけど、誰だって言いたくなるよ。

 だって人類から送られてきた生贄が、エルシアだったから。


 何やらボロをまとっていて、所々に怪我もしている。


 儚げな雰囲気はどこへ行ったのか、今のエルシアの瞳に光は無く、絶望に染まり切っていた。



「……して……」


「ん? なんだ?」



 エルシアが小声で何か呟いたので、よく耳を凝らしてみる。



「……殺……して……」


「な、何だと?」


「……私は……聖女なんかじゃ……ない……みんなの期待を……裏切った……魔女……」



 うわああ!! ごめん!! なんか本当にごめん!!

 これ絶対に俺を倒せなかったから人類に迫害受けちゃったパターンの奴だ!!


 俺は心の中で必死に謝罪するのであった。





―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい作者の一言


作者「美少女が絶望してる姿に興奮します」



「面白そう」「魔王が神に祈ってるの草」「お巡りさん、この作者です」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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