第6話 やられ役の魔王、ヒロインのお願いを聞く




「まあ。あの子ったら、私の知らない間に結婚していたのねぇ。お手紙でも良いから教えてくれればお祝いに何か贈ったのに」


「ははは。まあ、魔王軍と王国の間に国交はありませんから」



 俺は今、美人なお姉さんとお話している。


 髪の色は雪のように白く、その瞳はサファイアのように青く輝いている。


 加えて言うなら、おっとりした雰囲気とは正反対の暴力的なまでにボンキュッボンなわがままボディをしていた。


 特におっぱいがデカイ。


 エルシアがメロンだとしたら、このお姉さんは夏場のスーパーで売っている大玉のスイカと表現すべきだろう。


 一言で言うなら超最高です。



「って、そうじゃない!! なんで俺はおもてなしされてるんだ!?」


「あら、娘の夫をもてなすのは当然では?」



 このお姉さんの名前はマナ。エルシアの母親だ。


 見た目はどう見ても十代後半のお姉さんだが、実年齢は三十を越えているらしい。


 もう一度言おう。

 マナは決してエルシアの姉ではなく、エルシアを産んだ母親だ。


 では何故、俺はエルシアの実家で彼女の母親からおもてなしを受けているのか。


 時間は少し前に遡る。












 夜。


 俺は一日のうちで、もしかしたらこの時間が一番好きかも知れない。


 ……いや、やっぱり違うな。


 一番好きなのは昼だ。エルシアとエロいことができるから。


 乙女ゲームのヒロインというのは容姿も体型も整っている上、それに加えて高い学習能力を持っている。


 いきなり優秀な魔法使いばかりの王国の魔法学園に入れられても学内上位に食い込む程だ。


 その彼女に夜のテクニックを教えているのは、魔族の中でも男の生命エネルギーを搾り取るのに特化したサキュバスたちである。


 要するに。


 エルシアのテクニックはLv999の魔王の体力無しでは勝利を得られないだろう。


 それくらい凄いの、まじで。


 あと何故エロいことするのに夜ではないのかと思ったそこの君。


 エルシアは吸血鬼なので、昼と夜が逆転しているのだ。

 本人曰く、日光を浴びても灰になることはなく、少し肌がちりちりする程度らしいが。


 前の模擬戦も夜にやってるしな。


 昼にエロいことして、深夜まで続くことが最近はしょっちゅうある。

 魔王が睡眠を必要としない身体で良かったと心から思うね。



「……ディアブロ様……出しすぎです……」


「すまん。嫌だったか?」


「……いえ、別に。そういうわけでは……」



 最近、エルシアがかわいくて仕方がない。


 お願いしたらサキュバスのお姉さんたちが用意した露出度が爆発してる衣装を着てくれるし、何ならコスプレもしてくれたし。


 特に近頃のお気に入りは逆バニースーツだな。


 吸血鬼美少女の逆バニースーツ、いわばヴァンパイア逆バニーだ。


 これが最高。


 もうね、俺の魔剣がガトリング砲に進化してしまう程には破壊力がある。


 エルシアが隣で溜め息を溢す。



「……はあ、すっかりディアブロ様のものにも慣れてしまいました。いえ、慣れさせられたと言った方が良いんでしょうか?」


「酷い言われようだ。エルシアも楽しんでたじゃないか」


「そりゃあ、まあ、気持ち良いですし」



 視線をさっと逸らして言うエルシア。


 しかし、エルシアは途端に真剣な面持ちになり、俺の隣で正座した。



「なんだ、急に?」


「ディアブロ様。一つ、お願いがあるんです」


「ふむ。物に依る、と言っておく。まあ、大抵のものは用意できると思うぞ」


「欲しいのは物ではないのです。あ、いえ、物というよりは、人です」


「人?」



 俺が首を傾げていると、エルシアはゆっくりと頭を下げた。


 ジャパニーズ土下座である。


 いや、ばちくそ中世ヨーロッパ風の世界に土下座とは是如何に。



「母を、王国から連れ出したいのです」


「……そうか。母君か」



 俺は納得した。

 エルシアが顔を上げて、力強い意志を宿した目で話を続ける。



「私はこれから王国への復讐に全力を注ぎます」


「そうか」


「私が魔女として国を追放され、母がどのような扱いを受けているか……。まあ、母の住む家は滅多に人の寄り付かない森の奥にあるので、大丈夫だとは思いますけど」



 エルシアの実家は田舎という言葉では表現できないような場所にある。


 ゲームの設定によると、若い頃に何かやらかして森の奥地にまで逃げてきたのだとか。


 それが何かまでは作中で分かっていないが……。


 たしかにエルシアの実家がゲームと同じ場所にあるなら、人間は寄り付かないだろう。


 何故ならエルシアとその母が住む家は、野生の魔物が蔓延る危険地帯。

 王国の使者たちが多大な犠牲を払いながらも辿り着いた場所だ。


 エルシアを聖女の生まれ変わりと言い始めた預言者がその所在を言い当てるまで、人の住める場所ではないと思われていた森。


 エルシアの母がそこにいるなら、危険な目に遭っている可能性は低いだろう。



「しかし、やはり心配なんです。お父さんが死んじゃってから、私を一人で育ててくれた人ですから」


「……良い母君だな」



 俺がそう言うと、エルシアは申し訳なさそうに視線を逸らしながら言う。



「いえ、その、分かっています。ディアブロ様に人間を助けて欲しいというのは――」


「分かった」


「――あまりにも自分勝手な願いであると重々承知の上で、え? あ、え? はい? 今、なんと?」


「分かったと言った」


「そ、即答ですか!?」



 俺にエルシアの願いを断る理由は無い。


 むしろアレだろ、結婚のご挨拶? みたいなものはした方が良いと思うし。


 いや、挨拶の前に娘さんとエロいことしたって事後報告は不味いか?



「俺は妻の願いを無碍にはしない。そなたはそなたのやるべきこと、復讐に全力を注ぐと良い」



 単純にエルシアの母と話してみたいしな。


 ゲームでは台詞のみの登場でキャラデザが分からないし、気になる。



「ありがとう、ございます。ディアブロ様……!!」



 そんな俺の内心をいざ知らず、エルシアは感謝の言葉を述べながら、母の住む森の名を口にした。


 あ、菓子折りとか用意しといた方が良いか?


 と思ってエルシアに相談したら、思わぬ情報を得られた。



「母は酒豪なので、お酒をあげたら喜ぶと思います」


「む、酒か。そう言えば、前にダンジョンで得たお高い酒があったな。それを持って行くか」



 俺は準備を済ませて、エルシアの実家がある森へ向かうのであった。





―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話

エルシア母の胸を見た時のディアブロの反応


デ「エルシア、遺伝子受け継いでんなあ」



「ヴァンパイアバニーは見たい」「うらやまけしからん」「酒、義母、閃いた!!」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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