第16話 やられ役の魔王、またもやらかす
「起きて、お兄様。もう朝」
「……ん? あ、ああ。おはよう、ミーシャ」
俺はミーシャに身体を揺すられて目を覚ました。
魔王の肉体に睡眠は不要だが、人間としての感覚が眠りを求めているのだ。
と、そこで俺はハッとした。
「お兄様、とは?」
「お兄様はお兄様。私の大好きな人」
「……俺の名前は知っているか?」
「? 当たり前。ディアブロお兄様の名前を忘れるわけがない」
俺は困惑しながらも、この意味の分からない状況に頷いた。
「想定より大分早いが、エルシアの言った通りになったな……」
「?」
エルシアはミーシャのことをよく知っている。
一度は良い雰囲気になったイケメン、『聖女と五人の勇者たち』の攻略対象の妹だったからな。
ましてやミーシャは悪役令嬢らしくエルシアの暗殺を企てたことがある。
その暗殺計画は攻略対象たちによって暴かれ、阻止されたが……。
その事件を切っ掛けとして、エルシアはミーシャの性格や思考を正確に把握していた。
エルシア曰く。
『ミーシャちゃんは自分に都合の悪いことを心の中でねじ曲げてしまう子なんです。ディアブロ様と関係を持って、大好きな兄を裏切ったとなれば、こちらに都合の良いよう自分の記憶を改竄、封印してくれるはずです』
その結果、ミーシャの中では俺が元から大好きな兄になってしまったようだ。
どうやらエルシアの読みがドンピシャで的中したらしい。
どうしよう、俺に妹ができてしまった。
エルシアは俺を兄と認識したミーシャを、本物の兄の前に突き出すつもりらしい。
自分を慕っていた妹が魔王のことを兄と認識して腰を振る姿を見るのは、きっと耐え難い苦痛だろうとのこと。
前世で寝取りモノや寝取られモノのエロ漫画を少なからず嗜んでいた俺からすると、エグい。
特に油断してたら自分を慕っていた姉や妹、幼馴染みが寝取られる話は、心に大きな傷を残してしまう劇薬である。
俺の友人に寝取られモノのエロ漫画で性癖が歪んでしまった者もいた程だ。
いやまあ、エルシアを抱いてる時点で十分攻略対象たちからしたら寝取られかも知れないが。
ミーシャは更なる追い討ちのために堕とされる羽目になったようだ。
ついでに言うと、兄を裏切ったという現実を後々突きつけてやることでミーシャの心も抉るという作戦らしい。
俺の妻が怖い。
それにまさか俺が竿役になるとは思わなかったな……。
「お兄様? どうしたの?」
「……何でもない。気にするな」
「ん。お兄様がそう言うならそうする」
くっ、我ながらチョロい!!
たった一回身体を重ねて『お兄様』呼びをしてきた女の子を可愛いと思ってしまうとは。
しかし、この子はエルシアの暗殺を企てた過去がある少女。
警戒はせねば。
……いや、エルシアはあまり気にした様子は無かったが。
エルシアの心が広いのか、それとも豪胆なのか分からないな。
「お兄様、どこ行くの?」
「少しエルシアに会いに行ってくる」
「……エルシア? よく分からないけど、その名前、どこかで聞いたような……?」
「む、そうか」
どうやらミーシャはエルシアに関する記憶を失くしてしまったらしい。
いや、無意識に記憶を封じているのか。
どちらにしろエルシアのことを忘れているのは都合が良いな。
「……お兄様、そのエルシアって女とどんな関係なの?」
「ん? エルシアは俺の妻だ」
俺がそう言うと、ミーシャはその藍色の綺麗な瞳に何か黒いモノを宿した。
あ、誤魔化した方が良かったかな。
……いや、今のエルシアは虐殺を繰り広げたお陰でそれなりにレベルが高くなっている。
ミーシャでは手も足も出ないだろうから、問題はないはず。
でもまあ、火種を残しておくのは良くないな。
俺はミーシャの慎ましくも確かな膨らみを感じる胸を軽く撫で回した。
「ひゃんっ♡ お、お兄様?」
「安心しろ。お前のことも、しっかり見ているからな」
「お兄様……♡」
ミーシャがヤンデレ属性を持っていたのは、兄が見向きもしなかったからだろう。
まあ、実の兄妹で恋愛感情を抱くのは珍しい。
ミーシャが本気で兄を慕っていても、兄にそういう気は一切無かった。
むしろエルシアを好いている兄はミーシャのことを疎ましく思っていたはず。
しかし、俺はミーシャの兄とは違うのだ。
ミーシャと血は繋がっていないし、目の前の少女を女として認識している。
つまり何を言いたいのかと言うと。
「あんっ♡ お兄様っ♡ 激しっ♡」
ミーシャがエルシアに嫉妬する前に鎮めてやることができるのだ。
しかも今回はエルシア公認!!
おっぱい星人である俺からすると、エルシアやマナとは違う慎ましいお胸のミーシャで満足できるか不安だったが……。
大きいだけがおっぱいではないと気付いた。
この慎ましいお胸で精一杯奉仕されるのは正直最高だった。
「それじゃあ、行ってくる」
「はひっ♡ いってらっしゃいませ、お兄様♡」
俺はミーシャの部屋を出て、エルシアのもとへ向かった。
しかし、エルシアは自軍の参謀と緊急会議に行ってしまったとのこと。
どうやら入れ違いになってしまったようだ。
一応、エルシアの親衛隊の部隊長に任命されている俺も参加した方が良いかと思ったが、エルシアの副官、ロリサキュバスのマロン曰く。
『魔王様――コホン。アデロ様は特別任務を優先して欲しいとのことです』
らしい。
エルシアの言う特別任務というのは、ミーシャを洗脳することだろう。
残念ながら、それはもう完了してしまった。
「どうしよう。暇になってしまった」
マナの医院に遊びに行ってイチャラブエッチでもしようか。
いや、仕事の邪魔をしちゃ悪いよな。
エルシアも今後の作戦を参謀たちと考えたいだろうし……。
ミーシャを抱いたばかりなので、今度は大きなおっぱいに甘えたい気分だ。
などと考えていると。
「おーい、新入りー!!」
聞き覚えのある声がする。
振り向くと、そこにはアヴァンの街にいるはずのリュクシュが立っていた。
相変わらず大きいな。
「リュクシュ? どうしてここに?」
「エルシア様に緊急の報告があったんだよ。まあ、その報告は済ませたから、明後日には戻らなきゃなんだが……。時間あるから酒でも飲もうぜ!!」
「……そうだな。俺もちょうど暇していたんだ」
「お、新入りも非番なのか? そりゃちょうど良かった!!」
俺が非番じゃなかったらどうするつもりだったのか気になる物言いだな。
などと思っていると、リュクシュはそこで何かにハッとした。
「もう新入りはやめた方が良いか?」
「あー、親衛隊の部隊長だからな。もう俺の方が上司なのか」
「だな。えーと、アデロ様?」
「冗談だよ。アデロって呼んでくれ」
「へへ。分かったぜ、アデロ」
そんな雑談を交えながら、俺たちは魔王城にある酒場へ向かった。
突然だが、魔王城は街と城が一体化している。
魔王城の下層が一般魔族の暮らす領域であり、ここには多くの民家や店がある。
中層は魔族の中でもそこそこの影響力がある者が住み、上層は魔王、つまりは俺に近しい者が生活している感じだな。
今回、俺がリュクシュと訪れたのは下層。
その下層にあるお店の中でも、特に安くて美味しいと評判の酒場だった。
店に入り、適当に酒を注文する。
「「かんぱーい!!」」
ジョッキの中身を一気に呷る。のど越し滑らかで美味しい。
前世で言うビールのような味だった。
「しっかし、新入りがいきなり親衛隊長になっちまうとはなあ。何か気に入られることもでもしたのか?」
「あー、ほら。俺が捕まえた捕虜がいるだろ? あれが魔王妃様と因縁のある相手だったんだよ。ま、偶然だな」
「ほぇー。日頃の行いが良いんだろうなあ」
そう言われると反応に困る。
お酒の勢いで妻の母と関係を持ったり、妻たっての希望とは言え、年端も行かぬ少女を洗脳したりしてるし。
いや、気にしたら負けだろう。
と、そこで俺はあることに気付いてリュクシュに話題を振った。
「服、着てるんだな」
「今さらかよ!!」
アヴァン城で進化した直後のリュクシュは、肩やへそ、股やおっぱいが丸出しだった。
しかし、今日は最低限だが、さらしでおっぱいを隠し、腰巻きをしている。
露出控えめだった。
「いやー、あの後で知ったんだけどよ? なんか今の姿だと真っ裸はダメなんだってよ。オレぁ布が鬱陶しいから嫌なんだが、副官殿に怒られちまってな」
「なるほど」
リュクシュのどたぷん生おっぱいが見られなくなったのは本当に残念だ。
そんなことを考えて酒を飲みまくってるうちに、いつの間にか朝が来た。
俺はベッドで目を覚まし、愕然とする。
「んっ♡ うへへ……」
「……やっちまった」
目が覚めた俺の隣では、一糸まとわぬ姿のリュクシュがよだれを垂らしながら眠っていたのだ。
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
作者「作者は仲の良い友達と一線越えちゃって気まずい雰囲気になるけど、何度もやってるうちに遠慮が無くなっていくシチュエーションが好き侍」
「ヤンデレ妹は素晴らしい」「またやらかしてる……」「あとがきぐう分かる」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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