第8話 sideエルシア 復讐の宴の始まり



sideエルシア





「……」



 満月を背に宙に浮いている少女がいた。


 純白の髪が月光を反射し、その姿はさながら夜の女神のよう。


 どうも、私です。エルシアです。


 ちょっと自分で女神と表現するのは恥ずかしいですが、こういう表現をしたくなっちゃうのは私が物語好きだからでしょうか。


 私は上空から、ある国の都を見下ろす。



「空から見下ろす夜の王都って、意外と綺麗なんだ……。知らなかったなあ」



 アルヴェラ王国。


 私の生まれ育った森があり、私を裏切った連中の治める国。


 ここはその王都である。



「今から、この綺麗な町を……。残念だわ。人がいなければ、とても美しいのに」


「エルシア様!! 準備が整いましたのです!!」



 私が一人で浸っていると、サキュバスの女の子が翼をはためかせて近づいてきた。


 見た目は人間で言うところの十二、三歳くらいだと思う。

 ピンクブロンドの髪と青い瞳が綺麗で、可愛らしい女の子だ。


 この子の名前はマロン。


 実年齢は私より年上らしいが、サキュバスの中ではまだ幼いそうだ。


 そのためか、言動には少し幼さがある。


 バルザックさんの話によると、魔族は人間と違って外見と年齢が一致しないことが多いそうで、別に珍しくはないとのこと。


 正直、個性豊かな人が多くて魔王軍は退屈しない。ディアブロ様もいるし。



「……ディアブロ様……」



 魔王ことディアブロは、不思議な人だ。いや、魔族だから人じゃないけど。


 あの方は、優しい。


 魔王軍を真面目にまとめているし、時間を作って私に会いに来てくれる。鍛練も怠らない。


 少し誘ったらすぐにベッドへ連れ込もうとしたり、遠慮なくお尻やおっぱいを揉みしだいてくるところはどうかと思うけど。


 サキュバスのお姉さんたちからエッチなテクニックを教わって、それを全力で行使しているにも関わらず、最後は私が良いようにされてしまうことも多い。


 ベッドの上で支配されているようで、でもそれが安心を与えてくれる。その安心が刺激的だった。


 王国にいた頃とは違って。


 ……いや、王国にいた頃もある意味では刺激的な生活だったかな。

 王子様と恋をしたり、素敵な男の子たちに囲まれたり。


 でも今はそれ以上に刺激的で、充実している。



「どうやったら、ディアブロ様に受けた恩を返せるかな」



 私は幸せだ。

 いつも気持ち良くしてくれる旦那様がいて、やりたいことをできるから。


 でも、その恩に報いる方法がいくら考えても私には分からない。


 ……いや、今はいい。考えるのは後だ。


 私はただ、私のやるべきことをやる。ディアブロ様に恩を返すのはそれからだ。

 


「さて、と」



 私は王都の中央を見据える。


 そこにあるのは、アルヴェラ王国の王城。王族が住まう場所。

 今、その場所で国の中枢を担う者たちがくだらない会議をしている。


 手始めに一発。


 私は吸血鬼としての力と、生まれ持った光魔法を組み合わせた攻撃魔法を放った。



「ホーリーブラッドライトニング」



 赤い稲妻が轟き、王城に落ちる。

 その衝撃は王城の屋根を吹き飛ばしてしまい、瓦礫が地上に落下した。


 何人かの兵士が下敷きになって死んでしまったようだが、知ったこっちゃない。


 私はそのまま翼をはためかせ、風穴の空いた屋根から王城の会議室に入る。

 そして、そのままコツコツと靴の音を鳴らしながら、王とその王に忠誠を誓う大臣たちの前に立った。



「な、何者だ!!」



 そう問いかけてきたのは、私を国から追いやった張本人。


 王様だった。



「……もう私の顔をお忘れのようですね」



 私は今すぐにでも手足をもいで殺してやりたい衝動を抑え込む。


 今日は挨拶に来たのだ。


 王国にとっての破滅の宴を開催する、その主催者として。



「私の顔を覚えている方もおられるかも知れませんが、お久しぶりと言うのはやめておきましょう。今の私は聖女ではありませんから」


「っ」



 そこまで言ってようやく思い出したのか、アルヴェラ王の顔は青ざめた。



「な、何故、貴様が……!! 貴様は魔王への生け贄になったのでは!?」


「その魔王から力を授かったのです。改めて名乗りましょう。私はエルシア」



 そして、私は胸を張って言う。



「魔女、あるいは魔王妃エルシアとお呼びください」


「魔王妃、だと!?」



 その場に居合わせた大臣たちの顔が、驚愕と困惑に染まる。


 ああ、良い顔だ。


 きっと国からの追放と魔王への生贄とすることを告げられた時の私も、同じような顔をしていたのかも知れない。



「今日はご挨拶に参りました」


「あ、挨拶、だと?」


「はい。私はこれから、この国に戦争を仕掛けます。戦争と言っても、一方的な虐殺を予定していますけど」


「き、貴様は、何を言っておるのだ!?」



 アルヴェラ王の問いには答えず、私は笑顔のまま話を続ける。



「この国に住む人間を徹底的に殺し尽くします。アルヴェラの血を引く者は皆殺しです」


「ふ、ふざけるな!!」


「真面目ですよ? ああ、でもご安心を。私が恨むのは私に石を投げ、魔女と罵ったこの国の連中です。もし他国の人間がいたら、そちらは見逃しますから。まあ、攻撃してきたら構わず殺しますけど」



 きっと今、アルヴェラ王や大臣たちには私が化け物に見えているのだろう。


 生贄となったはずの少女が、魔王の妃となって舞い戻り、故郷であるはずの国を滅ぼすと宣言したのだから。



「じわじわとこの国を苦しめ、嬲り殺しにして差し上げます♪」



 思わず声が弾む。


 どうやってこの国を滅ぼしてやろうか、考えるだけでも興奮してしまう。


 と、その時だった。



「父上!! 何者かからの襲撃です!! 急いで退避……を……」


「あっ」



 懐かしい顔だ。


 最後に会ってから一ヶ月も経っていないけど、随分と時間が過ぎたように思える。


 数名の兵士を連れて広間に入ってきたのは、私を一生愛し、何があっても守ると誓ってくれたこのアルヴェラ王国の王子様。


 名はユリウス・フォン・アルヴェラ。


 炎のように真っ赤髪と瞳が綺麗な優しそうな青年である。



「エルシア? エルシアなのか!?」


「はい。お久しぶりです、ユリウス殿下?」



 私は笑顔で挨拶した。作り笑顔だ。


 ユリウスは驚きながらも、その表情は嬉しそうだった。


 その笑顔に少し前まで惚れていた自分がいる。


 でも今は、そのユリウスの微笑む顔を見ても私の心は何も思わなかった。

 それどころか、ディアブロ様と比べてしまう自分がいる。


 たしかにユリウスは優しいし、容姿はトップクラスで整っていると思う。


 でもそれはディアブロ様も同じだ。


 加えて言うなら、ディアブロ様は吸血鬼となった今でも勝てないほど強い。


 それでいて私のことを全力で愛してくれるし、私の復讐を応援するためにわざわざ軍を用意してくれた。


 行動力も強さも、何もかもが違う。


 今の私がどちらを愛しているか、答えを考えるまでも無い。



「ど、どうして君がここに? いや、それよりも無事で良かった!!」


「……今更心配する振りはやめてください。不愉快です」


「え?」



 私の言葉が意外だったのか、ユリウスはその場で硬直してしまう。



「本当に私のことを心配していたなら、いえ、本当に私を愛していたなら、何故助けてはくれなかったのですか?」


「そ、それは……。お、俺は、助けようとしたんだ。でも」


「もう遅いです。私はもう、人間を辞めましたから」


「え? それはどういう……?」


「二度も同じ説明をするのは面倒です。詳しいことはそちらで硬直しているお偉方にお聞きください。では、私はこれにて」



 私は翼を広げ、窓から外に出る。


 城下町は王城の一部が崩落したことでパニックに陥っていた。


 そのパニックに乗じて、数人のサキュバス隊がこっそり侵入している。


 これから彼女たちは秘密裏に活動してもらい、王国を少しずつ弱らせてもらう。国を動かしている者は大半が男だ。


 数人ほど要人を搾り殺してしまえば、それだけで国は揺らぐ。


 そこからが本番だ。



「……お母さん、もう魔王城に来てるかな?」



 私は一仕事終えて、母のことを思い出す。


 母は優しいけど、とてもマイペースな人だ。

 今頃ディアブロ様を困らせているのではないだろうか。


 なんて考えながら魔王城に帰還した私に待っていたのは――



「本当にすみません!!」



 土下座するディアブロ様と、その隣であわあわしている母。


 何かあったのかな?





―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「修羅場だ修羅場だひゃっほいひゃっほい。皆さんご一緒に!!」



「王子様格付け完了してて草」「作者のテンションで草」「修羅場だ修羅場だひゃっほいひゃっほい」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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