第21話 高1 ・ 1月

4時前に神社の鳥居の前に着くともう雄太郎が大きなリュックを背に待ち構えていた。


「「あけましておめでとう。今年もよろしく。」」


神戸市内で一二を争う初詣客が多い神社だが、流石にこの時間は少なかった。


『今年は楽しく、仲良くしたいです!』

今年の目標、小学生みたいなやつを神様に報告した。


そして、お守りや熊手なんかが売っているところに向かうと、

上品に手を振っている白い小袖、緋袴の美人さんがいる!二人も!


「「あけましておめでとう!!」」

「「おめでとうございます!」」


「可愛い!カッコイイ!写真撮らせてよ!」

辺りに誰もいなかったので、大興奮の雄太郎がリュックからカメラを取り出した。


ユイカが立ち上がって、気取ったポーズを取ると、雄太郎が激写していく。

「どうよ!」

「いいね!」

「これは?」

「最高!」

「じゃあ、これ!」

「かっこいい~!」


ユイカが色んなポーズを取ると、雄太郎が歓喜の声をあげて激写、

このループがしばらく続いた。


こいつ等、息ぴったりだ。

悠里と二人、唖然としてしまった。


その後、ユイカにお守りを無理やり買わされてしまった。

縁結びのお守りで、赤、黄、青、緑の4色あって、この4人でコンプリートだって。


巫女を終えてから4人でおみくじを引いた。

その結果は、ユイカ、雄太郎は大吉。

俺と悠里は末吉と微妙だった。


ユイカは俺と悠里のおみくじを取り上げ、見比べるとニヤニヤしだした。

「ふふふ。恋愛運なんだけど、アンタたちの二つとも、「叶うが時間がかかる。」

って書いてあるよ。一緒に叶うんだってさ!」


「「あははは!」」

悠里と二人、期せずして胡麻化し笑いしてしまった。


「はら、やっぱりピッタリだ!」

ってさらに、ユイカにニヤニヤ笑われた。


六甲ケーブルの始発に乗って、六甲山を登っていく。


初日の出を六甲山頂で見たいという人が大勢乗っていた。

「こんなに寒いのに大勢行くんだね?」

「やっぱり、初日の出は特別だよ。」

「だよね。」


風はないものの、山頂だけあって凄く寒い。

「寒すぎるよ・・・」


すぐさま、ユイカと雄太郎はダウンジャケットのフードを被ったけど、

悠里も震えているが、そのダウンジャケットはフードがついていなかった。


1時間以上もそのままなんて、見ていられない。


俺は悠里にもらったニット帽を脱いで、悠里に微笑みかけた。

「じっとしていてね。」


そして、そのニット帽を恥ずかしそうにしている悠里に、

耳も寒くならないように丁寧にかぶせた。


「ちょっと。金吾が寒くなっちゃうよ!」

悠里が顔を真っ赤に染めながら、口をとがらせた。


「大丈夫、俺のはちゃんとフードがついているから。

風邪ひいたら、巫女さん、もうできなくなるよ。」


「・・・ありがと。」

「うん。」

二人テレテレしていたら、「死ね!」ってユイカに蹴っ飛ばされた。

「痛い!」


そんな風に、4人とも寒さ対策をしているものの、想定がまだ甘かったみたい。

特に足元が寒い、寒すぎる・・・

日の出までまだしばらくあるぞ・・・


「はい、これ。」

雄太郎が差し出したのは100円ショップで購入したカッパ4セット。


「これは・・・」

「パンツの上から穿けば温いぜ。

ずっと前に買ったやつだから、ここで破れてもいいぜ!」


「雄太郎!アンタってやつは!」

「最高だよ!」


靴を履いたままカッパのズボンをはいたらずいぶん寒さが和らいだ。

「雄太郎、助かったよ。」

「うんうん!」


もうしばらくして、日の出の時刻が近づいてきた。


東の空が黒から紫に、そして赤く染まっていく。

「あっ!」

山の上から、小さな光が差してきた!


「初日の出だ!」

みんなの歓声があがり、何人かの人を真似して、

俺は柏手を打って祈り始めた。


祈り終わったら、悠里の視線を感じた。

「ねえ、結構長く祈っていたけど、何を祈っていたの?」


「・・・まあ、いいか。えっと、悠里と雄太郎、ユイカ、あとついでにお姉の幸運を祈っていた。」

「ありがとって、うん?あれ?金吾の幸運は?自分の分は祈らなかったの?」


「うん。初日の出を待っている間に、去年の初詣のことを思い出したんだ。

夜木紗季と付き合えますように!

高校入試、一緒に合格出来ますように!

って祈って、実際、ご利益てきめんだったんだけど。

そんなことを思い出したら、自分のことをお願いしたくなくなったんだ。

まあ、さっき神社では自分の幸運もつい祈っちゃったんだけどね。」


悠里は一瞬だけ表情を曇らせたけど、すぐにてへって笑った。

「・・・去年の私も一緒だったよ。だけど、今年も祈っちゃった。」


「神様だって、お願いされたことが多すぎてそんなの気にしてないさ。

そうしたら、自分の決心を報告するって物語の主人公が言ってたのを思い出したんだ。

だから、自分の分は「勉強を頑張る。友達と仲良くする。」

って報告したよ。」


「ふふふ!それって子どもみたい。」

姿を半分見せた日の出を見ながら、悠里はコロコロと笑った。

「自分でもそう思った。だけど、高2なんて後はクラブ頑張るくらいだろ?」


東の空からどんどん明るくなっていった。


「やった!イイ感じに撮れたぜ!」

「えっ~、勝手に撮らないでよ!私は右斜め45度じゃないとダメなの!」

とかいいながら、ユイカが雄太郎のカメラを覗いた。


「うわぁ、綺麗。アタシじゃないみたい・・・」

その呟きを聞いて、「だろ?だろ?」とますます得意そうになる雄太郎。


俺と悠里も見せてもらった。

そこには、半分頭を覗かせた真っ赤な太陽をバックに、

ユイカのアップが写っていた。


ユイカは目をつぶり、両手を合わせて祈っていて、

白い吐息がますます幻想的な雰囲気を漂わせていて、すごく綺麗だった。


「おいおい、天才カメラマン爆誕かよ?」

「おいおい、今頃、気が付いたのか?」

「うわあ、肯定しちゃったよ!」

「ここだけの話だぜ?」


それからは、みんなでたくさんの写真を撮って、みんなでシェアしたよ。


初日の出を待っている時間が長くて、凄く寒かったけど、

1番乗りだったからベストポジションを確保できて、

お宝写真たくさん撮って楽しかったよ。


帰りの電車に乗って、俺、悠里、ユイカ、雄太郎と並んで座ったのだが、

悠里が立ち上がって俺の前にたった。


「金吾、ありがとう。お陰でずいぶん暖かかったよ。」

そういって、貸していたニット帽を脱いで、俺に優しくかぶせてくれた。

ユイカと雄太郎、その他の乗客の視線を強く感じた。


こんな風に返してくれるのを期待していたのに、

されてみたら、めちゃくちゃ恥ずかしかった。


「それって、自分が良いのをプレゼントしただろ?感謝しろよってこと?」

また隣に座る悠里にむかって、照れ隠しにそういうと、

「あっ、そうだったね!これ、私が買ったんだ!流石、私!」

「わざとらしいな~。」


電車の中は暖かかった。


悠里とユイカは徹夜で巫女さん、初日の出とイベントをこなしたから

疲れていて、眠そうだった。


「疲れただろ?

駅に着いたら起こしてあげるから、目を閉じたらどう?」

「うん。ありがとう、そうするね。」


悠里はニッコリ笑い、目をつむるとたちまち、コックリコックリと舟をこぎだした。


そして、俺の肩に頭を載せた!

悠里を起こしたりしないよう、じっとしていた。

っていうか、緊張して動けない!


ロボットのように、頭だけをほんの少しだけ左に向けると、

同じようにユイカが雄太郎の肩にもたれて眠っていて、

やっぱり同じように雄太郎は嬉しそうだが困惑していた。

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